3話 チュートリアルよりレベル上げ
雑貨屋で回復薬などの必須アイテムを購入し、アソビトとレモン、そしてレモンの肩でうつ伏せで寝るゾルちゃんは〈ウーナ・レイデア〉をテキトーに散歩していた。
「チュートリアルもかなり進んだな、あとどれが残ってるんだっけ?」
「あと3つですね。チュートリアルを開始するには鍛冶屋に行く。組織に加入、もしくは作成する。鍛冶・戦之業に行く。どれから始めますか?」
レモンの口から聞いた事のない言葉が聞こえ、アソビトは眉を顰めながらレモンに問いかけた。
「いくさのわざ?なんだその鍛冶屋」
アソビトの問いかけにレモンは人差し指を立て、解説を始めた。
「戦之業です。要はスキルのことです。スキルにはそれぞれ〈深淵〉と呼ばれるものが存在します、進化とも呼びますね」
説明に聞き耳を立て、ゾルちゃんが欠伸をする。そんなことは気にも止めず、解説を続けるレモン。
「その〈深淵〉を引き出すための鍛冶屋が戦之業です。また戦之業ではスキルを購入することができ、街によってラインナップやピックアップが変化することがあります。ピックアップのスキルは通常より安く購入することが出来たりします。ただスキルにも我々と同じくレベルが存在し、一定以上数字が上がらないと〈深淵〉を引き出せないという枷もあったりします」
早口で語られた用語の数々にさすがのアソビトも苦笑い。
レモンの肩で欠伸をしていたゾルちゃんは何も話を聞いていないという顔で尻尾をくるくる回している。
「と、とにかく、その3つの内のどれかって話だよな」
「はい、そうですね。でもチュートリアルを無理に始めなくても大丈夫です。任意のタイミングで始められますよ」
レモンの言葉にアソビトは嬉しそうな顔でレモンに
問いかけた。
「え、チュートリアルって強制じゃないの?」
「はい。その3つのどれかをしない限りは任意です」
アソビトはチュートリアルが強制じゃないということに歓喜する。
ゲーム情報を事前に調べたプレイヤー、もしくはセーブデータを複数作る、リセマラするプレイヤーなら誰しもが1度は思ったことがあるだろう。チュートリアルいらないよ、と。
既に分かっているシステムをあれやこれやと何度も説明されても困る。それなのにスキップ機能がなく、更には時間がかかる。ゲームジャンルによってはチュートリアルをしなくとも同じな部分が多い。
そのため強制チュートリアルはかなり面倒なことが多いのだ。その中で〈フィーニス・ウィア〉ではチュートリアルは特定の行動を起こさない限り発生しない任意。やりたい時にやれるという嬉しい仕様だ。
アソビトは歓喜の笑みを浮かべながら拳を握り、目を輝かせた。
「チュートリアルが強制じゃないならチュートリアルスキップだ!レベル上げをするぞ!」
喜ぶアソビトに微笑み、レモンは頷きを返した。レモンの肩で尻尾を回していたゾルちゃんも飛び上がり、前足をぱたぱたさせる。
「承知しました、主様」
【ギャウ!】
レモンとゾルちゃんは〈高原平野〉に向かうアソビトの背を追った。
2人と1匹はまた〈高原平野〉に着き、戦闘態勢を整えた。
「よし、とにかく敵をじゃんじゃん倒してレベル上げだ。格上だろうと格下だろうと片っ端から狩るぞ!」
「はい」
【ガウゥン!】
槍を両手に返事をするレモンと巨大な翼を羽ばたかせ、尾を地面にビタンと打ち付け返事をするゾルちゃん。
「確か経験値はパートナーNPCと共有できるんだったよな」
アソビトの問いにレモンは頷き、また人差し指を立てた。
「そうですね。敵エネミーを倒した時の経験値は我々で共有されます。またジョブが〈竜騎士〉、〈騎乗戦士〉、〈調教者〉、〈死操師〉であれば〈相棒〉にも同様に経験値が共有される仕組みになっています」
