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プロローグ


美咲(みさき)ちゃんの事、絶対振り向かせて見せるから!!!」


 夏休みが明け、前期後半が始まった日。始業式が終わり放課後ムードの時間帯。私は人生で初めて同性からの告白をされた。あまりにも急すぎて、混乱している私は、その場で立ち尽くすしかなかった。


♦︎♦︎♦︎♦︎


 私の名前は花谷美咲(はなやみさき)。どこにでもいる普通の女子高生、いや、どちらかというと不良娘だ。中学までは、勉強をしなくてもほどほどに良い点数が取れていたので、そのままの感覚で高校に入り、勉強という壁に打ちのめされているような日々。授業こそは真面目に受けているものの、提出物も成績も、とても褒められるものじゃなかった。中学から通っていた塾に引き続き通ってはいるものの、高校生活の約4分の1が過ぎ去ってもなお、一向に成績が上がる気配すらなかった。かと言って、「頭が悪い」と評判になっていることもない……よね?とりあえず、そんな噂は聞いたことがないくらいではある。何を隠そう、この学校は超が付くほどの進学校なのだ。これまでの学校生活で、いじめだとか、そういった噂は聞いたことがない。

 そんな、どこにでもいるような、ただの高校生の私に手紙が届いた。

 『放課後、教室で話があります。』

 怖怖怖怖ぁぁあい!!!今まで、クラスの中では()()まともな皮を被れているはず!!誰かに変なこともしていないし、目立つようなことは何も……。そしてこの手紙の文字!!!ありえないくらいに綺麗な字。私は、いや、このクラス人なら見覚えがあるだろう。(これ、東さんの字だよね!?!?)


 東涼音(あずますずね)さん。クラスの中でも、その……なんというか、ギャルって感じの子。でも成績は凄く良くて、学級委員長をしてる人。板書の文字が綺麗だってみんなから言われてる。とにかく、敵がいないっていうか。教師含め、いろんな人から好かれている人。……私とは、まるで月とスッポンだ。正反対の、関わることがないような、そんな人。

 だが、問題はこの手紙だ。()()()()から手紙をもらってしまっている。考えうる要件は……

『ねぇー。いっつも暗い顔してつまんないから、消えて♡』

 いやいやいやいやいや。そんな人ではない……はず。困っている人がいたらすぐに助けるような、非の打ちどころのない善人。でも、なんかちょっと怖いんだよなぁ。だから、こんな妄想してしまうわけで。


 そんなことを考えながら、チャイムが鳴る。


「起立、姿勢、礼。」


 夏休み明け、久しぶりの委員長の号令。すぐに騒がしくなる教室。そんな中でも、友人と話す彼女の声だけは、自分の耳にはっきりと聞こえていた。

 (綺麗な声だよなぁ。)

 そんなことを思いながら彼女を見る。放課後、つまりはもうすぐ。彼女のような太陽みたいな人が、こんな自分に?そもそも、差出人が彼女だと決まったわけではないし……。とりあえず、待っておくか。そう思い、荷物をまとめようとしたところで、彼女と目が合った。

 

「!!!!」


 まずい。いくらなんでも、じっと見過ぎだった。


 そりゃあ視線も感じるよなぁ。心なしか、顔が赤い気がする。気を紛らわす為に、さっさと荷物をまとめだす。いつもなら整えられているリュックの中身が、段々と汚くなっていった。

 (なんでこんな焦ってんの自分!!)

 目が合っただけで焦ってしまう理由は、自分にもわからなかったが、妙に悪い気はしていなかった。


 ♦︎♦︎♦︎♦︎


 教室に残ったのは、私と、東さん達のグループ。

 (想像以上に気まずい……!!)

 さっきからチラチラと視線を感じる、気がする。一方の相手方と言うと、


「ねぇ、この新作コスメ。激ヤバじゃない!?」

「超ウケるーwってかもうすぐ単元テストでしょ。そんなの見てる暇あんの?www」

「いんやー大丈夫なんだなー。だってもう、先生に見限られてるからね。」

「全然大丈夫じゃないやんけ。」


 いつ終わるんだこれ……?拷問か何か?もしかして、手紙の差出人はこんな拷問を受けさせる為にあんな手紙を……?いやいやいや、ないだろ。首を振って自分の思考に強制的に終わりを告げる。そろそろ、帰ってしまおうか。どうせ待っててもこの調子じゃなぁ……。

 読んでいた本に栞を挟み、鞄へと戻していく。荷物を持って帰ろうと立ち上がると、また東さんと目が合った。東さんは慌てた様子で


「わたし、今日この後先生に質問に行くからさ。2人とも、先帰ってて。」

「えー。ファミレス行くんじゃないの??」

「後から合流する。」

「んじゃ、いいか。バイバイ!」


 ……いや、うん。最高に気まずい。2人の後を追って、自分も教室から出よう。そうしよう。いつにも増して早歩きで扉の方へと向かったが、そこには東さんが立っていた。


「ねぇ、読んだでしょ。手紙。」

「あっ。はい。」


 咄嗟に返事をしてしまったが、つまり、手紙の差出人はやっぱり東さんで間違い無いらしい。東さんはそのまま、扉を閉めて私の肩をつかんだ。


「えっ、あの……」


 無言で私の体を押す東さん。とりあえず引き下がる私。一体何をしたいんだ??


