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フィーニス・ウィア ❖終焉の軌跡❖  作者: 朱華のキキョウ
1章 血肉啜る悪魔の元に
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6話 勝利はどちらに

 メレデヴェレデの脚が勢いよく振り下ろされる。それをギリギリでかわし、アソビトは湾曲大剣、〈黒淵こくえん赤紫狼剣しゃくしろうけん〉を地面に突き刺さった脚に向かって振る。

 しかし、鋼鉄に当たったような甲高い音と共に弾かれる。


 ──くっそが硬すぎんだろ!


 アソビトはすぐさまメレデヴェレデから距離を取り、態勢を整える。


…………………………


「態勢を崩す!?」


 声を荒らげるアソビトにレモンは頷いた。


「はい」


 真剣な表情で頷くレモンにアソビトはため息を吐いた。


「本気か?あの巨体だぞ」


 アソビトがメレデヴェレデの方に指を差す。パッと見ただけでも30メートルは超えているだろう巨体。それをレモンはけさせると言っているのだ。

 アソビトが声を荒らげるのも納得だろう。

 しかし、ため息を吐くアソビトにレモンは決して冗談では無いというおもむきを見せる。

 真剣なレモンにアソビトは少し戸惑うが、決して冗談を言っているわけではないのだろうと思い、レモンに問いかけた。


「……で?どうやってあの巨体を転かすって?」


 アソビトの言葉にレモンは待ってましたと言わんばかりの眼差しで口を開いた。


「エネミーにはそれぞれ後隙が大きくなる技が必ず存在します。それは〈特異奇矯種ユニークプライマリア〉であっても例外ではありません」

「てことは、そこを狙うってことだな?」


 レモンは頷き、詳細を説明した。


「〈傲慢ごうまん狂歪きょうわい メレデヴェレデ〉は見ての通り脚がいびつです。〈夜行性〉のせいで決して後隙が大きいとは言えませんが、脚の攻撃を狙い、タイミング良く攻撃をすれば足元が不安定になり、確実に転びます。その瞬間を狙って私達は〈ウーナ・レイデア〉へ避難する、ということです」


 レモンの解説にある程度動きを考えるアソビトだったが、ある事が気がかりになり、レモンに問いかけた。


「狙いは分かったんだが、ゾルはどうするんだ?」


 アソビトとレモンの背後で丸まり、傷口から赤いポリゴンをちりちりと散らしている。


「大丈夫です。ゾルちゃんはもうエネミーから標的になりません。それに、戦闘不能状態の場合のみ、街へ〈相棒タッグ〉が移動するとHP(体力)が満タンになり自動復活します」

