67話 英傑の騎士は尚も誓い 弐拾弐
ゾラから逃れたアソビト達一行はある場所で足を止めた。そこは何の変哲もない壁で、かなり上にまで続いている。
「ここに入口があるって、どこにもないわよ?」
コウが首を傾げながらアソビトに問いかける。それにアソビトはゆっくりと壁に触れた。
「俺も最初はただの壁だと思ってたんだけど──」
壁にアソビトの手が触れる。すると、先程まで何の変哲もない壁だった部分はみるみるうちに消え、斜め下に続く真っ暗な道を出現させた。
「隠し通路!」
「そう、こんな感じで通路が隠されてたんだよ。ゾラとかいうやべぇやつから逃げてたらたまたま見つけたんだよ」
「かなり奥まで続いてるみたいだけど、大丈夫なの?」
「ダメージはなかったな」
アソビトの言葉にへぇと声を漏らしながらコウが足を踏み入れる。その瞬間、まるでローションが塗られているかのようにツルッと滑り、コウが穴へ吸い込まれて行った。
「きゃあああぁぁぁ……」
「コウ!?」
コウの声がどんどんか細くなっていく。アソビトは驚き、穴を覗くが、さすがにコウの姿を視認することは出来ない。
からあげは鼻で嘲笑し、穴へ足を踏み入れた。
「ドジだなぁホント。そんなに急でもない坂なのに、警戒心がまるでn」
からあげの言葉は途中で途切れ、姿すらも消える。どうやらからあげもコウと同じく足を滑らせ、穴へ落ちていったようだ。
アソビトはため息をつきながらゾルちゃんに顔を向けた。
「ゾル、とり天とウィステリアを案内してやってくれ、またあの場所で落ち合おう」
【ガルゥ!】
ゾルちゃんは元気に返事をし、とり天とウィステリアに話しかける。
会話を終えたゾルちゃんは翼を羽ばたかせ、空へと飛び上がる。それについて行くようにとり天が翼を広げ、ウィステリアは崖を登り始めた。
それを確認したアソビトはレモンに手を差し伸べた。
「俺たちも行こう」
「はい、そうですね」
レモンはアソビトの手を取り、近くに寄る。アソビトはレモンを抱き寄せ、穴へ飛び込み、坂に身を任せた。
風を全身に浴びながら滑り終えたアソビトとレモン。レモンはアソビトの腕から抜け、立ち上がる。それを待ってからアソビトも立ち上がり、目の前で腰を抑えるからあげと尻を抑えるコウの元へ歩み寄った。
「びっくりした……速すぎる」
「ゲームなのに腰が痛く感じる……」
「ほら、2人とも早く行くぞ」
アソビトは2人に声をかけ、前をスタスタと進む。コウとからあげは顔を見合せ、それから体を起こし、アソビトについていった。
先頭を歩いていたレモンは周りを見回す。次の隠し通路の場所を探しているのだろう。
それを知らないコウとからあげは行き止まりになっている目の前の壁に口を開いた。
「あれ、行き止まり?さすがにここで戦うって訳じゃないよね?」
「違いますよ、また隠し通路があります」
「また?マンションの二重セキュリティ並にセキュリティガチガチじゃん」
周囲を見渡していたレモンはある地点に目を向け、小走りに寄る。それから壁に触れると、またしても壁が消え、通路を露わにする。その奥には細く小さな光が漏れ出ていた。
「お、あそこが出口か?」
「そうですね。行きましょうか」
レモンがまたしても先頭に立ち、前へ進む。アソビト達はまたその後ろへと続き歩いた。
どんどんと前へ進み、奥の光が近づいてくる。
そして遂に、長い長い真っ暗闇なトンネルを抜けた。目の前には美しく輝石に彩られた大きな空間に出た。
黒の輝石なのに夜の中でも強く光り、明るい色の輝石にも負けない光を放っている。
美しく輝く空間の奥にポツリと佇む人影。戦斧を地面に突き立て、こちらをただ凝視している。
それを見たアソビトは眉を顰めた。
「なんだ、どういう事だ?竜は……」
その言葉が聞こえていたのか、その人物は言葉を発した。
「相棒ならば、数時間前のお前に殺されたばかりだろう?まさか、忘れたのか?」
それにアソビトは顎に手を置き、喉を唸らせた。
──どういう事だ?ゲームならボス討伐判定じゃなければ全て最初からやり直しのはず……なんでリスポーンしない?〈特異奇矯種〉だけは例外なのか?わからん……
唸って考えていると、空からゾルちゃん達が戻ってくる。翼をバサバサと動かすゾルちゃんととり天、自由落下で落ちてきて、地面に着地する寸前にフワッと浮き、優しく音を立てずに着地するウィステリア。全員が出揃い、目の前の敵に目を向ける。
人物は戦斧を持ち上げ、肩に置いた。
「……今回はエラく大人数で来たものだな」
その人物はアソビト以外に目を向ける。こちらへ睨みを効かせるゾルちゃんととり天。武器を取り出し、戦闘態勢を整えるコウとからあげ。首を振り、指示を待っているウィステリア。レモンは礼儀正しく手を前に合わせて立ち、人物を見ている。
戦斧を肩に置いたまま、人物は手を動かし、横へ掌を押し出す。
「さすがに、この数を相手にするのは骨が折れる。だから、少しズルをさせてもらう。それについては、先に詫びをいれよう」
言葉が紡がれていく横、その人物の掌から魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣は動きながら大きく広がり、光を放つ。
大きく広がり、光を放つ魔法陣はゆっくりと回転しながらその人物から離れていく。その魔法陣は何かを形成しながら人物から離れる。
魔法陣が通った所に形成された何か、それはアソビトとレモンにはとても見覚えのあるものだった。
形成を終えた魔法陣は回転しながら小さくなり、消える。形成されたそれは白い光を放つ。その白い光はポリゴンとなって外殻から剥がれ、空へと散っていく。そして、形成されたそれは全容を露わにする。
「起こしてしまってすまないな、相棒。もう少しだけ、我に力を貸してくれ」
腕を下ろし、前を向きながら横に立つそれに話しかけた。横に立つそれはただ静かに鼻を鳴らし、アソビト達を睨みつけた。
そして、その人物と形成されたものの前にウィンドウが表示される。まるで自己紹介をするように。
暴喰の誓言 ヲクテルース
Level210
其に仕えし騎士 バァル
Level300
遅れ遊ばせましたが、続編です!
ここからまた長いんですよね
さて、1章はいつ終わるのやら




