77話 英傑の騎士は尚も誓い 参拾弐
目の前に振り下ろされた拳は真っ直ぐにアソビトの顔面を砕く。そのはずだった。
しかし、その拳は横から飛んできた何かによって軌道をずらされ、拳はアソビトの顔面ではなく耳を掠め、空気をひしゃげさせた。
「うぐっ」
背中から地面に落ちたアソビトは2ダメージを負い、小さく声を漏らした。
拳を空かされたバァルはゆっくり姿勢を戻し、左の方へ視線を向ける。バァルの目先、地面に突き刺さった1本の小さな投げナイフが輝石の光を反射していた。
「主はいつも調子に乗って追い詰められてるなぁ」
声が聞こえてくる。聞き覚えのある声だ、聞き覚えのない声だ、聞いたことのある話し方だ、聞いたことのない話し方だ。
全員が声の方向へ顔を向ける。崖の上、目を細めて要約その姿を捉えることが出来る場所に立つまるで犬のような猫のような四足の生き物。
その生き物は壁を駆けて降り、静かに地面に着地する。
「……お前は」
「エルガ!」
バァルに続けて食い気味にアソビトがその生き物の名を呼ぶ。
「助けが必要なのだろ?」
笑みを浮かべ、ウィンクをかますエルガ。それを見たバァルはアソビトからエルガに体を向け、口を開いた。
「誰かと思えば〈狂気に落ちた愚鈍の贓物〉か。主人を討つことにのみ固執したお前たちが、わざわざこんなところに何の用だ」
「今の言葉で分からなかったのか?アソビトの手助けをしに来たのだよ」
「愚直なお前たちが手助け、か……どういう風の吹き回しだ?」
バァルの言葉にエルガは懐から鎖に繋がれた2本の鎌を取り出し、片方の鎌の柄を咥えた。
「仲間を助けるのに風を別方向に吹かせるわけないだろう?」
「……そうだな、仲間という存在を久しく知らんから、変なことを口にしちまったな」
「再会に花を咲かせるのはこれくらいにしよう」
「あぁ、そうだな。では──」
バァルの言葉は途切れ、一瞬のうちにエルガの目の前に接近するバァル。振り上げられた拳を目にしたエルガは口に咥えた鎖鎌を振り回し、拳をいなす。しかし、完全にいなしているとは言い難く、エルガの体に小さく浅い傷が増えていく。
「俺も負けてられんな!」
双剣を握り直し、アソビトはバァルのエルガの間に割って入る。
双剣と鎖鎌のダブル軽量武器による多段攻撃を見事にいなすバァルはまだまだ余裕そうに見える。
確実に襲い来る双剣の鎖鎌の刃を鎧をつけているとはいえ素手で弾くバァルにさすがにアソビトも苦笑いが漏れ出る。
「つくづく人間離れしてるなっ!」
連撃をほんの一瞬止め、アソビトは双剣の剣先をバァルに向ける。それを目にしたバァルは鎖鎌をがっしりと掴んだ。
「ぐおぉっ!?」
がっしりと掴んだ鎖鎌を強く引き寄せ、エルガを振り上げる。そして、こちらへ狙いを定めているアソビトへエルガを振り飛ばした。
「うぉあぶねっ!」
「何故躱すぅぅぅ!」
アソビトよ後方へ吹き飛びながら叫ぶエルガ。アソビトは姿勢を屈め、何とかギリギリで投げ飛ばされたエルガを回避する。しかし、目の前から迫る拳に対応する余裕はほとんどなかった。
「〈アフト・スラム〉!」
バァルはスキルを使い、アソビトを確実に仕留めるべく拳を振るった。
体勢を整えている最中に目の前から迫ってくる拳を目にしたアソビトは一瞬ヤバいという顔をするが、あることを思い出し、アソビトは笑みを浮かべた。
確実に防ぎも回避も出来ない状態のアソビトへ拳を振り下ろすバァル。確実にアソビトの顔をぶち抜ける、そう確信を持っていたバァルは次の瞬間には呆気に取られていた。
バァルが呆気に取られた理由、それはアソビトへと振り下ろしていた拳が何故か後方へと弾き返されていたからだ。
確実に反撃を行える体勢ではなかったし、回避スキルを使用しても躱し切れない体勢だった。なのに目の前に立つアソビトは無傷で立っている。双剣を構え、アソビトが立っている。
何故だと目を疑ったバァルの目線の先、アソビトの横に浮かんだウィンドウを見たバァルは思い出したように目を見開いた。