「かなり良心的な仕様だな」

「エネミーを運ぶことは不可能ですので」


 疑問が解消され、いよいよ戦闘を開始しようとするアソビト。それに釣られ、レモンも槍を構えた。


「俺達から見て右側の1本目の脚を狙う。集中攻撃で部位破壊を狙うぞ!」

「はい!」


 2人は同時に走り出し、メレデヴェレデに攻撃を仕掛けた。


…………………………


 そんな回想を経て今に至る。

 メレデヴェレデの攻撃を避けながらアソビトは攻撃のタイミングを見計らっている。その隣でレモンも攻撃を回避していた。


 ──もう何回も攻撃当ててんのに、壊れる気がしない。それにこっちの武器……耐久値が心配になってきた。


 武器耐久値。それぞれの武器に指定された壊れるまでの値で全てに設定されている。もし武器耐久値が無くなってしまった場合、その武器は壊れ、〈壊れた〉と名前がつく。

 その武器は修復するまで使用出来ず、装備不可となる。修復するには鍛冶屋に行き、〈研磨・修復〉を行う必要がある。

 〈研磨・修復〉をし終えると武器の耐久値はMAXまで回復し、再使用が可能となる。ただ最大耐久値が2減り、扱いづらくなってしまうというデメリットも存在する。

 それを考慮すれば一度でも武器が壊れればルピアもかかるし戦闘に支障が出かねない。

 武器交換をしたいアソビトだが、暇がない。


「レモン、ヒビ1つ入らないのは聞いてないぞ!」

「思っていた以上にレベル差補正が響いているみたいです。破壊がしやすいスキルで集中砲火するしかなさそうです」


 レモンは改めて槍を構え、息を吐く。口を細め、空気が糸のように細く出る。

 空気が絞られ、音が鳴る。それはレモンの集中力を高め、神経を尖らせる。


「【[〈『謾サ謦』〉]】」


 鳴き声と共に腕を振り下ろしてくるメレデヴェレデ。それを華麗に躱し、メレデヴェレデの足元にすぐさま走り出すレモン。

 それを逃がすまいと脚を振り下ろすメレデヴェレデだったが、神経を研ぎ澄ましたレモンには軽々と躱されてしまった。

 レモンは槍を強く握り、アソビトが攻撃していた場所に槍を突き出した。


「〈連撃刺突(ホルド・スピア)〉!」


 一撃、二撃とスピードを上げ、槍がメレデヴェレデの脚を攻撃する。

 何度も何度も槍がメレデヴェレデの脚を襲うが、ヒビが入る気配がない。


「交代だレモン!」


 振り下ろされるメレデヴェレデの手に気づかないレモンにアソビトは走り出し、攻撃途中のレモンに肩からぶつかり、メレデヴェレデの攻撃からレモンを遠ざける。

 振り下ろされる手にアソビトは大剣を振り、攻撃場所をずらす。

 しかし、アソビトの肩を掠り、HP数値が21/52と表示され、HPバーが半分以上減る。


 ──掠っただけでこのダメージかよっ!


 アソビトはすぐさまメレデヴェレデから距離を取り、肩を見る。

 掠っただけだが、赤いポリゴンがちりちりと散っている。アソビトは冷や汗を垂らし、笑みを浮かべた。

 レモンは尻もちを着いた状態からすぐに立ち上がり、アソビトの方へ走り寄った。


「主様!大丈夫ですか!」

「俺のことはいい、攻撃がくるぞ!」


「【[〈『谺。縺ョ謾サ謦』〉]】」


 無情にもメレデヴェレデは追撃を行う。アソビトとレモンは慎重に攻撃を回避しつつ、攻撃の隙を狙う。


 ──もう次は掠りすらも許されない。ここで決めるしかない!


 アソビトは大剣を強く握り締め、前方へ走り出した。それを見てレモンはワンテンポ遅く走り出す。

 メレデヴェレデの攻撃を掻い潜り、脚の攻撃を待つ。


「【[〈『縺。繧?%縺セ縺九→繧ヲ繧カ繧、』〉]】」


 メレデヴェレデは声を荒らげ、脚を勢いよく振り上げた。


「待ってたんだよそれをな!」


 アソビトは大剣を振り上げ、勢いよく振り下ろされる脚を躱す。そして完全に攻撃が終わった瞬間、アソビトは大剣を脚に向かって振り下ろした。


「〈エンプレス・ブレイク〉!」


 アソビトの大剣〈黒淵の赤紫狼剣〉は空気を切り裂き、メレデヴェレデの振り下ろされた脚に勢いをつけてぶつかる。


 ──確実に壊す!ここで決めなきゃ死ぬ、それだけだ!


