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フィーニス・ウィア ❖終焉の軌跡❖  作者: 朱華のキキョウ
1章 血肉啜る悪魔の元に
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73話 英傑の騎士は尚も誓い 弐拾捌

 地面へ膝を着くアソビトに目を落とし、バァルは戦斧をゆっくり下ろした。


「……お前もか」


 ただ小さくそう呟くバァルは戦斧を肩に乗せ、ヲクテルースへと顔を向ける。

 広げた翼をバサバサと動かし、それからゆっくりと畳むヲクテルースは首を振り、それからバァルへと顔を向ける。


 ──向こうも終わったか……


 バァルはアソビトへと背を向け、戦闘の終わりを悲しみながら歩みを進める。それについてくるようにヲクテルースに目配せをする。

 しかし、その目線の意図に気づかないのか、ヲクテルースはバァルの方へと進もうとせず、足を止めたままだ。

 それに違和感を覚えたバァルも同様に足を止め、ヲクテルースへ顔を向けた。


「……ヲクテルース、お前も、物足りないのだな」


 そう口にするバァルに対し、ヲクテルースはただその場に立ち尽くしたままだった。

 そんなヲクテルースを見て、自分以上に虚しさを噛み締めているのだとバァルは一瞬考えを巡らせたが、バァルはそこでピタッと思考を転換させた。


 ──待て……虚しさに浸る?ヲクテルースが?あの勝利に貪欲なヲクテルースが戦いに勝ったのに虚しさを覚える?そんなこと、一度もなかったはずだ


 バァルは戦斧を肩から下ろし、ジッとヲクテルースを見ていた。目と目が合い、ジッと見つめ合うバァルとヲクテルースの空間は、滑り落ちたヲクテルースの首によって崩れ去った。


「なっ!?」


 そう声を漏らし、バァルはすぐに後ろへ体を向けた。その瞬間、視線に映り込んだのは先程とは違う武器を手に持ったアソビトが迫りきているものだった。

 バァルは回避が間に合わないと考え、戦斧を前方に構え、防御の構えを取る。しかし、防御は間に合わず、〈轟剣〉がバァルの胴鎧に縦に傷を深く刻み込んだ。

 鎧に深く傷を刻まれたバァルはすぐさまアソビトから距離を取った。


「……なんだよ、油断してたのに……せっかく〈〉とやらの元に返してやろうと思ったのによォ」


 振り上げ切った〈轟剣 忠傑の狼獅子(ランドルフ・リオネル)〉を下ろし、それを肩に乗せる。胴体に深く刻まれていた(×)は見る影もなく消え、無傷の状態でアソビトがバァルの目の前に立っていた。

 目の前に立つアソビトを見て言葉を詰まらせるバァルにアソビトは不敵に笑い、口を開いた。


「どうした?俺が生きてることが不思議か?」


 アソビトはアイテムポーチから()()()()()()を取り出し、バァルに見せた。


「それは……」


 アソビトが取り出したアイテムに見覚えがあるバァルが声を漏らした。


「お?知ってんのか……お前と戦うのは2度目なんだ、準備しないわけがねぇよなぁ?」


 アソビトの手にはヒビ割れた勾玉が乗っていた。


「いやぁ、自動使用機能マジで神だわァ。お前がもう少し油断してたらあとは完璧だったんだが」


 ヒビ割れた勾玉はアソビトの手の上で弱く光り、ポリゴンとなって宙へと散っていった。


「〈存権そんけん參勾そんこう〉か」


 〈存権の參勾〉、〈フィーニス・ウィア〉に存在する蘇生アイテムの内の1つ。150万ルピアという多額の金を支払うことで要約1つ入手することが出来る高価なアイテム。リリース当初から現在まで休まずゲームをプレイしている兼レベルをカンストしている猛者、いや廃人プレイヤーの間でも所持数が少ない非常に稀有な存在。

 それをなぜアソビトが所持しているのか。それは、コウが必要だと判断したからだ。

 パートナーNPC合わせてレベルをしっかりカンストしているコウはエネミーを狩りに狩りまくり、更にはNPCからの〈副属任務〉、所謂いわゆるお使いクエストをこなしにこなしまくった。その結果、莫大な貯金を携えて使わず放置していたため、買う余裕もある、となった。

 アソビト、コウ、からあげそれぞれに3つ、合計9個〈存権の參勾〉を購入するに至った。その金額、実に1350万ルピア。莫大な貯金を携えていたコウの残りの所持金は一気に34万ルピアにまで減った。

 たった1回限りの使い切りアイテム、150万ルピアというゲームですら払えるわけないだろと感じるほどの高額アイテム。

 きっとこのときのためにこのアイテムは存在しているんだと意気揚々に啖呵をきったコウは消えていった金に涙を流していた。

 しかし、そのおかげでアソビトには4つの命が付与されたのだ。

 そして、4つの命が付与されたのは先ほどの購入履歴でわかるように、アソビトだけでは無い。


「うーん、首だけ異様にやわかったなぁ。もしや首を執拗に狙うのが攻略法だったのかしら」

「……あ゛あ゛……もう二度と丸焦げになるのはごめんだな」


 当然、〈存権の參勾〉を所持しているコウとからあげにも4つの命が付与されていた。


「バァル、ここからが本番だぜ!」


 轟剣を向けられたバァルは下ろした戦斧を持ち上げ、肩にゆっくりと乗せる。


「……やはり、お前がそうなのか」

「何ブツブツ言ってやがる」


 小さく言葉を発するバァルにアソビトが眉を顰める。そんなアソビトに対しバァルは何も触れず、戦斧を勢いよく横へ振った。


「全員まとめてかかってくるといい。我を超えてみせろ!」


 声を荒らげ、自らを鼓舞するように戦斧を構えるバァル。そんなバァルからの言葉にアソビトは笑みを浮かべ、轟剣を構えた。


「今度こその元に送り付けてやるよ!」


 互いに武器を構えるアソビトとバァル、それを見たコウとからあげも武器を構えた。

 からあげの近くで項垂れていたとり天、地面に仰向けで倒れ込んでいたレモン、壁に激突し、地面へずり落ちたゾルちゃん、それぞれが〈仲癒ちゅうゆのアンプル〉を使用し、起き上がり、戦闘態勢を整える。

 4人と3体全員がバァルに顔を向け、全員が牙を向ける。バァルはアソビトのみに視線を合わせ、戦斧を振り下ろした。

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