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友達、ともだち

1−1 友達


 ひょんなことから、自分とは正反対のギャルに告白され、「お友達」という形で始まった不思議な関係。

 (明日からどう接すればいいんだろ。あっちは元々仲が良い友達が多いだろうし。)

 そんなことを考えながら帰路を真っ直ぐ進んで行く。彼女は確か、友達とファミレスとか言ってた気がする。

 (そういうこと、するのかな……。)


 高校に入学してから、これと言った友達がいない私。流石に軽く話すくらいの人ならいる、けど。特定の、所謂「ずっと一緒♡」みたいな人はいない。ペアワークは基本、周りが空気を読んで声をかけてくれる。そんなのでいいのか花谷……。いいんだぞ。だって無理やり関係を作ったって足枷にしかならないと思っているから。今までの人間関係で、うまくいった試しがないため、どうしても卑屈になってしまう。そもそも、自分の性格的に人に合わせるのが下手くそなのだ。社会不適合者すぎる。


「ただいまー。」

「おかえり。お昼はこれね。帰ってくるの遅かったから、先に食べちゃった。」

 

 家に帰ると、母が出迎えてくれた。母は専業主婦だ。物心ついた時からそうだったので、疑問に思ったことはない。だが、この家を支えているのは間違いなく母である。料理の腕前はプロ並みだし、家事が完璧にできるのだ。そのため、我々家族は母には頭が上がらない。いつも家事を任せすぎて、自分たちだけでは何も出来ないからだ。

 いつかの将来のために、と親が真剣に家事を私に教え込もうと話し合っていたこともあった。その時は、やる気が一切無いので無理でーすと言って誤魔化したが、やっぱり身につけておいて損はないな、とも思う。

 ……自分は、将来どのように過ごすのだろうか。そんな漠然とした疑問に答えを出す前に、用意されたご飯を口にかき込んだ。食べ終わる頃には、自分が何に悩んでいたかなんてとうに忘れかけていた。


 ♦︎♦︎♦︎♦︎


 昼食を食べて、2階にある自分の部屋へと向かう。部屋へ入り、荷物を適当に床へと置く。どっと疲れた感じがして、ベットへと倒れこむ。ふかふかの布団が気持ち良い。なんだか、ようやく現実に戻ってきたような気がする。

 

「13時30分、か。」

 

 スマホで日付を確認するが、何も変わったところはない。……やっぱり夢だった、とかいうオチはないようだ。

 

「どうして、私なんかを……」

 

 東さんのスペックを考えると、どうしても自分には不釣り合いである。そもそも、私なんてスクールカースト的には下の下なのだ。顔も……うん。言わないでおこう。外に出てショッピングとかするよりも、家でゲームをしていたい派。重たい黒髪で常に顔が隠れていて、陰キャオーラ全開の私。それに対して完璧超人の東さん。勉強も、運動もできて、誰からも好かれていて……そんな人が自分に惚れるだなんて考え難い。やっぱり罰ゲームとかなんじゃ……。うっ、胃が痛くなってきたかも……。


 ピコンッ


 通知だ。珍しい。スマホに入れているソシャゲやアプリの通知は常にオフにしてあるし、連絡をくれるような友達もいない。……友達、ね。まさか。だって連絡先教えてないし。

 恐る恐るスマホを確認すると、そこにあったのは「SUZUNE」という名前の人からのLINE通知。すずね……ってやっぱり、東さん、だよね。


 『やっほ〜⭐︎これからよろしくね!!』


 送られてきたのは簡単な文章だった。返信、するべきなのだろうか。最近のメッセージアプリにはリアクション機能がついている。いわゆる、既読無視戦争を終わらせるためだ。幸い、短い文章だったので通知だけで全文を確認でき、まだ既読はつけていない。どうしようか。

 

「『どうして私の連絡先を?』……いや、だめだ。なんか圧を感じるし、嫌ってるみたいだ。別に、そういうわけでは……ないし。」

 

 わざわざメッセージをやり取りするような友達もいなかったので、こういう時はとても困る。受け取り手がどう思っているかがわからないから、メッセージ上ではトラブルが起こりやすい。もしも、これで変なメッセージを送ってしまっていたら。きっと明日にはクラス中からの笑い物になる。いや、今も別に笑われてるかもだけど!!とにかく、キラキラ陽キャの方々に『えー、あいつがさぁー。』なんて話題になることが無理だ。なるべく彼らと関わりたくない……。いや、あの、東さんが嫌とか、そんなんじゃなくて……って誰に弁解してるんだか。

 

「『こちらこそよろしくお願いします。』これでいいかな。送信っと。」


 送信ボタンを押した途端、肩の力が一気に抜けて、再びベットへと崩れ込む。

 

「一生分の体力使った……」

 

 天井を見つめながら、今日あったことを思い返す。思い出せば出すほど、夢なんじゃないかと思えてきた。いっそのこと、夢であっても欲しいが。

 ペンギンの抱き枕を抱いていると、だんだん意識が遠くなっていった。

 

