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更紗と彩香の日常

6月2日。透子と伽耶が登校した。私と彩香は私の部屋でリモートワークに励むのがルーティン。だが先日の女子旅の余韻がまだ抜け切らない。「女流作家に戻りたいわあ」「私もよ」リアリストの彩香にしては珍しい。「特異な実体験が積めるかもしれないわ」私たちが挫折したのは[特異な実体験がないから]に尽きる。だが異世界へ参戦すればイヤでもソレが積めるのだ。ノワによればブランカ公国はバロン制度を採用し、38歳から47歳までの中年男性兵士がバロンを務める。本業は実にさまざまだが[飲む打つ買う]は不採用。性犯罪者や前歴のある者もバロンにはなれない。前歴は未成年者が共学又は男子校時代に犯した罪を指すが、よほど悪質でない限り校内雑務や便所掃除で済む。かと言って彼らはエリートではなく、いわば別働隊。天下を取る前の劉邦が率いた部隊に似ているが、冴えないおじさんたちはリアルで求められず、ブランカ公国がお荷物の名古屋で事務所を開いたのは自然の流れ。参戦する子のレベルが低くはないのだが、単純に名古屋が衰退したから低く見られるだけ。エージェント活動は異世界への理解がないとまずムリ。人前で露出度高めのコスチュームに身を包むだけでムリな子がいる。異世界での研修ではコスプレ喫茶のヘルプがあり、店内でのお触りがふつうにある。もちろん幼い子には手心が加えられるが、中にはそれでもムリな子がいる。潔癖症では前に進めず、参戦はそんなに甘くない。私たちはそれなりに挫折を経験してきた。夫の不倫や離婚。女流作家としての挫折。そして街コンでの挫折。32歳と14歳は参戦の適齢期であり、コレを過ぎればキツい。愛娘との体力差が開けば私たち母親はお荷物でしかない。32歳はぎりぎり私たちが娘たちをリードできる年齢なのだ。だがこれ以上歳を重ねれば私たちは体が持たず透子たちのお荷物に成り下がるしかない。かと言って娘たちが幼すぎれば彼らに勝ち目はなく、私たちは母娘仲よく食われちゃう。幸いにもアマトたちは良心的だし私たちにムリな参戦を求めなかった。[8月末までたったの4戦]なら私たちでもやれそうだ。負け越しても9月からの反転攻勢が期待できるし、おじさんはさほど体力がない。夏バテもあれば夏の疲れが9月あたりに出る可能性がある。秋服に慣れれば12月まで衣替えがなく、異世界の天気は安定している。「夏と冬しかないのは日本だけ」とノワに笑われた。参戦は2年が目安だが、最長2年まで延長できる。その頃には透子たちが高等部を卒業しているが4年もやれれば御の字。ただ私たちが36歳までやれるのかな?参戦はいわば婚活とスポーツのリーグ戦みたいなもの。「アマトたちは家庭があるのかな?」「彼らは独身」このあたり彩香はさすが。ちゃんと聞き出してるわ。私と透子は浮ついててそんな質問しなかった。「家庭持ちなら訓練や対戦に集中できないでしょ?」「まあね」私たちの訓練相手はヘレンという18歳から22歳の女性兵士。マリアとの違いは女神化に力を入れていること。ヘレンはバロンも訓練するが、もちろん顔ぶれは違う。ノワによればヘレンは半独立した存在で国が支給したマンションで暮らす。家賃と光熱費は無料。彼女たちは短大生だったりバイトしたりと本業は実にさまざま。詩の朗読と週3のバレヱが義務付けられるが、レッスン料は国が全額負担してくれる。訓練が始まれば毎回30000ワイオン入る。日本円に換算して約3万円。訓練は2週に1度だからおこづかいには充分。ヘレンは隣国のニュース映画で日本語字幕を見慣れているのでブランカ公国の公用語を学ぶ必要はない。私たちはヨガのエクササイズを義務付けられ、毎日指定された動画を見てエクササイズに励む。チャンネル名は[ゲイシャガール]。オープニングテーマは[ドカベン]。「また古いわね」「お弁当漫画だと思ってたわ」2人の若者が柔道着姿で黙々とヨガのエクササイズに励む。エンディングテーマは[あしたのジョー]。彼らの後ろ姿がアップされ、背中に哀愁が漂う。登録者数は私たちを含めて40人。動画の再生回数は320回。出し抜けに心霊系動画をアップしたりするあたりに彼らの苦悩ぶりが垣間見えた。どうやら名古屋に常駐するエージェントらしいが、ノワによればホームシックにかかる者が急増中だという。彼らはあんまり日本語がうまくないし日本文化を全くリスペクトしていない。そのせいか名古屋のいかついポリスメンにマークされたりするが、どうやら北の工作員と思われているようだ。端末を持ち歩かない彼らに職務質問すればたいがい驚愕する。「お仕事は?」「エージェントです」「端末も持ち歩かずにスパイ工作ができますか?」「僕たち北の工作員じゃありません」「なぜ端末を持ち歩かないんです?」「名古屋の女に疑われるからです」女子高生を見てビビる彼らを見ていかついポリスメンは思わず微笑した。

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