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フィーニス・ウィア ❖終焉の軌跡❖  作者: 朱華のキキョウ
1章 血肉啜る悪魔の元に
28/81

27話 さすがに先約優先だけど

 晩御飯のカレーライスを食べ、まったりと2人の時間をソファで過ごしていた遊渡と麗華。気づけば時間は22時50分に差し掛かっていた。


「そろそろ時間だな」


 遊渡の言葉に麗華は時計に目を向ける。2人まったり時間に23時に予定があることを麗華に告げていた遊渡。そのため麗華は23時にはまったり時間が終わってしまうことを知っていた。

 そのためか、時計を見た瞬間麗華はかなり寂しそうに遊渡の腕をギュッと抱き締めた。


「もう終わり……?」

「ごめん姉さん。さすがに先約を破る訳にはいかないから」


 麗華は抱き締めていた遊渡の腕をとてもとてもとても寂しそうにゆっくりととてつもなく遅く離した。


「……明日、1日権」

「うっ……それは」


 1日権。それは遊渡と麗華で決めた家内のルール。というよりただの麗華のワガママだ。

 2人のまったり時間を何よりも優先する麗華とは違い、遊渡は先約を優先する。そのため、こうしてまったり時間を潰されて不機嫌になった麗華が自身の機嫌を保つために考えたルール、それが1日権だ。

 簡単に言えば遊渡を一日中麗華が好き勝手できるというルールだ。


「ね、姉さん、さすがに1日権は……」


 なぜ遊渡が1日権を拒否るのか。それは簡単な話、1日権を使われた日は基本的に毎回枯らされているからだ。

 毎回1日権を使われた次の日も動くことが出来ず、実質2日権のため、遊渡はその事も考えて拒否っている。

 だが、麗華は知っていた。遊渡は麗華からのおねだりに弱いということを。

 麗華は立ち上がり、それから遊渡の方へ体を向け、遊渡の足に跨り、真正面から遊渡へとゆっくりと近づいていく。


「え、ちょ、ね……姉さん?」


 遊渡の言葉には耳を貸さず、麗華は遊渡と完全に密着する。それからゆっくりと腕を遊渡の首に回し、自分のひたいを遊渡の額に当てる。

 それから薄ら桃色に染めた頬に恥じらいの顔を浮かべ、口篭りながらも麗華は遊渡におねだりをした。


「お願い、遊渡。ねぇ、ダメ?」

「うぐっ……」


 麗華のおねだりに相当弱い遊渡。決意が多少揺るぎはしたものの、未だ拒否を貫き通す遊渡。

 それに対し、麗華は最後のひと押しと言わんばかりに体を更に密着させ、遊渡の耳元に口を近づける。甘い吐息を混ぜながら麗華はトドメの一撃を刺した。


「私のこと、好きにしていいから、ね?」


 その言葉に完全に思考が停止する遊渡。遊渡も1人の男だ、恋人にこんなことを言われて正気でいられる人はいないだろう。

 遊渡はゆっくりと麗華を引き剥がした後、深呼吸をしたのち、返事を待つ麗華に下を向いたまま口を開いた。


「……すぐに予定切り上げるから寝ずに待っててほしい」

「え?えっと……別にいいけど、なんで?」


 キョトンとする麗華に遊渡はゆっくりと顔を上げ、麗華と目を合わせる。その目を見た瞬間、麗華は体をピクッと跳ねさせた。


「あれだけ煽ってきたんだ。今日は寝れると思うなよ、麗華」


 男の眼光に麗華は身体中を火照らせ、完全に落ちきった顔でおっとりとした返事を返した。


「……はい♡」


 ボーッとする麗華をソファの隅へ移動させ、遊渡は急ぎ足で自室へと向かった。

 自室へ移動した遊渡は〈フィーニス・ウィア〉のゲームカセットをVRゲーム機であるヘッドギアから取り出し、カセットを〈フィーニス・ウィア〉のパッケージに仕舞う。

 それからゲームパッケージが山ほど立掛けてある棚へ〈フィーニス・ウィア〉を仕舞い、そこから()()()()()()()()()()を取り出した。

 そのゲームパッケージには〈ファイティング・フェスティバル〉と書かれている。

 簡潔に説明すれば格闘ゲームだ。〈ファイティング・フェスティバル〉はキャラメイクをして自キャラで格闘をするゲームではなく、運営が生み出した既存のキャラを操作して戦う格闘ゲームだ。

 キャラの性能などの格差が明確に存在するため、プロゲーマーや格ゲーマニア以外はほとんど引退を余儀なくされた。

 運営側もある程度修正はしたものの、キャラごとにテーマがしっかりとしていたせいもあり、そこまで大きく性能をいじることはできず、結果中途半端なキャラ格差が残り、更に過疎化を進めた格ゲーである。


「このゲーム、何年ぶりだ?」


 ゲームの発売自体は4年ほど前で、過疎化が進んだのは2年前。遊渡が〈ファイティング・フェスティバル〉から離れたのも丁度過疎化が進み始めた頃だった。


「ま、メールの内容的に対戦じゃないっぽいし、細かいことはいいか」


 パッケージからカセットを取り出し、ヘッドギアのカセット挿入口に入れる。カチッと音がしたのを確認し、カセット挿入口を専用のゴム蓋で塞ぎ、ヘッドギアを頭に装着する。

 そしてベッドに寝転び、〈フィーニス・ウィア〉をプレイする時と同じセリフを口にした。


「〈ダイブ〉!」


 突如視界が暗転し、〈ファイティング・フェスティバル〉という文字がデカデカと表示される。

 時間が経つにつれ、その文字は薄れていき、黒い背景が美しい街並みへと変化していく。


「さてと、久々にログインしてみたけど、あいつは何処だ?」


 体をググッと伸ばす遊渡、もといアソビトの目の前の建物の屋根に突如人影が映し出された。


「2分遅刻とは、いい度胸じゃないか」


 街中に響き渡る声。その声にアソビトは顔を上げ、笑みを浮かべた。

こういう甘々なのってすごくいいですよね

自分すごく好きなんですよ

書いてても楽しいし見ててもほっこりするし

ただ、ちょっと過激かなって思うところはある

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