「ちょっと、おやすみぃ……。」


 時刻は14時。優雅なお昼寝タイムのつもりが、寝過ごしてしまい、予習に追われることになるのは、また別のお話で。


 ♦︎♦︎♦︎♦︎


「今日の時間割何?」

「うっわ、圭ちゃん先生じゃん。実質自習とかうれしー。」


 いつもと変わらない、教室。朝の雰囲気に何も変わりはない。が、変わったことといえば――

 

「おはよ!美咲ちゃん!!」

「……おはよう。東さん。」

 

 こうして朝から私の机に来るはずのない来訪者が訪れていること。どうして、いや、うん。友達、なんだもんな。これくらい当然――

 

「ねえ、ずっと思ってたんだけど。もう友達なんだからさ、その『東さん』って言うのやめない?なんか距離感じるー。」

「じゃ、じゃあ何て呼べばいいん、ですか。」

 

 こんな朝イチから、自分なんかに東さんが話しかけてくれている。何も事情を知らないクラスメイトたちは、急に変わった東さんの態度に驚いている、と思う。さっきから、視線が……痛い気がする。

 

「うーん。下の名前がいいなー。」

「す、すず、涼音……さん。」

「本当は敬語もやめて欲しいんだけど、ま、いっか。一歩前進!」


  私からの態度まで変わってしまったら、それこそ学級会議が開かれそうである。不敬罪で牢へと連れ込まれてもおかしくない。いや、いっそのこと牢屋へ送ってでもくれたら、気が楽なんだけどなぁ……


「じーっ。」


  み、見られてる。すごく真剣に。なんだか不思議な感じがして、そっと目を逸らした。すると急に彼女は


 「えいっ。」


 私の頬を突いてきた。


 「ひゃっ!」


 普段なら絶対に出さないような声が出てしまい、恥ずかしくて余計に顔を伏せた。


 「……なんで?」

「ふーん。そんな声出すんだねー。」

「いやだからなんで急に……」

「友達、でしょ?これくらいするよー。」


  そうなのだろうか。高校生の距離感は、正直に言って難しすぎる。これは東さんがギャルだからなのかどうかもわからない。


 「……もう少し人と喋んなきゃかな。」

「えっ。いいよ。わたしがいるじゃん。」

「東さんとの会話で失敗したくないから言ってんの。」

「気にしなくて良いのに。わたしはもっと美咲ちゃんのコト、知りたいなー。あと、呼び方戻ってる。」

「…………ごめん。涼音さん。」


  コミュニケーションというのは、ここまで難しいものなのか、と痛感する。緋色の瞳に見つめられ、質問詰め。もしかしたら、明日は季節外れの大雪が降るのかも。


「…………わたし、知ってるから。」

「???」

「ううん、なんでもないっ!」

「え、ちょっと……」


  咄嗟に自分の席を離れる彼女の手を取ろうとして、諦める。流石に触るのは違う、かな。


「知りたい?」


 そうやって微笑む彼女の顔は、朝日に照らされ、直視できなかった。


「……まぁ。」

「だめ〜。これは、もうちょい仲良くなってからね!」


  なるほど。やはり、「友達」にはランクがあるらしい。

 そんなことを言って東さんはそそくさと彼女の座席へと戻っていった。彼女が椅子に座ると同時にホームルーム開始のチャイムが鳴る。

 ……そういえば、彼女がチャイムが鳴っても友達と喋っていたり、席を立っていることは今までなかったな、と気づいた。ギャルに見えるあの子も、案外、いや、実際、超が付くほど真面目なのだ。

 (それと比べて私は……)

 また、気がつけば自己嫌悪の渦に囚われている。自己肯定感が低いことを、完全に悪だとまでは思わないが、ここまで酷いとメンタルに来るものがある。

 どこを切り取っても完璧な彼女と、どこを切り取っても欠点しかない私。ますます、彼女が私のことを好きだということが信じられなくなる。

 (まずは友達から……って。私が言えた立場じゃないよなぁ。)

 彼女のことを知らないまま断るのは、嫌だった。ただ、それだけの理由。彼女のことを知っていって、いつかは――

 自分のことも、好きになれるかもしれない。

 なんて、そんな日が来ることはまずないだろう。

 ホームルームの担任からの話を聞き流しながら、そんなことを考えていた。


 ♦︎♦︎♦︎♦︎


「よろしく!花谷サン!!あれ、ちゃんと話すの初めてだよねー?」

「あっ、はい……。」


 そしてその日の昼休み、私は彼女の()()()と昼食を食べることになった。なぜなんだ。

 昼休みの始まりを告げるチャイムの音が鳴り、いつものように手を洗って自分の席に座ったら、急にいつものキラキラ東さんたち三人組が私の机へとやってきたのだ。初めは、「何事!?」と焦りあたふたしてしまったが、どうやら東さんが提案したらしい。事前に他の2人には伝えてあったとのこと。……なぜ私への連絡は直前なんだ。思い返すほど、東さんの行動は謎が深まるばかりだ。考え込んでいると、自然と眉間に皺が寄っていた。