 確実なる意志を持ち、アソビトは大剣をメレデヴェレデの脚に振り下ろした。

 ガキンッ!と音を立て、メレデヴェレデの脚にぶつかる。


「オラァァァ!壊れろおぉぉぉ!!」


 両手で大剣の柄を強く握り締め、力を込める。

 火花を散らし、アソビトの大剣がメレデヴェレデの脚を壊そうとする。

 一切壊れる様子もない脚だが、アソビトと大剣は止まらず、力が入る。

 そして遂に。


 パキッ


 音と共にメレデヴェレデの脚にヒビが走る。

 それにレモンは驚きを隠せず、アソビトは更に力を込めた。


「いけます主様!」


 レモンの声援を背で感じ、アソビトは歯を食いしばった。


「らああぁぁぁぁ!!!」


 ヒビは次第に広がり、メレデヴェレデの脚全体にヒビが走る。

 遂にメレデヴェレデの脚が壊れる。アソビトもレモンもそう感じた、次の瞬間だった。


 バキンッ!と甲高い音を立て、宙を舞う。それは湾曲した形で、アソビトの後方へと飛んでいった。


「……嘘、だろ」


 メレデヴェレデの脚にはヒビが走っているが、壊れていない。それに対しアソビトの握る大剣〈黒淵の赤紫狼剣〉は真ん中から上の姿がなく、剣身を失っていた。


「主様!」


 メレデヴェレデはヒビの入った脚を振り上げる。それを見てレモンは走り出し、アソビトの助けに入ろうとする。


「【[〈『縺雁燕縺ョ雋?縺』〉]】」


 まるで嘲笑うかのように響く不協和音はアソビトに向けられる。メレデヴェレデは振り上げた脚をすぐさま振り下ろし、アソビトを確実に突き刺そうとする。

 すぐさま走り出し、アソビトに手を伸ばすレモンだったが、確実に間に合わない。〈夜行性〉による速度補正1.1倍により、レモンの伸ばした手は無情にもアソビトには遠く届かなかった。

 メレデヴェレデの脚攻撃がアソビトの目と鼻の先の距離まで縮まる。

 もう確実にアソビトは助からない。

 メレデヴェレデもレモンも、そう思った瞬間だった。


「……油断してんじゃねぇぞ」


 その声がアソビトから出た瞬間、金属のぶつかる音が鳴り響き、メレデヴェレデの脚が弾き返された。


「【[〈『!?』〉]】」


「!?」


 メレデヴェレデもレモンも驚き、目を疑った。

 確実に倒されると思われていたアソビト。その手に〈黒淵の赤紫狼剣〉は無く、〈ローデリア〉が握られていた。


「この程度で俺が諦めると思うなよ!」


 メレデヴェレデの脚は大きく上げられる。レモンはそこを逃さず、槍を握り、アソビトの前に飛び出した。


「〈ワンガンエッジ〉!」


 上げられた脚を槍で強く突いた。メレデヴェレデの脚は砕けなかったものの、更に大きく振り上げられ、メレデヴェレデは体制を崩した。

 レモンはすぐに振り返り、アソビトの手を取って走り出した。


「逃げましょう主様!」

「わかった!」


 アソビトはレモンと共に走り出し、〈ウーナ・レイデア〉を向かう。

 そこまで距離は無かったものの、とてつもなく遠く感じる。

 その遠く感じる中、アソビトとレモンは足を止めず走り続けた。

 遂に2人は〈ウーナ・レイデア〉の入口の間近くまで辿り着いた。


「主様!」

「あぁ」


 レモンの言葉にアソビトは笑みを浮かべ、拳を突き上げた。


「俺達の勝ちだ──」


 アソビトが叫び、拳を突き上げる。

 それと同時に2人の足が〈ウーナ・レイデア〉の入口に踏み入ろうとした、直後だった。


 グサッ!


 鈍い音と共にアソビトの体がピタリ留まる。

 レモンは音を聞き、振り返る。そこにはメレデヴェレデのヒビが入った脚に体を貫かれたアソビトが立っていた。


「主様!」


「【[〈『遘√?蜍昴■』〉]】」


 まるで笑みを浮かべているかのようなメレデヴェレデの顔がアソビトの元に近づく。

 背後から迫り来る寒気にレモンは動くことが出来なかった。

 だが、アソビトは笑みを浮かべ、突然に笑い出した。

 それにメレデヴェレデは体の動きを止めた。


「……少し、物足りないと思ったんだよ……ここまでしたのに、逃げるだけか、て……」


 アソビトは大剣を振り上げ、背後に勢いよく振り下ろした。

 バキッ!と音が立ち、アソビトの体は前方に倒れ込む。その体には砕けたメレデヴェレデの脚が突き刺さったままだった。


「……今回は……俺の……か……」


 アソビトの目が細まる。レモンは倒れ込んだアソビトに近づき、肩を揺らして声を荒らげた。


「主様!主様!──じ様!──るじさ──」


 遠のくレモンの声と共にアソビトの細まった目には0/52と表示され、確実に色を無くした。

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