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短編集

悪女は笑う。美しく咲き誇る薔薇のように

作者: luna
掲載日:2025/04/25

「悪女を殺せー」

「聖女のようなリリー様を殺そうとするなんて心も醜い悪女め」

 民衆からの罵声。

 石を投げられ。

 私は何を間違えただろう。

 手錠をされ、処刑台へ向かう。

 妹を殺そうとしたから?

 冤罪なのに誰も私の声なんて聞いてくれない。

 夫である皇太子すらも。

 黒髪の忌み子だから?

 愛されたい。愛して欲しい。

 私を見て欲しくて、着飾っても見向きもしてくれなかった。

 なんて哀れで、なんて愚かなんだろ。

 確かに妹を傷つける事はした。

 両親や皆から聖女の様に美しいと愛される妹が少なからず憎かった。

 だけど、殺したい程憎かったわけじゃない。

 私はどうしたらよかっただろう………。

 髪の毛を鷲掴みをされて、見上げたふたりの姿に絶句した。

 寄り添うに夫の腕に絡みついている姿に。

 妹は更に私を絶望へ誘う言葉を囁いた。

 「全ては私が仕組んだこと」

 私を嘲笑うかの様に―――………。

 気づいたら見慣れた天井。

「生きている。どういう事―――?」

「お目覚めですか、シセル皇太子妃殿下」

「マリー。今何年かしら?」

 マリーは首を傾げて不思議そうにしながらも答える。

「西暦562年07月21日で御座います」

「そう。ありがとう」

 一年前の過去に戻っている。

 時間が経つにつれて冷静になってくる。

「まずは状況確認よね。―――マリー。紙と筆を用意してくれるかしら」

「畏まりました」

 紙と筆を受け取り、一人になりたいとマリーに告げる。

「こうやって紙に書き加えると憐れね、踊らされているわ」

 死に戻って来てから一週間が過ぎた。

 今回も同じように誕生日にプレゼントが届いた。

 開けてみると前回と一緒の白いハンカチにオオカミの刺繍。

 今か、今か、待ち遠しい。

 もう直ぐ。

 もう直ぐにリリーが来る。

 貴女が私を悪女に仕立てるなら、望み通りに悪女を演じて差し上げましょう、リリー。

 部屋に入る前に防止しなくちゃ、有る事無い事で騒がられる。

 その前に部屋から出る必要があるわね。

 部屋から出ると案の定、リリーがすぐそばに居た。

 無理矢理入ろうとするリリーを止めようとすると尻餅をついて喚く。

「お姉様、酷いわ。突き飛ばすなんて。お姉様に会いたくて来たのに」

 目に涙を溜めて同情を誘う。

 周囲の目も、私を見る目が冷たい。

 前世の私は、オオカミのハンカチを貰って侮辱的で怒りに任せ引っ張ったり叩いたわね。

 リリー、貴女の思い通りに踊ってあげない。

 今度は貴女が踊る番よ。

「ごめんなさいね。突き飛ばすつもりは無かったのよ。許可も無く急に部屋に入ろうとするから驚いたのよ。手が軽く当たってしまったのかしら。リリーは昔から驚きやすいから私も注意をするようにしているだけど」

 手を差し伸べる。

 此処で差し伸べた手を取らないのは醜態に悪いでしょう?

 イメージを大事にするリリーなら謝ってる私にこれ以上何も言えないよね。

 思った通りに私の手を取るリリー。

「怪我はないかしら?」

「ちょっと驚いただけだから大丈夫ですわ」

「よかったわ。リリーが怪我をしていたらと思うと、私―――………」

 涙は出ていないけど、リリーから貰ったハンカチで目を拭くふりをしてわざと落とす。

 ひらひらと舞、オオカミの柄のハンカチ。

「リリーから貰ったハンカチ、早速使っているわ。なんたって初めてのリリーから貰ったハンカチだもの。ありがとうリリー」

 この国ではオオカミは侮辱の意味合いが大きい。

 それを相手に、目上の人に渡す事は馬鹿にしているようなもの。

 ブルブル震えるリリー。

「使ってくれているなんて嬉しいですわ」

「使用できる機会にはこのハンカチを使うようにするわね。私の愛するリリーから貰ったって自慢するわね」

 慕っている姉に、オオカミのハンカチを贈ったと知られたら貴女の友人らはどんな反応するかしら?

「恥ずかしいからしないで欲しいですわ」

「私は嬉しいのに。どうしてかしら」

 ブルブル震えるリリーに、これ以上追い詰めるのは今は宜しくない。

「わかったわ。そんなに言うなら大事にしまっておくわ」

 リリー、わかっている?

 貴女の今の反応で判りながらオオカミのハンカチを贈ったって知らせたようなもの。

 今はこれいい。

 ゆっくりと追い詰めてあげる。

 すっかり忘れていたけど、いつも私がガーランド様の後を付けていたのにきっぱりとやめたかしら。

 彼方から来たわね。

「何をしている」

「妹が訪ねてきたからお話をしていただけですわ。そのついでに今朝頂いたハンカチのお礼を述べていたのです」

 全体が見えるようにハンカチを広げようとすると、慌てて止めるように遮る。

「お姉様の仰る通りにお話をしていたのです。今日は失礼しますわね」

 あらあら、挨拶をし忘れているわね。

「ガーランド皇太子殿下、私に御用があって?」

「厭、何でもない」

「そう。それじゃ、私も失礼します」

「待て―――」

 私の腕を掴むガーランド皇太子殿下に眉を顰める。

「何かしら?」

「―――デザート一緒にどうだ」

 は? デザート?

