アマトたちの日常
6月4日。僕たちは休日をアルバムの編集に充てた。ソレが済むと次は試写会の準備。内輪でしかやらないが、撮り溜めた写真もビデオもかなりの豊作。僕たちは正面からでなく脇からの撮影を心掛けた。そうすることで更紗たちを安堵させたのだ。僕は更紗。セレイは透子。ダックは彩香。ルスカは伽耶がメインだが、浴衣の陰に隠れた彼女たちの可憐な乳頭や淡い乳輪がクッキリと浮き彫りにされていった。ソコには32歳も14歳もなく、僕たちは更紗たちとの再会に思いを馳せた。試写会が始まった。まず僕が更紗のビデオを見せたが、反応は上々。天然でおっとりした和風美人は[ナイトメア]の高杉理恵の母親を彷彿とさせた。続いてセレイ。おかっぱ頭の透子は母親のミニチュア版だが、発育が遅れ気味の小ぶりなふくらみが実にキュート。「悪くないな」「伽耶と比べても何ら遜色ない」次はダック。理知的な彩香だが、冷たいイメージはない。「のめり込むタイプとみた」「落ち着いた女性ほど堕ちた時とのギャップが大きいもんさ」最後はルスカ。伽耶のメガネっ子が前半。後半がコンタクト。「このあたり透子より一枚上手だな」「魅せ方を自覚してる」理知的な顔立ちは母親譲りだが、冷静沈着な子の方がなぜか参戦にどんどんのめり込む傾向が強い。だが天然タイプと冷静沈着なタイプのコンビを堕とすのは僕たちバロンの生きがいであり、甲斐性でもある。「誰だって堕される前は毅然としてて女神なのさ」「だからこそ僕たちがいるんだ」僕たちは行きつけの喫茶店[バラライカ]へ行き腹ごなしすることにした。すぐに馴染みの女給さんが注文を取りに来たが、夏服は白のセーラーに深緑のミニスカート。女給さんは中学生くらいなのに丈が名古屋の女子高生並み。このお店はビーフカレーがうまく、僕たちはなま卵をトッピングして女給さんに笑われた。だがソレは嫌な笑いではなく、彼女たちの無邪気な笑い。「コレはな、最先端のトッピングなんだぞ」と僕たちは主張したが誰ひとりとして真に受けはしなかった。お店を出た僕はうめいた。「イケてないのか?」「アマト、僕たちに明日はある。バイファムの教えがあるじゃないか」「バイファムだと?」「何だソレは?」ルスカはこんな話を始めた。確か[バイファム]だと思うが、とあるアニメで主人公たちが乗る宇宙船内でエロ本が出回り、ちょっとした騒ぎになった。「それで?主人公たちはオトコらしく毅然と振る舞ったのか?」「いや僕たちと変わらないさ」「・・・・・」一瞬気まずい沈黙が流れたが、僕たちは歩き始めた。ルスカは博識だが、時おり僕たちの斜め上を行く。僕たちは映画館に行き[瀬戸内シージャック]を見た。1970年代の空気が圧縮されたかのような事件だが、リアルでは完全に忘れ去られた。だが[金嬉老事件]で手を焼いた日本のいかついポリスメンは武装組織に対抗すべく、特殊部隊みたいな組織を編成した。名前は忘れたが、ソレが初めて実戦投入されたのが瀬戸内シージャック事件なのだ。だが僕たちにそんな知識は微塵もなく[トッポイ兄ちゃんが起こしたシージャック事件]だと認識するにとどまった。むしろそのあとに見た[カズワン]が印象的。カズワンは山口の造船所で産声を挙げた。もとより瀬戸内海を主戦場とするべく建造された小船だから高波に極めてもろい。だが瀬戸内海のフェリーは電車より揺れないくらい静かで穏やかなのだ。しかも40年くらい前に建造されたからかなりのボロ船。コレを知床の外洋で走らすなんてあり得ない。更にカズワンの船長は生粋の海のオトコではなく、水陸両用車のドライバー。いわば戦車兵みたいなイケイケに過ぎず、彼はコレまでの船長みたいに漁船の動きを全く見ていなかった。わざわざ同業他社の人が無線で危機を知らせたのに彼はソレを生かせず冷たい知床の海に沈んだ。僕たちは最後に[ネロの木靴]を見た。[フランダースの犬]の続編だが、ネロはクリスマスイブの夜にパトラッシュとともに教会に行く。ソコでは有料でルーベンスの絵を見ることができたが、彼は絵を隠したベールを荒々しく引き剥がす。とてもネロの所業とは思えないが、もちろんアニメでは触れられていない。彼は木靴を脱ぎ、愛犬に「一緒に死のう」と呼び掛ける。教会の人たちは困り果てた。自殺ではネロの葬儀が行えないからだ。ソコで彼らは窮余の一策として彼に木靴を履かせた。つまりネロを自殺ではなく凍死扱いにしたのだ。木靴を脱げば体温が奪われる。彼は自ら死を選んだが、アニメでは凍死扱いされた。僕たちは話し合いを重ねたが、なぜ作者がネロの自殺にこだわったのか結論は出なかった。「ウィーダは精神を病んでいた」「教会へのあてつけかな?」「凍死じゃ迫害され続けた彼が浮かばれんよ」「加害者への復讐さ」加害者の罪は誰も裁かないし被害者の死とともに忘れ去られる。ウィーダにはソレが許しがたかったのだ。