25話 待ち合わせは別のゲーム
現実へと戻ってきたアソビト、及び遊渡はVRゲーム機を頭から外し、ベッドから起き上がる。
ベッドの物置棚に置かれた時計は短い針を5の数字を指し示し、長い針は15の数字を少しすぎたところだ。
「……夕方、と。眠気もあったし、ログアウトを選んだのは正解だな」
ゲーム機を物置棚へ置き、ベッドから立ち上がる。部屋の扉を開け、リビングへと行くが、麗華の姿は見当たらない。
が、遊渡は麗華がログアウトをしていることを知っている。
理由は、麗華とのパーティをまだ解消していないからだ。
〈フィーニス・ウィア〉ではパーティを組んでいる間、相手の体力や強化状態、弱体化状態の確認、どのエリアにいるのか、そしてログイン状態なのかを確認することが出来る。
遊渡はログアウトする手前、麗華のことを確認していた。視界の左上に常時表示されるパーティメンバーの簡易詳細にログアウト中と書かれたコウをちらっと視界に収めていた。
そのため、現在麗華がログアウトして現実にいることは確認済み。特に麗華に用がある訳では無いが、一応の確認だ。
遊渡は冷蔵庫の方へと歩みを進める。それから冷蔵庫を開け、缶を1本取り出した。
〈ブレッシングライフ〉
缶にはどデカく天使を彷彿とさせる色合いの文字が目立つ。遊渡はプルタブを弾き、缶を開封。プシュッ!と軽快な音を奏でた後、缶の中の飲料は二酸化炭素をリズム良く音打つ。
遊渡は缶の飲み口に口をつけ、缶をグイッと上に持ち上げる。飲み口から飲料が遊渡の口の中へと流れ込み、グビグビと喉が愉快に鳴る。
3回ほど喉を動かし、音を鳴らした後、遊渡は声を荒らげながら缶を口元から離した。
「ぷはぁあああ!やっぱり最高の飲み物だなブレッシングライフ!この喉を穿つ炭酸と舌を喜ばせる甘味!やっぱり俺のソウルドリンクはこいつだけだな」
「楽しそうね」
〈ブレッシングライフ〉を飲み、1人で盛り上がっていた遊渡の隣から声が聞こえる。聞き覚えのある声に首を横に向ける遊渡。そこには思っていた通り、麗華が笑顔で遊渡のことを見ていた。
「あ、姉さん。さっきまでどこにいたんだ?」
「お風呂掃除してたのよ。もうお風呂に入れるけど、どうする?」
麗華の言葉に遊渡はうーんと考えた後、頷き、麗華に顔を向けた。
「早いとこ風呂に入っちゃうか」
「わかった、じゃあ給湯器の自動押しとくね」
そう言って麗華は洗面所の方へと歩いていく。それを横目に〈ブレッシングライフ〉の飲み口に自身の口をつけようとした時、遊渡のポケットにいつの間にか入れていたスマホが振動し始めた。
「お、なんだ?」
遊渡はポケットからスマホを取り出す。そして通知に目を向ける。そこには見慣れた〈からあげ〉という文字が書いてあった。
「あいつからメール?」
遊渡は顔認証でスマホを開き、メールを開く。そしてからあげから送られてきたメールに目を通す。
差出人:からあげ Karatto_AgeAge@jmail.com
宛先:アソビト Asobiyuuto@jmail.com
件名:話がある
アソビト、お前に話がある。これは大事な話だ
フィーニス・ウィア、フィニアじゃ会いたくな
さそうだったから別ゲーで話そう
ゲームはオレとお前が初めて大会で対戦したゲ
ームでいいだろ?
いいか?拒否権はねぇからな
もう一度言うが、大事な話なんだ
早めに返信してくれ。落ち合う時間はお前に任
せる。それじゃよろ
──いや、会いたくないとかじゃなくてあの気迫がやばすぎただけなんだが
からあげから逃げていたのはモンスター化したからあげからただ逃げるため。会いたくないというわけではないのだ。
──初めて対戦したゲーム、てことはあれか。時間はこっちで決めていいなら……
遊渡はササッと返信を書き、からあげへとメールを返信した。
そしてそれと同時に遊渡は麗華に肩を叩かれた。
「お風呂湧いたわよ、早く入ろ……取り込み中だった?」
「いや、今終わったところだよ。入ろっか」
少し心配そうな顔をしていた麗華に遊渡は笑顔を向け、心配しなくてもいいということを麗華に伝える。
遊渡はスマホと缶を机へ置き、麗華と共に洗面所へと移動した。
机の上で光る遊渡のスマホ、その画面には簡潔なからあげへの返信が映っていた。
差出人:アソビト Asobiyuuto@jmail.com
宛先:からあげ Karatto_AgeAge@jmail.com
件名:了解
わかった。時間は俺が決めていいんだよな?
じゃあ、今日の23時に集合な。お前が呼び出
したんだ、遅れんなよ?
夕焼けの光が差し込む広い豪勢な部屋の中、男性はスマホで帰ってきたメールの内容を確認し、笑みを浮かべた。
「23時か。まだ時間あるな」
男性はまたもや豪勢な椅子に腰をかける。その瞬間、椅子は左右と上部から大きなモニターをゆっくりと出す。
右手にある操作盤でモニターに映るゲームタイトルを変更し、男性はあるゲームタイトルで操作を止め、決定ボタンを押した。
「あいつが来るまで練習でもしとくか、大会も近いしな」
男性はゆっくりと目を瞑り、全身の力を抜く。それから深呼吸をし、口から決め台詞を出した。
「〈ダイブ〉!」
その決め台詞を合図に、男性はゲームへと精神を潜らせた。




