69話 英傑の騎士は尚も誓い 弐拾肆
アソビトとバァルが武器を重ねる。火花を散らし、金属が軋む音が鳴り響く。
ギリギリと耳を劈く音はバァルの切り上げによって打ち消され、アソビトを宙へ投げ飛ばす。
「〈ギガント・ディアベル〉」
打ち上がったアソビトへ追撃を行うが、間一髪のところをゾルちゃんに拾われ、アソビトは難を逃れる。
空で逃げ回るゾルちゃんに目をつけ、バァルは戦斧を構える。しかし、横から割って入ったレモンに構えを崩される。
「はぁっ!」
スキル〈連撃刺突〉をバァルに叩き込む。バァルはそれを軽々しく躱し切り、戦斧を振りかざす。
「余所見してんなよ!」
そこへゾルちゃんがバァルの前上から落としたアソビトが降ってくる。スキル〈紅月〉を使用し、空から襲来するアソビトの攻撃を躱すため、バァルはレモンへの攻撃を中断する。
大剣は勢いよく地面へ突き刺さり、剣身が半分ほど埋まる。アソビトはそれを無理やりに引き抜き、バァルへ振った。
「オラァ!」
スキル〈アップデント・ドレイデア〉により振り上げられる大剣。バァルの首を掻っ切らんとする大剣を戦斧が許さず、強く制される。
ガァン!と鋭くも鈍い音が響き、大剣は地面へと弾き返された。
「ぐおっ!?」
アソビトの持ち上がった身体、バァルは持ち上がった足を掴み壁に向かって投げ飛ばす。
「うぉあああ!?」
勢いよく壁へと進むアソビトを見たゾルちゃんはバァルから体を逸らし、急いでアソビトの元へ飛ぶ。
「単純……」
バァルはそう声を漏らし、戦斧を構える。そこへまたしてもレモンが邪魔に入る。ゾルちゃんへ顔を体を向け、完全に背を向けられたレモンは走り出し、バァルの背中へ槍を突き出した。
しかし、バァルはそうなることがわかっていたかのように体を横に向け、背後からの攻撃を躱す。
「こっちも単純」
勢いのままに突っ込んだレモンは勢いを上手く殺せず、バァルの前を通る。躱されると思っておらず、唖然としたレモンの顔を掴み、バァルはそのまま地面へとレモンの頭を叩きつけた。
爆発のように響いた太い音、抉れた地面、立ち上がる砂埃がその攻撃の力を表す。
バァルはレモンの顔から手を退かし、ゾルちゃんの方へとまた顔を向ける。
地面へと叩きつけられたレモンは力なく地面に倒れる。広がった髪が抉れた地面に挟まっている。力なく横になっているレモンのHPが2/60と表示される。
ゾルちゃんへ体を向けたバァルは戦斧を横に倒し、姿勢を低くした。そして、次の瞬間、地面を抉り、ゾルちゃんの元へ一直線に飛び込む。
【グォ!?】
突然隣に現れたバァルに驚き声を出すゾルちゃん。そんな驚いているゾルちゃんにバァルは容赦なく戦斧を振るった。
「〈アルス・ベール〉」
戦斧は弧を描き、ゾルちゃんを襲う。迫り来る戦斧を回避するため、体を傾けるゾルちゃんだったが、完全に回避することは出来ず、腹部を斬られてしまう。
【ガァゥッ!!】
腹部を斬られ、速度を落としたゾルちゃんへバァルは容赦なく足を突き出し、バァルを蹴飛ばした。
【グルァァッ!】
蹴飛ばされたゾルちゃんは地面へと激突し、砂埃を立てながら滑っていく。16/140という表示されたHPにバァルの攻撃力の高さが伺える。105もあるDEFを貫通するレベル差補正とバァルの攻撃力はレモンとゾルちゃんへ更なる威圧感を与える。
一方、飛ばされ、壁へ激突寸前のアソビトはスキル〈空蹴〉を使い、なんとか壁への激突を免れる。
──危ねぇ、危うくとんでもねぇ大ダメージを受けるところだった。このゲームの物理エンジンだ、即死でもおかしくなかったな
アソビトは壁から目を逸らし、バァルへと顔を向ける。ゾルちゃんを蹴飛ばし、こちらへと顔を向けるバァル。互いに目を合わせ、武器を構えた。
そして、全く同じタイミングで2人距離を詰め、武器を振った。
「〈アストラム・ドュクスラム〉」
「〈エンプレス・ブレイク〉!」
同時にスキルを発動し、大剣と戦斧が激突する。
爆発にも匹敵する熱量が激突により発生し、2人を真ん中に周りの地面が抉れる。
ギリギリと軋む音が耳を劈き、火花が目をチカチカさせる。
バァルは先程と同様、大剣を弾き、追撃を行おうとする。しかし、アソビトは弾きに対応し、追撃に更に攻撃を重ね、またしても鍔迫り合いを持ち込む。
それを何度も何度も高速に繰り返し、鋭い音と火花が永遠に2人の周囲に散る。
「おいどうしたよ騎士サマ?そんなんじゃこの俺は倒せねぇぜ!」
アソビトのボルテージが更に上がり、追撃に対する防御は次第に攻撃へと転じる。
明らかにノリに乗ってきたアソビトにバァルは攻撃を合わせ、1歩、また1歩と足を動かす。
距離が近くなり、攻撃が捌きにくくなったアソビトはバァルの足に合わせて自分も1歩、また1歩と後ろへ下がる。
繰り返しているうち、気づけばアソビトの背後には壁がすぐそこまで迫っていた。
──このまま壁まで行ったら攻撃が捌けない、その前に打開するしかない!
汗を垂らしながら攻撃を捌くアソビトにバァルは口を開いた。
「……この状況で考え事か?我も、相当見くびられたものだ」
突如、バァルから漂う威圧がアソビトを包む。
「少し本気を見せてやろう」
バァルがそう言った次の一撃、先程と同様に大剣と戦斧がぶつかるが、ぶつかった瞬間、大剣が異常なまでに弾かれた。
「──は?」
アソビトの胴体が完全にがら空きになる。そこへバァルは確実に攻撃を加えた。