「てことはゾルも同じようにレベル上げできるってことか」
「そうですね、ですが1つ我々と違うのはレベルを1つ上げるための必要経験値量が多いということです。大体1.25倍の経験値を要求されます。小数点以下は四捨五入されるそうです」
「へぇ、結構要求されるんだな」
そう言いながらアソビトはステータスウィンドウを開く。
そこにはアソビト、レモンのステータスとゾルちゃんのステータスが表示されていた。
アソビト JOB:破剣士
Level:2 NXTLvまでに必要な経験値:250
HP:52 MP:38 STM:45 STR:89 DEF:61 HIT/DEX:46 AGI:28 RES:42 LUK:30
残り振り分けステータス値:1
レモン JOB:竜騎士
Level:2 NXTLvまでに必要な経験値:250
HP:48 MP:51 STM:40 STR:65 DEF:43 HIT/DEX:50 AGI:34 RES:40 LUK:24
残り振り分けステータス値:1
紅鱗竜 ゾルヴァーナ(ゾル)
Level:2 NXTLvまでに必要な経験値:313
HP:130 MP:15 STM:65 STR:100 DEF:98 HIT/DEX:62 AGI:116 RES:76 LUK:0
残り振り分けステータス値:1
そのステータスを確認しながらアソビトはあることに気づき、レモンに問いかけた。
「なぁレモン、ゾルのレベルアップに必要な経験値って俺たちより1.25倍多いんだよな?」
「はい、そうですけど、どうかされましたか?」
アソビトはレモンの元まで歩み寄り、ステータスウィンドウのある場所を指差した。
「なんでゾルのレベルも1上がってるんだ?まだゴブリン1体しか倒してないよな?」
レモンはそうだと思い出した顔をし、アソビトの疑問を解決すべく説明した。
「説明し忘れていました。チュートリアルで得られる経験値は必ずレベルが1つ上がるようになっているんです。なので必要経験値量が1.25倍のゾルちゃんもレベルが1つ上がったというわけです」
レモンの解説に納得をしたと言わんばかりに頷くアソビト。その口からは納得の言葉が漏れ出している。
疑問を解消したアソビトはステータスウィンドウを閉じ、大剣を構えた。
「よし、疑問も解決したところで、早速レベル上げするぞ」
大剣を肩に乗せ、〈高原平野〉に溢れるエネミーに近づく。そして容赦なく先制攻撃をかまし、苦戦することなくエネミーを倒す。
それを見てレモンとゾルちゃんも戦闘に参加しようとするが、アソビトに止められてしまう。
「効率よく経験値を稼ごう。全員バラけてエネミーを倒してくれ。日が沈む前にまたこの場所に集合しよう」
アソビトはそう言いながらマップウィンドウを開き、レモンの立つ位置にピンを刺す。
その直後、レモンの立っている位置に赤色ポイントが浮かび上がり、ふわふわと上下に揺れ、2回ほど上下を往復したあとくるりと一回転する。
そのポイントはアソビトとレモン、ゾルちゃんしか確認できないものとなっている。
「承知しました、主様。ゾルちゃんも、別で行動しましょう」
【ガウン!】
レモンはポイントを確認したあと、アソビトに承知の念を伝え、ゾルちゃんにも別行動を頼む。
ゾルちゃんもレモンとアソビトに承知の念を伝え、翼を羽ばたかせエネミーに攻撃を仕掛けに行った。
アソビトとゾルちゃんがいる方向とは別の方向へと向き、レモンは槍を構え、エネミーの元へと走り出した。
それを確認し、アソビトはレモンから目を離し、目の前に寄ってきているエネミー、ゴブリンに大剣を構えた。
「それじゃ、経験値じゃんじゃん稼ぐか!」
言葉の終わりと同時にゴブリンが飛びかかってくる。それに対し、アソビトは大剣を振り下ろした。