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フィーニス・ウィア ❖終焉の軌跡❖  作者: 朱華のキキョウ
1章 血肉啜る悪魔の元に
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60話 英傑の騎士は尚も誓い 拾伍

 からあげと麗華から協力を得られたアソビトは2人に作戦会議の時間と場所を告げ、〈フィーニス・ウィア〉へログインする。

 コロッセオのベッドで目が覚めたアソビト。目の前に映る光景にアソビトは溜息をつき、手を前に押し出す。


「なんで毎回そんな顔近いんだよ」


 アソビトの手によってレモンの顔がグッと押される。


「そんな乱暴に、やめてくださいよ主様」

「別に乱暴にしてないだろ」


 アソビトは体を起こし、ベッドから立ち上がる。体をグッと伸ばし、肺に入った息を吐き切ってから息を吸い込んだ。


「レモン、これから姉さ……コウに会いにいく」

「コウ様ですか?」

「あぁ、〈ヲクテルース〉の討伐に加勢してくれることになってな。〈ヲクテルース〉の動きを観察してたレモンにも会話に参加してほしい」

「別に構いませんが」

「それとあの暴走魔も来るから」

「……暴走魔?」


 アソビトの言葉にレモンは何かわからずに首を傾げていた。しかし、レモンの記憶はその人物を鮮明に覚えている。恐怖という感情が体を巡ったあの日に出会った人物のことを。

 レモンは嫌そうな顔をし、口を開いた。


「え……あの方がいらっしゃるのですか?大丈夫でしょうか」

「あの時のがかなりトラウマになってるな。まぁ大丈夫だろう。あんなことしてきたけど、別に悪いやつじゃない」

「……主様がそういうなら」


 少し不服そうではあるが、会議に参加するということで合意した。

 椅子の上でスヤスヤと寝ているゾルちゃんをレモンが持ち上げ、2人はコロッセオの壁に触れる。

 壁が水のように波打ち、アソビト達をすんなりと通らせる。その壁に入り込んだアソビト達は少し暗い裏路地へと出た。


「集合時間は17:30、今の時間は17:20だから……あと10分は時間があるな」


 夕暮れの日が街を朱色へ染めている。それに目を向けながらアソビトは唸った。


「さて、どう時間を潰そうか」


 そう言いながらアソビトは路地裏から出る。レモンもそれについて歩く。

 時間帯もあるのか、街はいつもよりも賑やかだ。そして必然的に、それはアソビトに注視する者が多くなるということにもなる。


「……このままじゃまずいか」

「主様、1度集合場所へ向かわれてはいかがでしょう。コウ様やもう1人の、あの方ももう既に待っているかもしれません」

「そうだな。ただ、街を歩き回るのはちょっとまずそうだ。1回引き返すぞ」


 アソビト達は1度踵を返し、路地裏へと戻る。それからアソビトは顎に手を当てた。


「裏路地を通って進むでもいいが、どうせ人いるだろうし。それに俺を表で見てたヤツら、へんな組織(ギルド)に報告してないとも言いきれん。どうするか」


 そう唸っていたアソビトだったが、不意に目に映ったゾルちゃんに笑みを浮かべた。


「ちと、協力してもらうぞゾル」


 【……キュィ?】


 眠そうな顔でアソビトを見るゾルちゃんは何が何だか理解していない状態だった。


「レモン、少しここで待っててくれ」


 アソビトはそう言って壁に触れ、城へと向かった。そして2分ほどしてから壁が波打ち、アソビトが戻ってきた。そんなアソビトの手には何やら被り物が握られていた。

 それを見たレモンはアソビトへ問いかけた。


「……まさかとは思うのですが、それを被るんですか?」


 レモンの問いかけの途中でアソビトは手に持つ被り物を頭に()()する。

 カエルの頭を模した被り物をしっかりと頭へ装備し、アソビトはバッとレモンの方を向く。その反動で蛙の被り物がブルブルと震える。とても柔らかい事が見て取れる。

 アソビトは籠った声でレモンの問いに答えた。


「そのまさかだ」

「……あ、え……お似合い、ですよ?」

「無理に褒めなくていい」

「あ、そうですか、クソキモイです近づかないでください」

「え、そこまで言わなくてよくない?」


 アソビトは地面に膝と手を着き、どんよりと気分を落とす。そんなアソビトにレモンは触れず、路地裏の出口に向かう。


「早く行きますよ、主様。時間ももうすぐですから」

「……慰めもしないのか……まぁいい、それよりも、ゾルを貸してくれない?」

「ゾルちゃんを?」

「そ」


 レモンは少し疑問を抱きながらもゾルちゃんをアソビトへ渡す。眠そうなゾルちゃんを受け取ったアソビトはそのまま路地裏を出た。

 路地裏を出て路上に立つアソビト。そんなアソビトに路上を行き交う人々ほぼ全員が視線を向けた。

 当たり前だろう、頭には気持ちの悪い蛙の被り物、右腕には欠伸をする小竜を巻き付けている完全な変態にしか見えないのだから。


「……先ほどよりも注目浴びてるじゃないですか」

「誰かバレなければいいんだよ」


 アソビトはそう言って待ち合わせ場所へと向かう。少し嫌な顔をしながらもレモンはアソビトの少し後ろをついて行く。

 周囲の視線が確実にアソビトに集まっているのを感じる。耳にヒソヒソと話し声が飛び込んでくる。


「……何あの装備、見たことないんだけど」

「目が完全にイッてんな」

「なんかちょっと可愛くない?」

「あんた正気……?」


 会話の内容的にはアソビトだとバレてはいないようだ。しかし、隠す前よりも浮いてしまっている。

 レモンは恥ずかしくないのかと思いながらアソビトの方を凝視していた。時に蛙を被っていたアソビトはというと。


 ──……なんで俺こんなの被ってんだろ


 恥ずかしがっているというよりかは虚無っていた。

 そんな虚無を抱きながらアソビトは目的地である〈メリア・トリア〉の入口へと到着する。そしてそこにはもう既に待っていたコウとからあげがいた。


「お、もう2人いたんだな。おーい」


 アソビトは左手を2人に振った。楽しそうに談笑していた2人は声に気がつき、アソビトの方へと顔を向けた。

 先ほどまで笑顔で会話をしていたコウとからあげだったが、眼前に見える右腕に竜を巻いた蛙のバケモノに笑顔が忽然と消え、コウはからあげの背に隠れ、からあげは蛙のバケモノに体を向けて戦闘態勢に入った。

 それを見たレモンはアソビトへ目を向ける。


 ──な、泣いてる……


 アソビトは目の前の光景に涙を流していた。その涙は変化することの無いイカレた蛙の目から流れ出る。

 蛙の被り物を買ったことを心底後悔したアソビトだった。

ちなみに、蛙の被り物とゾルによる完全防備を揃えたアソビトだが、レモンとゾルの容姿もかなり知れ渡っているため、あまり効果は無い

アソビトだと気が付かなかった人達はただアソビトをあまりよく知らないだけである

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