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フィーニス・ウィア ❖終焉の軌跡❖  作者: 朱華のキキョウ
1章 血肉啜る悪魔の元に
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8話 次の街へ

 翌日、遊渡は疲れきった顔で目を覚まし、体を伸ばす。

 ベッドから起き上がり、歯を磨きに洗面台へ向かう。だが、洗面台には明かりがともっていた。恐らく麗華が使用しているのだろう。

 遊渡はそんなこと気にも止めず、扉を開いた。そこには案の定麗華がいた。更には朝風呂を終えた後なのか全裸で体をタオルで拭いていた。


「おはよう姉さん」

「おはよぉー、今日は早起きね」


 麗華も堂々と入ってくる遊渡には特にこれといった反応をせず、ただ挨拶を返した。

 遊渡は麗華の言葉に頷き、歯ブラシを手に取りながら早起きの理由を話した。


「さっさとゲーム攻略進めたいからな」

「あ〜、〈特異奇矯種ユニークプライマリア〉の討伐のために?」

「そうだな。シナリオとかない以上、当面の目標はそいつの討伐だな」


 昨晩麗華に詰め寄られた遊渡は洗いざらい吐かされた。〈特異奇矯種〉と遭遇したこと、その〈特異奇矯種〉が〈傲慢ごうまん狂歪きょうわい メレデヴェレデ〉という名前であること、そしてメレデヴェレデに〈傲慢の呪禍じゅか〉と呼ばれる呪いをつけられたこと。

 麗華はメレデヴェレデの存在を遊渡の話によって知り、呪禍の存在も知らなかった。

 あまり知られていないということだろう。


「ねぇ遊渡。顔洗い終わったらゲームに潜るんでしょ?」

「ん?ほうはへほ(そうだけど)ほれあろおひあんあ(それがどうしたんだ)?」

「呪禍のこととかもっと知りたいしさ、ゲーム内で会わない?」


 麗華の言葉に遊渡は一瞬考える。


 ──姉さんと合流?確かに俺よりもレベルは高いだろうしある程度進めてる。でもなんか、こき使わされそうなんだよなぁ


 実は前にも何度か他ゲームのクエストの手伝いをさせられたことがある遊渡。その時にかなりこき使われた思い出が未だ遊渡の脳裏にチラついている。


 ──まさかあそこまでハチミツ欲しがるとはなぁ……あの時はマジで大変だった


 さすがにまたあの時のようにこき使われるのは御免ごめんだ。

 遊渡はそう考え、麗華の提案を断ろうとした。だが、直前に言葉を引っ込めた。


 ──いや待てよ?姉さんは俺よりもゲーム早く始めたんだよな。ってことはレベルも必然的に俺より高い。武器や防具もそれなりに潤沢じゅんたくでもおかしくない。何よりこっちはあの呪いのせいで経験値が1/2しか取れない。レモンとゾル以外に仲間がいるのは正直心強い