 「あっはは。そんなに怖がらないでいいよー。よろしく、美咲っち。」


 確か2人は……比較的明るい方が七海(ななみ)さん。いつも髪を下ろしてしっかりと巻いていて、邪魔にならないのかいつも気になっている。

 おっとりとしているクール系の方が梶原(かじはら)さん。おとなしそうに見えて、実はコミュ力が高い。

 2人ともバチバチのタイプの違うギャルだ。


「わたしからも、うちの美咲ちゃんをよろしくお願いします、なんちゃって。」


 東さんがそんな冗談を口にする。正直私は気が気ではなかった。急にこんな状況になった驚きと、ギャルに囲まれている緊張感でどうにかなりそうだ。


 「めちゃ緊張してるじゃん。ほら、(とおる)が怖い顔してるからー」

「えー?そんなことないでしょ。アンタがうるさいからじゃないの?」

「この2人のことは置いておいて、今日から毎日一緒に食べるんだから、少しずつ慣れなよ。」

「毎日!?」

「うん。せっかく()()になったんだから。ね、いいでしょ?」

 

 上目遣いでそんなことを頼まれても……


「いつも1人で食べてるんだし、今日くらいはさ。」


  なんて失礼なやつだ。私は「仕方なく」1人でご飯を食べているのではなく、「自分から」1人でご飯を食べているのだ。決して、声がかけられないまま時が過ぎて、気がつけばグループが出来上がっていたとかではない。


「わたし、美咲ちゃんと食べたいなー?」

 

 ゔっ。やめて。そんなキラキラした目で見ないでくれ。かつてない速さで私の眼が右往左往している気がする。


「……まぁ、別にいいですけど。」

 

 言ってしまったぁぁぁ。そもそもこんな私がキラキラギャルのお願いを断ろうだなんて失礼なこと、できるわけがなかった。くっ……最初から選択肢なんて私にはなかったのだ。なんだか他の2人がニヤニヤしながらこっちを見ている。悪かったな、こんな性格で。


「よかったじゃーん!昨日もずっと心配してたんだもんね!」

「ちょっバカっ」

「『大丈夫かな?本当に嫌にならないかな?』ってね。」

 

 どういうことだろうか。クラスカーストが明らかに違う私を誘い出すことに配慮が必要だろうか、と思ったがこの人は()()()()()だった。共に過ごした時間はまだ半年で、そこまで仲良くしていなかったはずだが、彼女が誠実な人だとこんな私でもわかる。……ほんと、できた人間だなぁ。

 笑いながら東さんをからかう2人。私も、2人みたいに戯れ合う日が来るのだろうか。想像できないが、私は東さんと一応、友達。遠慮なく笑い合える関係が羨ましいかと言われたらそうでもない。だが、なぜか胸の辺りがムッとした。……きっと、今自分は不安なのだ。


「ね、今透と莉子(りこ)が言ったことは忘れてよ〜!」

「えっと……はい。分かりました。」

「めっちゃ堅苦しいじゃん。やっぱり私達と一緒にいるの辛いんじゃない?」

「そりゃあ前まで一切関わりなかったからね。急に仲良くってのは難しいんじゃない。」

「でもでも、今日からはもう()()!美咲っちもタメでいーよ!」


 そう言って七海さんは私の肩に手を回した。もしかして女子高生はみんな距離感がおかしいのか?普通、話して数分の人に抱きつくか?……今更、常識とか普通とかを彼女らの枠で考えるのは違う気もするが。


「もうっ!早くご飯食べないと、2人とも食べ終わらないよ?」


 なぜだかわからないが、東さんが頬を膨らませて2人を私から引き剥がした。3人が話している間に、自分のお弁当を片付ける。いつもと違う昼休みは、普段より少し過ぎるのが早く感じた。


「よし、歯磨き行こ。」

「あっ……はい。」

「『うん』でいいの!ほら、タメでいいって言ったでしょ?」

「……どうしても、ですか?」

「どうしても!」


 困ったな。私は他人と話す時は基本敬語だ。だって、相手の方が自分よりもすごいから。尊敬するべき相手に敬語を使うのは当たり前で、マナーであり、この世界のルールとも言えなくない。


「またすずが美咲っちいじめてるー。」

「いじっ……!そんなつもりはまっっったくありません!」

「コイツに何かされたら、私達に相談してね。」

「あっ、いや、その……嫌ってわけでは……ない、ので。むしろ……嬉しい、です。」


 そう返すと、2人は少し間を空けてから、顔を見合わせた。何か変なことでも言っただろうか。その後すぐに東さんに手を取られ、水道へと向かった。私の手を取り前を行く彼女の顔こそは見えなかったが、耳が紅く染まっているのが見えた。


「いやー無自覚って怖いわあ。」

「だね。涼音が惚れるのもわかるかも。」


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