65話 英傑の騎士は尚も誓い 弐拾
灰皿の煙草が燻り、煙草の先端に形作っていた灰が崩れる。灰が崩れると同時にエスマが前髪を掻き上げ、笑みを浮かべた。
「さァ……始めるかァ。アンタら、離れてな」
エスマは火造箸で〈黒淵の赤紫狼剣〉の剣身を挟み、炉の中へと入れる。
ハーディーログに立てかけてあるふいごを手に取り、炉の中へ空気を送り込む。空気が炉の中へ入る度、火花がぱちぱちと散り、熱風を外へと漏らす。
アソビト、コウ、からあげは金床から少し離れた位置で炉を見ていた。
〈黒淵の赤紫狼剣〉の剣身が白く発光する。それを炉から取り出し、金床の上に置く。金床に置いてあった火造槌とふいごを持ち替え、白く発光する剣身へ勢いよく叩きつける。
カンッ!カンッ!と甲高く鋭い音が鳴り響く。アソビトから渡された〈ヴァルパインドウルフ〉の素材を加えながら何度も何度も剣身を叩く。
発光が弱まってきたらまた炉へと剣身を入れ、熱を与える。それを何度も繰り返し、剣身の形が変化していく。
額の汗を拭い、エスマは剣身を油の入った水槽へと入れる。メラメラと燃え上がる剣身を水槽から上げ、剣身をよく観察する。
よく観察した後、剣身に付着した油を綺麗に拭いて炉の中へまた入れる。
真剣な趣きで〈黒淵の赤紫狼剣〉を叩き続けるエスマ。次第に変化した形は綺麗に成形され、美しく光り輝く。
装飾を行い、エスマはやり切ったという顔で額の汗を拭い、息を吐いた。
「出来たぜェ……わーの武器強化史上、最高傑作だ」
完成した大剣をカウンターへ置き、その前から退く。それにより、アソビト達に大剣の全貌が見えるようにした。
眼前に現れた大剣、赤紫色に変化は無いが、湾曲していた剣身が変化している。その湾曲は極端に小さくなり、湾曲していると言われなければただの片刃の直大剣のように見える。
目の前の大剣に見入っていると、横からエスマが口を開き、言葉を発した。
「どうだ、よく出来てるだろォ?」
「……あぁ」
正に言葉を失っているアソビトはただ軽く返事をすることしかできなかった。
エスマは少し前に歩き、〈黒淵の赤紫狼剣〉だったものの剣身に触れる。
「まさか、形どころかカテゴリーさえもかわっちまうとはなァ」
「カテゴリーさえも?」
エスマの言葉にアソビトが首を傾げた。首を傾げるアソビトに頷きながらエスマが口を開いた。
「武器の強化は混ざり物がない〈純進〉と武器を生産するときに使用したアイテム以外の素材を混ぜる〈混進〉の2つがある。元々のこいつには〈ヴァルパインドウルフ〉の素材は含まれてなかったから、今回は〈混進〉を行ったんだ」
──急に饒舌だな。多分重要になるし、聞いておいて損は無いか
突然解説を始めるエスマに驚くアソビトだったが、素直に耳を傾け、解説を聞いた。
「〈混進〉には更に見た目がそこまで変化しない〈無変化〉、見た目がかなり変化する〈変貌化〉、見た目と武器種が変化する〈核真化〉の3つがあってなァ、この3つは武器のレベル、戦闘経験によって決まるんだ。要ァ〈無変化〉〈変貌化〉〈核真化〉は選べねェっつゥ訳だ。基本的には〈無変化〉と〈変貌化〉のどっちかにしか振られねェんだが」
エスマは大剣の柄を掴み、剣先を天に向け持ち上げる。
「こいつにァ、メレデヴェレデとヲクテルースとの戦闘経験が記憶されてる。その影響で、滅多に見れねェ〈核真化〉を遂げたってェ訳だな」
持ち上げた大剣が光を反射する。角度によって赤と紫に変化しながら光るその大剣を見てエスマは笑みを浮かべ、アソビトの前に横にして突き出した。
「アンタがこいつを大分可愛がってたのも影響してんだろォな。ふつふつと煮え滾るアンタへの忠誠心がよく伝わる」
アソビトはエスマから大剣を受け取る。受け取った大剣を持ち上げ、剣先を上へと向ける。
「さてと、鍛冶師として最後の工程をさせてもらうぜ。そいつに名を授ける」
光を反射し、赤紫色に輝く剣身を眺め、エスマは頷きながら口を開いた。
「多くの戦闘経験をその身に宿し、強く硬い忠誠心と志を奥底に秘めた剣。決めたぜェ、そいつの名は〈忠傑の狼獅子〉だ」
エスマの言葉に呼応するように大剣、〈忠傑の狼獅子〉が赤から紫色へ輝きを変化させる。
アソビトは〈忠傑の狼獅子〉を横に倒し、目を向けた。その瞬間、アソビトの目の前に赤く強調表示されたウィンドウが勢いよく映る。
「うぉっ!なんだ?」
アソビトは目を細め、文字に目を向けた。
忠傑の狼獅子 武器種:轟剣
WPLv35
必要必須ステータス
STM:60 STR:120 AGI:90
「……え?」
アソビトは文字を読み終え、腑抜けた声を出す。それから慌ててステータス画面を表示する。そして、そこで停止してしまう。
それを見たコウが少し心配そうに声をかけた。
「ア、アソビト?どうかしたの?」
「コウ様、気にしなくてもすぐに元気になると思いますよ。叫びながら」
「え?」
心配するコウを横目にレモンが呆れ気味にそう口にした。それに対し、コウが声を漏らした直後、アソビトは体を一気に伸ばし、頭を抱えた。
「ステータスまっっっったく足らねえぇぇぇぇ!!!」
アソビト JOB:破剣士
Level:36 NXTLvまでに必要な経験値:5568
HP:52
MP:38
STM:45
STR:99
DEF:8 +22
HIT/DEX:46
AGI:65
RES:80
LUK:30
残り振り分けステータス値:41
STMが15、STRが21、AGIが25も足りていない。現在残っている振り分けステータス値では到底足りる訳もなく、アソビトは発狂してしまった。
エスマは灰皿に置かれた煙草を手に取る。その反動で灰が崩れ、煙草の長さを削る。もう吸えないほどに小さくなった煙草を惜しみながら灰皿へ擦り、新たに煙草を取り出し、火をつける。火をつけたそれを口に加え、煙を吐きながらアソビトへエスマが言葉をかけた。
「そォ落ち込むな。それぐらい防具でなんとかなる。作ってやるから、素材早ォ出せ」
アソビトは感動し、目をキラキラさせながらエスマの目を見て手を取り、高速で上下に振りながら頷いた。
「ありがとうエスマ!お前は俺の、俺の命の恩人だ!」
「……ったく、次はちゃァんと鍛錬しとけ。そいつにも、メンツが立たんだろ?」
「あぁ!約束する!絶対守る!破ったら死ぬ!」
「いちいち重いっ!……とりあえず、素材」
初めて声を荒らげるエスマ。目の前で全力で頷くアソビトにたじろぎながら素材をアソビトから貰う。
「武器はかっこよくなったけど、なんも変わってねぇなこいつ」
「こういうギャップがいいのよね」
「ホント、物好きだなぁ……」
笑顔でアソビトを見るコウを横目にからあげは額に手を当て、ため息をこぼした。
レベルが26から36に上がってるのは〈暴喰〉との戦闘+バァルの半身であるヲクテルースを討伐したからですね
轟剣という武器カテゴリーはまた言及します