 レモンは現在遊渡と同レベル。ゾルはそれよりも2つほど低い。更に呪いで経験値取得量1/2と来たもんだ。

 攻略に難航するのは確実に目に見えている。自分よりレベルの高いプレイヤーの助けはちょうど入り用だ。

 遊渡はうがいをし、歯ブラシなどを片付けたあとに麗華に賛成の意を表した。


「わかったよ姉さん。ゲーム内で会おう」

「おっけー。じゃあ早速だけど2つ目の街に来て欲しい。そこで合流しよう」


 着替えを終え、麗華が遊渡にそう言う。遊渡は頷き、直ぐに朝の準備を済ませた。

 冷蔵庫から飲み物を取り、自室へ向かう。そしてベッドに横たわり、ゲーム機を装着した。


「よしっと……それじゃ、〈ダイブ〉!」


 そして視界は移り変わった。

 目の前に広がるのはアソビトがログアウトしたときと同じく天井……のはずだったが。


「……レモンさん、何してるの?」


 アソビトの視界に広がったのは何故か目を閉じてどんどんと顔を近づけてくるレモンの姿だった。


「あ、おはようございます主様」

「え、あ、うん……おはよう?」

「それでは失礼しますね」


 そう言ってなんの躊躇もなく顔を近づけるレモンにアソビトは慌てて手を出して抵抗した。


「待て待て待て何すんだ!?」

「何と言われましても、接吻せっぷんですけど」

「ですけどじゃねぇよ!?何自分がしてることが当たり前だと思ってんのさ!」


 レモンを払い除け、アソビトは体を起こした。


「はぁ……開始早々疲れんなぁ」

「お疲れでしたら添い寝致しますよ」

「誰のせいだと思っとるんじゃ!?」


 アソビトはまたため息をつき、ベッドから立ち上がった。


「まぁ、そんなことはさておいて。今から出るぞ」

「どちらへ向かわれるのですか?」


 レモンの問いにアソビトは長くなりそうな話を何とか短くして伝えた。


「この先の2つ目の街で待ち合わせしてる相手がいるんだ。早くしないと後々面倒そうだから、すぐに出発しようってこと」

「フレンドの方ですね。承知しました、行きますよゾルちゃん」


 【クァッ……ァァ……キュルルル……キャウッ!】


 ゾルは欠伸をしたあと、すぐにレモンの言葉を理解して返事をした。そしてレモンの胸元へと飛び、出発の準備を完了した。


「よし、それじゃあ行こう。2つ目の街、〈エスペント・ドゥオ〉に!」

「おー」


 【ギャウゥ!】


 こうして2人と1匹は〈ウーナ・レイデア〉を出て〈エスペント・ドゥオ〉に向かう。その予定だったのだが、2人と1匹は足を止めざるを得ない状況に立たされた。


「……なんだ、あのシルエット」


 宿を出て〈高原平野〉に向かうための道を進もうと振り向いたその時、そこには明らかに人ではない影があった。


「……あれは、エネミー、でしょうか?」


 四足歩行の生き物であることにまず間違いは無い。明らかにこちらを向いているそれはゆっくりとこちらへ向かってくる。

 アソビトは〈ローデリア〉を構え、戦闘態勢を整える。


「どうなってる、街にエネミーはスポーンしないはずだろ」

「とにかく戦闘に備えましょう。ゾルちゃんは私の後ろに隠れてください」


 【ギャウ!】


 レモンに言われた通り隠れるゾルちゃん。アソビトとレモンはゾルちゃんを背に武器を構える。

 街中に現れた四足歩行のエネミーは静かにこちらへ近づいてくる。

 そして太陽が雲から姿を現し、目の前のエネミーの正体を露わにする。


「……な、なんだこのエネミー?」


 犬のようでもあり、猫のようでもあるそれはどこかメレデヴェレデを彷彿ほうふつとさせる。

 そのエネミーは更にどんどんとこちらへ近づいてくる。警戒を強めていく2人にエネミーは全く警戒の色なし。

 そして遂に、2人とエネミーの距離が0メートルに差し掛かった。その瞬間だった。


「「……え?」」


 【ウ?】


 瞬きをした次の瞬間、景色が〈ウーナ・レイデア〉から見たこともないほどに豪勢な城に変わる。

 目の前にデカくそびえ立つ城は太陽の光によって真っ白に輝きを放つ。アソビト達の周りは城の大きな庭のようになっており、通路が何通にも分かれ、それぞれが別の道へと繋がっている。


「よくぞ参られたな、若き英雄のタマゴよ」


 前方から声がする。その声の方にレモンとゾルちゃんも目を向けた。

 そこには先程のエネミーが立っており、こちらを凝視していた。


 ──今、こいつ喋ったか?


 さすがに聞き間違いだろうと思ったのも束の間、エネミーはアソビトに対して口を開いた。


「まさか、ワタシの声が聞こえていないとは言うまいな」


 ──は?


 耳を疑った、耳を疑うしか無かった、耳を疑わずにはいられなかった。だが現実はその疑念を正面から切り捨て、こちらへと向かってきた。


「英雄のタマゴよ、お主を歓迎するぞ」


 明らかに笑みを浮かべるそれにアソビトは喉の奥につっかえていた言葉を吐き出した。


「な、なんでエネミーが喋ってんだ!?これも正常な動作なのか!?」

「これに関しては、私にも分かりません。ですがひとつ分かることは、相手に敵意は無いということです」

「敵意がない……さすがは英雄のタマゴのツガイ、察しが早くて助かる」


 そう言ってエネミーは2人と1匹に背を向け、城に向かって歩き出した。

 戸惑っていたアソビトとレモン、それとゾルちゃんだったが、ついてこいと言わんばかりの眼差しに仕方なくついて行くことにした。

 城へ入り、案内されるがままに奥へと向かう。道中人は愚か、目の前を歩くエネミーに似たエネミーすらいなかった。

 そして遂に、エネミーはある扉の前で止まった。

 そのエネミーは扉の前で一度(こうべ)を垂れ、扉を開けた。

 風と共に光が扉の奥から差し込み、アソビトとレモンは腕で光を遮った。次第に目が光に慣れ、扉の向こう側の景色がハッキリと見えた。

 そこには体を無理に結合したエネミーが椅子に座っていた。


「王よ、若き英雄のタマゴとその番、そして小さき竜を連れて参りました」

「うむ、感謝する。もう下がってよい」


 〈王〉と呼ばれるエネミーがそう言うと、アソビト達を案内して来たエネミーは一礼し、部屋から退出した。


「……何が、どうなってんだ」


 困惑するアソビトに王エネミーは椅子から立ち上がり、近づいてきた。

 明らかに3メートルはあるであろう巨体をこちらへ動かし、やがて目の前で静止した。


「我らが宿敵、〈傲慢の狂歪 メレデヴェレデ〉に認められし者よ。お前たちを歓迎しよう。そして唐突の願いではあるが、何卒聞き入れてほしい」


 手を差し伸べ、王エネミーが真剣なおもむきで口を開いた。

 それと同時にアソビトの目の前に〈シナリオウィンドウ〉が表示された。


「我らと共に、宿敵メレデヴェレデを、ってはくれぬか」



 [〈特別任務〉、〈継ぎ接ぎ茨(ファーブラ・ミセ)の英雄譚(ル・スペルビア)〉が解放されました]

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