 私、おやつタイムに誘われたの。

 よくわからないけど、断るのも怖いし。

「ええ、是非、御一緒させてくださいませ」

 誘われたのはいいけど、無言。

 美味しいはずの甘いお菓子たちが全く味がしない。

 何も話さないなら今の食会はなんの意味があるだろう。

「………」

「………」

「………」

 本当に気まずい。

 何なのよ。

「セシル」

 急に呼ばれて動揺するが、気を引き締める。

「何でしょうか」

「来週、夜会がある」

「はい」

 一人ぼっちで参加して笑われたあの忌まわしい出来事を思い出す。

 本来なら夫婦一緒に参加する夜会で、夫婦別々で参加した、あの夜会。

 一人で参加しろって言いたいのかしら。

 ええ、別に良いわ。

 貴方には期待していないもの。

「一緒に参加して欲しい」

「ええ、ひとりで―――………はい? もう一度、おっしゃってくれませんか?」

「一緒に参加してくれないか?」

「何故?」

「俺たち夫婦だろう」

「ええ、一応、そういう関係だったわね。顔を合わす事がないから忘れていましたわ」

 不服そうな顔をされたけど事実ではなくて。

「御一緒させてくださいませ」

「ドレスは私が贈る」

「承りました」

 何かまだ言いたそうだけど、私は席を立った。

 後日、ガーランド皇太子殿下からドレスを贈られて、それを着て夜会に参加している。

 皮肉なものよね。

 お互いの色を身につけたドレスコード。

 仲のいい夫婦をアピールするには手っ取り早い。

 本当に皮肉。

 夢にも見た光景だけど、今更どうだって良いのに。

 周りの声も前世と違って反応もいい。

 私たち夫婦が良好になるにつれて、リリーの評価が低下していく。

「これはダメね、私の愛するリリーにこの様なお粗末な紅茶は飲ませられないわ」

 前世は、私を馬鹿にしているの? と、ヒステリックになりティーカップを割ったりして激怒したわね。

「そうだわ。視察の時に見つけてくれて、私の為にガーランド皇太子殿下が送ってくださったの。リリーにも飲ませたいの、いいでしょ? ガーランド皇太子殿下」

「好きにするといい」

 怒りを抑えるかのように、ブルブルと震えて拳をつくるリリー。

 私の愛するリリー、すきよ。

 もっと愚かに踊って、私を楽しませて。

 小さな嫌がらせを利用して返していく。

 そして、あの毒殺未遂事件―――。

 リリーとガーランド皇太子殿下が共犯なら私はまた冤罪で斬首刑になるだろうけど、それでいい。

 私が用意した、写真と文章。そして、新聞に出す順番も指定して記事にするように指示をしてある。

 記事を出すのは私が処刑された後の話だけど。

 報酬は彼が追っているとある強盗集団。

 あの日と同じ様に毒殺未遂事件が起きて、私は連行される。

 だけど、後悔はない。

 あの記事が出ればふたりは白ではいられない。

 灰色になり、噂が膨張して、あの事件はもしかして―――………。

 有る事無い事が出回る。

 人は信じたいものしか耳を傾けない。

 信じたいものしか見ようとしない。

 その方が楽だから。

 考えることをやめるならいっそのこと人間さえも辞めればいいのに。

 真実なんて一ミリも興味ないのだから。

 面白おかしく語り、真実は埋もれていく。

 じわじわと追い詰められればいいわ。

 そう思っていたのに、何故? 私は裁判を受けているのだろう。

 前世と同じ様に直ぐに処刑台へ案内されると思っていたのに。

 ああ、もしかして茶番劇の裁判なら納得する。

 あれ? 可笑しい。

 私の無実を証明してくれた。

「間に合ってよかった」

 私がふたりを嵌めようとした写真。

 この写真が有れば、私が毒を購入していない事は証明できた。

 なんたって、裏ギルトでリリーが例の毒を購入している写真が写っているから。

 何故? 写真が撮れているか理由が知りたい?

 死に戻ったら影を操る事が出来るようになった事がわかったからよ。

 影は常に一緒にいるでしょ?

 後を付けて、撮ることは簡単だったわ。

 残念なのが、今回はガーランド皇太子殿下が私の無罪を証明した事ね。

 リリーは連行されて行ったわ。

 皇太子妃である私を嵌め、陥れようとしたのだから当然の報いでしょう。

「何故、貴方があの写真を持っているのか知りませんが、とっても残念でなりません。私の復讐相手は貴方も入っていたのだから」

 私か、貴方か、どちらかが死なない限り"夫婦"で居なくちゃならないなんて苦痛なんだもの。

「愛と憎しみは紙一重、と言うじゃない。貴方を殺したい程に憎んでいるのよ」

 愛していた。前世は。

 愛を求めていた。

 報われない愛に、苦しみ、傷つき、狂った。そして、壊れた。

 ふふふと、笑う。

 綺麗に美しく、まるで、咲き誇る薔薇のように。そして、薔薇の棘が絡み憎しみの毒に侵される―――。


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