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フィーニス・ウィア ❖終焉の軌跡❖  作者: 朱華のキキョウ
1章 血肉啜る悪魔の元に
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5話 勝機などない

 [〈特異奇矯種ユニークプライマリア〉、〈傲慢ごうまん狂歪きょうわい メレデヴェレデ〉に遭逢そうほうしました]


 とてつもないほどの威圧感に寒気を催す。

 アソビトの体が拒絶反応を起こし、体が硬直する。

 フルダイブ型ゲームではプレイヤーの心身の不調や危険により、ゲーム機との強制切断を行うというシステムが組み込まれているのだが、今のアソビトにそれは起こらない。

 つまり、現在のアソビトの状態はゲーム側の正常なシステムなのだ。

 アソビトの顔は後ろを向き、確実に〈傲慢の狂歪 メレデヴェレデ〉を視界に入れる。

 その姿に、アソビトは嫌悪感すら覚えた。


 足は蟷螂カマキリのように尖っており、5ついほど胴にへばりついている。足の場所はアシンメトリーになっており、既にいびつである。

 胴は大型の狼のような見た目をしており、黒い体毛を靡かせる。その胴体の尻の方には虎のような尾が揺れている。

 本来首がある場所には首がなく、歪に合わせられた竜の体がこびりついている。首同士が接合されており、竜の尻の方に頭がついている。

 竜の胴体からオークと思わしき緑色で筋肉質の腕が右側に、岩壁人形ゴーレムのゴツゴツとした岩の腕が左側から取ってつけたように生えている。

 顔は人のような口が半分、ゴブリンのような口が半分接合され、口を除いた右半分は人型エネミーと思わしきものが貼っつけられ、左半分は爛れ、何が元々貼り付けてあったのか確認できないほどに悲惨な見た目をしている。


 〈狂歪〉と言う名に相応しいほどに歪で悲惨な見た目をしているエネミー。気持ち悪さが夜によって更に際立ち、吐き気すら催させる。


「【[〈『蠖シ螂ウ縺ッ隨代▲縺ヲ縺?k繧医≧縺?』〉]】」


 歪んだ口から鳴き声のような不協和音を発する。それはまるで、後方へ吹き飛ばされたレモンとゾルちゃんを嘲笑うかのよう。


「……なんなんだ、こいつ」


 息を飲み込み、冷や汗を垂らすアソビト。目の前の不気味なそれから目を本能のままに背け、レモンとゾルちゃんを見る。

 攻撃され、吹き飛ばされたレモンとゾルちゃん。その2名の前にウィンドウが表示される。

 そこにはHP(体力)の数値とHPバーが載っていた。

 レモンのHP数値は〈0/48〉と表示され、HPバーが全て削られる。ゾルちゃんのHP数値はレモンと同様〈0/130〉と表示され、HPバーが全て削られる。


 ──……一撃?


 アソビトの目を自然とメレデヴェレデに向く。そしてそれと同時にメレデヴェレデの上部に簡易ステータスウィンドウが表示された。

 それを目にした瞬間、アソビトはただただ笑みだけが浮かぶばかりだった。


「……おいおい、さすがに……高難易度がすぎるだろ」


 メレデヴェレデの上部に表示された簡易ステータスには、こう書かれていた。


傲慢の狂歪 メレデヴェレデ

Level:280


 アソビトのいる場所は言わば〈始まりの森〉。初心者が素材集めやレベル上げをするエネミースポーンエリアだ。

 もちろんそこにはLevel:20は愚か、Level:15のエネミーすら全く出現しないエリアだ。それなのに、アソビト達の前に現れたメレデヴェレデのレベルは280。

 アソビトが遭遇した一番レベルが高かったグウェルフェンダーのLevel:8の35倍も高い。

 初心者が遭遇していい相手などでは決してない。エンドコンテンツ以上の存在だ。

 あろう事かそれが今アソビトの目の前で嘲笑うかのように鳴いている。

 アソビトは目を疑わざるを得なかった。


「あ、主様……」


 突如、背後からレモンの声が聞こえる。アソビトはすぐさま振り向き、声をかけた。


「レモン!無事だったか!」

「……はい、なんとか……あの時買った()()が役に立ちました」


 そう言って手に持ったのは割れた硝子だった。

 その硝子は数時間前、雑貨屋チュートリアルをクリアするために雑貨屋に寄った時に見つけたものだった。

 そのアイテムは〈仲癒ちゅうゆのアンプル〉という名前で、説明には〈パートナーNPCを1度だけ復活させる事が出来る〉と書かれていた。

 値段は1000ルピアと復活アイテムにしては安価だが、パートナーNPCとプレイヤー合わせて4つしか所持できず、余分に購入した場合は保管インベントリへ移動させられ、戦闘中以外で取り出す必要がある。