〈䝟貐の第六感〉
アソビトの横に浮かんだウィンドウにそう書かれていた。
完全に見落としていた。アソビトも見落としていた。〈䝟貐の第六感〉が完全自動であるということを。
呆気に取られているバァルにアソビトは剣先を向け、勢いよく腹部へと突き立てた。
「〈紫幻双突〉!」
バギンッ!と鋭い音を立て、腹部の鎧が盛大に砕ける。胴鎧全体にヒビが走り、半壊させる。しかし、砕けた部分は地面へと落下せず、バァルの肌に付着しているかのようだった。
後方に軽く飛ばされたバァルは踏ん張り、地面に引き摺り跡をつけながら勢いを殺し、静止する。そして、ゆっくりと腹部に触れる。
剣先を突き立てられた部分を中心とし、胴鎧全体にヒビが走っているのを見る。
手に落ちる砕けた鎧の破片。それに目を落とし、手をゆっくりと握り締めた。
「どうした、其が手招きしてんのが見えてきたか?」
「お主、言葉がゲスいぞ」
笑みを浮かべ、バァルにそう言葉を投げるアソビト。そして眉を顰めてアソビトに近づくエルガ。
バァルは前屈みの体をゆっくりと起こし、アソビト達に目を向ける。
攻撃の体勢になり、バァルの次なる攻撃に備え構えるアソビトとエルガにバァルは拳を下ろし、足を前へと出した。
「まさかここまで追い詰められるとはなぁ」
「お、どうした、負け惜しみか?」
「負け惜しみか、そんなことを言われたのは、お前で初めてだ。そして──」
途切れた言葉が木の葉のように風に煽られる。風に煽られた言葉はバァルに置いていかれ、その場を漂う。
言葉をその場に捨てたバァルは一瞬のうちにアソビトとエルガの目の前に移動していた。そんなバァルの右手は強く握り締められ、殺気を溢れさせていた。
突然目の前に飛び出してきたバァルにアソビトとエルガは焦りながらも武器を振った。しかし、アソビトとエルガの攻撃はバァルに当たらず空を掠める。
バァルの殺気溢れた拳は地面へと叩きつけられ、地面を歪ませる。それにより、アソビトとエルガの体勢が崩れる。それにより、攻撃が空を掠めるに至った。
──まずいっ、〈空蹴〉でっ!
バァルから距離を取り、攻撃をワンテンポ遅らせようとするアソビトだったが、目の前からつき迫ったエルガに激突し、〈空蹴〉が空振りを起こし、距離を取れぬまま地面へ落ちる。
「あがっ!」
「ぐおっ!」
勢いよく地面に激突したことにより、アソビトには3ダメージが刻まれ、47/52とHPが浮かび上がる。そして、アソビトとエルガの体は地面に落ちた反動により跳ね返り、アソビトのHP表示のように浮かび上がる。
予測の通りだと言わんばかりに構えていた拳を振りかぶり、エルガを殴り飛ばす。
殴り飛ばされたエルガは鎖鎌を離し、地面を何度か跳ね、静止する。
バァルはエルガに続き、アソビトにも拳を振る。しかし、〈䝟貐の第六感〉によって防がれる。それをわかっていたようにバァルは双剣をどちらも片手で掴み、アソビトの腹部へ拳を突き出した。
殴ると同時に双剣を離したバァル。それによりアソビトの体は後方へ吹き飛ぶ。明らかにエルガよりも強い力で殴られたアソビトは地面へ体のどこも着かぬままコウとからあげの間を突き抜け、壁に激突した。
「「アソビト!」」
「主様!」
コウ、からあげ、レモンの3人は同時に振り返り、声を上げた。
砂埃がアソビトの姿を完全に隠し、視界を悪くする。その砂埃はアソビトの状態を見せたくないというように長い間曇り続ける。
バァルもアソビトが生きているのかどうか気になっているため、静かに砂埃を眺めていた。
そしてようやく、砂埃が晴れ始める。そこから顕になったのはHPが52/52になったアソビトだった。
気づいたら1週間が経ってました
俺は悪くありません、悪いのはスタレのオンパロスだ
オンパロス長すぎるだろあれどうなってるんですか、あと7バージョンもあれ続くのバグでしょ
それとモンハンワイルズも俺を捕らえて離してくれませんありがとうございました