「あのさ!」

「は、はいっ!」


 縮こまった体で、恐る恐る彼女の方を見る。


「そんなに驚かなくとも。」

「あっ、いや……ごめん。」


 コミュニケーション下手が露骨に出ている。どうしよう、困らせてるよね……


「えっと、それで……用事って?私、何かしましたか?」


 やっぱり真っ直ぐ聞くのが手っ取り早い。こういうせっかちなところがあるせいで友達がいないのかもな……。


「ううん、勇気を出さなきゃ、だよね。」

「??」


 東さんが何かを呟いていたが、私の耳には届かなかった。


「あのね。花谷さん……美咲ちゃんで、いい?」

「う、うん。」


「ずっと前から、美咲ちゃんのことが好きでした!私と付き合ってください!!」

 

 え?


「それって、どういう……」

「そのままの意味!美咲ちゃんのことが、好きなの!恋愛的に!」


 好き?東さんが?誰を?私ぃ???いやいやいやいや聞き間違いだよきっと!!!

 

「ごめん!変……だよね。あはは。」


 静かな2人っきりの教室に彼女の音が響く。その音にハッとして、顔を上げた。

 そこに居たのは、見たこともないような顔をした東さんだった。少し涙目で、でも無理やり笑顔を作っていて。


「忘れてほしい。……ワガママでごめんね?」


 そんな、そんな顔をして言わないでほしい。


「嫌。忘れたくない。」


 気づいた時には、私の口は動いていた。


「なにそれ。噂でも広げるつもり?コイツは女が好きだって。」


自傷気味に彼女が言う。眉間に皺を寄せ、目を細めて。


「そんなことしない!するわけ、ない。」

「だったら何?」

「そ、れは……。」


 言葉に詰まる。人生で初めて、ギャルに詰め寄られている。でも、考えてみれば、彼女の方が辛いはずだ。同情?そんなのじゃない。だったら、何故だ?()()()()()()だなんて思ってしまったのは。この感情は、きっと――


 憧れ。私、東さんに憧れてたんだ。誰とでも話ができて、頭が良くて、愛嬌があって。自分にないものを全て持ち合わせているような、彼女に。憧れていたから――


「私、あなたのことがもっと知りたい、です。」

「へ?」

「同じクラスになって、キラキラしてる東さんを見て、凄い人だなって素直に尊敬しました。でも、私が知ってるのは、そんな()()()()()()()でしかなくって。さっきの告白で、初めてそれ以外の東さんを知れた、から。だから、忘れたくない。忘れない。」

「…………」


 東さんが呆気に取られた顔をしている。まずい、変なこと言っちゃったかもぉ。気まずい沈黙の末、少し顔を赤くしながら、東さんが口を開く。


「それって、告白の返事は……?」

「あ、えっと……その。まだお互いに何も知らない、から。お友達から、とか?」

「女同士に抵抗無いの?」

「べ、別に……偏見とかは無い、と思います。なんなら男の人のほうが怖くて苦手、かも。」


 すると、東さんが目を輝かせて私の両手を取った。あまりにも突然な動きと、案外強い力で引き寄せられたことで、東さんとの距離はほぼ無いに等しくなる。

 こうやって間近で見ると、整った顔立ちをしていると思う。何なら出来ないんだこの人は……?


「じゃあ、戦いだね。」

「たたかい?」

「うん。わたしにとっての、()()。」


 そのまま、ぐいっと抱き寄せられる。近い。今までこんなに人と近づいたのは小学生ぶりだと思う。


「わたしが、美咲ちゃんを惚れさせてみせる!なるはやで!だから、まずはお友達からでもいーよっ!たっくさんの時間を一緒に過ごしてぇ、わたしを好きになってもらうから!」


 なにやら、凄いことを宣言されている気もする。抱きしめられていた腕を下ろされ、少しだけ距離を取る。彼女の顔は、耳から首まで真っ赤だった。


「これからよろしく!美咲ちゃん!」

「……よろしくお願いします。東さん。」


 お互いに苦笑い。だが、そこに流れる空気に気まずさは一切存在していなかった。


「美咲ちゃんの事、絶対振り向かせて見せるから!!!」


 そう言って笑いながら教室から駆け抜けて行く彼女に、数分前のような重々しさは感じられず、むしろ、晴れ渡ったような表情をしていた。まるで、太陽みたいな――


「私もそろそろ、帰んないと。」

 まとめられていた荷物を持ち上げ、椅子を机に入れた。


 形はどうであれ、新しい()()ができたのだ。鏡を見なくとも、自分の顔がニヤついているのがわかった。

 (なんだか、ポカポカする。)


 いつもと同じ道を、いつもよりも浮かれた気持ちで歩いて帰った。雲ひとつない、晴天。太陽の光が、何にも遮られる事なく身に届く。まだ、今日はお昼前なのだ。だが、もう私にとって今日という日は、嬉しい日へと置き換わっていた。

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