 なので戦闘中に使えるアンプルは4つのみ。購入するのは難しいことでは無いが、使用回数が限られるため慎重な戦闘が求められる。

 念の為と思い、アソビトはそのアンプルを1つ書い、レモンに渡していたのだ。

 レモンの手に握られていた硝子片は使用されたアンプルの残骸だった。

 その硝子片は時期にレモンの手から消失した。

 レモンのHP数値が〈48/48〉となり、HPバーも満タンになった。

 しかし、残念ながらゾルちゃんの復活アイテムはもうなく、ただその場で丸まっていた。


「……ゾルちゃんはHPが全て削られてしまいましたので、私達の2人だけで対処しましょう」


 槍を取り出し、そう言い出すレモン。しかし、勝算などあるわけがない。


「どう対処する気だ?レベル差は見ての通りだ。討伐はさすがに無理だぞ」

「はい、それは分かっております。元より、攻撃したところでダメージはほとんど入りません」


 攻撃を仕掛けて来ず、ただただこちらを見てくるメレデヴェレデから目を離し、レモンはアソビトに向いて()()()()()()()()について説明し出した。


「……このゲームはPVでも言われていた通り、高難易度です。その理由は今から言う2つが原因です。それが、〈レベル差ダメージ補正〉と〈夜行性〉です」


 喋り出しても攻撃を仕掛けてこないメレデヴェレデにレモンはある確信を持ちつつ、解説を再開した。


「〈レベル差ダメージ補正〉ですが、他のゲームでもあるようなありふれた仕様です。ですが、このゲームでは補正がレベル差が1つ変わるだけで発生してしまいます。エネミーよりもプレイヤーレベルが1低かった場合、攻撃にかかる補正は0.75倍。単純計算で等倍の時、100ダメージがエネミーに入ると考えた場合、レベルが1つ離れていたら75ダメージにまで減少してしまいます。ただ、ゲームの仕様上〈ダメージが1未満にならない〉のでレベル差が75以上離れていたとしても必ずダメージは1出るということです。それと〈夜行性〉ですが──」

「ま、待ってくれレモン」


 唐突にアソビトに解説を止められ、少し不機嫌そうな顔をするレモン。


「なぜ止めるのですか?大事な話なのですよ」

「いや、大事なのはわかるんだけど、目の前にあれが」


 そう言い、メレデヴェレデに指を差すアソビト。それに対しレモンは落ち着いた声で言葉を発した。


「大丈夫です。メレデヴェレデはまだ襲ってきません。現に解説中に攻撃されませんでしたよね」

「た、確かに……」

「恐らく、こちらから攻撃を仕掛ける。もしくは逃亡するとメレデヴェレデも戦闘態勢になるのだと思います」


 その言葉にアソビトはある事が疑問に残り、レモンに問いかけた。


「でも、最初に攻撃しかけてきたよな?」

「あれは恐らく〈夜襲ハイドエンド〉と呼ばれるものでしょう。これも〈夜行性〉にまつわるものです」


 レモンは人差し指を立て、解説を始めた。


「〈夜行性〉というのは、夜になるとエネミーは凶暴化するという仕様です。〈夜襲〉はその〈夜行性〉の凶暴化による特有のものです。プレイヤーを見つけた時、必ず一度はエネミーから攻撃を仕掛けてくるというものが〈夜襲〉です。それともう1つ〈夜行性〉には覚えておかなければならないものがあります」


 レモンはなぜかそこで言葉を溜め、真剣な顔で続きを話した。

 その続きを聞いた時、アソビトはレモンが言葉を溜めた理由を理解した。


「〈夜行性〉エネミーには1.25倍のダメージ補正と1.1倍のスピード補正がつきます。エネミーの攻撃が100ダメージとすれば〈夜行性〉によってダメージが125にまで上がります。速度も数値的にはそこまでのバフですが、体感ですぐに速さの違いがわかります。本来〈夜行性〉という仕様はボスエネミーなどの特殊なものには適用されないのですが、メレデヴェレデだけはこの仕様が適用されるようです」


 レモンの解説が終了する。

 解説を聞き、ますます勝算などないということを理解し、アソビトは苦笑いを浮かべた。


「勝てないことは理解したが、どうする?逃げるにしても速度補正1.1倍がついてるんだろ?」


 アソビトの言葉にレモンは固唾を飲み、口を開いた。


「成功するかは全く分かりませんが、案がないことはないです。どうされますか?」


 その問いにアソビトは苦笑いを笑みに変え、レモンに賛成の意を表した。


「どうせやらなきゃ殺されるんだ。やるだけやろうじゃんかよ」


 アソビトの言葉と笑みにレモンも釣られて笑みを浮かべた。

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