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フィーニス・ウィア ❖終焉の軌跡❖  作者: 朱華のキキョウ
1章 血肉啜る悪魔の元に
1/81

プロローグ 本編までが長すぎる

「さてと?リリース初日から遊ばせてもらいますか」


 歯を見せて笑う青年はフルダイブ型VRゲーム機を手にゲームパッケージに見る。


 〈フィーニス・ウィア ❖終焉しゅうえん軌跡キセキ❖ 開拓の先、終わり無き終わりを見届けよ 汝にFortia(フォルティア)を。〉


 ゲームのタイトルと厨二病臭い謳い文句、そして広大な平野を飾るパッケージには傷一つなく、窓の外から射し込む光を煌びやかに反射させる。

 青年はそのパッケージから目を逸らし、VRゲーム機を被る。


「よし……やろうか。[ダイブ!]」


 真っ暗な視界はやけに明るく光り、青白く視界が開ける。

 青白い世界の中を女性の声が反響する。


 [ようこそ、フィーニス・ウィアへ。]


 アナウンスと共に選択バーが表示される。そこにはアバターの文字と男性、女性の文字。


 [ゲーム内でのあなたの分身、アバターを作成してください。]


「まぁここは他のゲームと何ら変わらないな」


 青年はそう言いながら男性と女性の文字に指を伸ばす。そして直後に指を止め、唸り始めた。


「うーん、男性アバターか女性アバターか……防具の見た目に大きな差異がありそうなんだよなぁ」


 ゲームによって装備の見た目が男性女性で違いがあるのはゲームをプレイした者なら誰しもが見たことがあるだろう。男性アバターの場合、かっこいい系やごつい系が多く、女性アバターの場合、かわいい系やセクシー系が多い。プレイヤーが男性であろうと女性であろうと、別の性の装備が気になったり、見た目が好きだったりすることがある。

 それにより本性別ではない性別をゲーム内で選ぶことはよくあること。

 この青年は数多くのゲームをプレイし、余すことなく遊び尽くすことで有名である。その中には自分の分身を作りプレイするゲームもある。

 青年は装備の見た目を気にするタイプ。そのためゲームによって性別を替え替えしている。

 本来であればゲームを始める前に事前に下調べをする青年だが、今回は下調べなしの完全初心者状態。装備の見た目に大きな差異があるかもそもそもどんな雰囲気の装備があるのかもわからない。

 セーブデータを数個も作る気のない青年からすればこの性別選択はとてつもなく重要な決断なのである。


……15分後……


「男性に……いやぁ待て待て待て……やはりここは女性?いやあああああ……」


 青年は未だに悩み続けていた。震える指は男性と女性の文字を交互に動く。

 ゲーマーならばこの選択の重要性が分かるであろう。特にこの青年にとってはかなりの重要性を持っている。


「……いや、ここはこうだ!」


 青年の指は男性の文字を突き刺した。

 ピコンッという音と共に男性の文字が強調表示される。そして文字が消え、更なる文字が浮かび上がる。

 その文字を聴覚的にも判断できるように女性の声が響く。


 [アバターを作成してください。事前に用意された18個のプリセットから選ぶことが可能です。更にプリセットから詳細設定を選択することでこと細かくアバターを作成することができます。]


 多くの選択肢が青年の目に飛び込む。青年の指は迷うことなくプリセット1を選択、そして詳細設定に指を伸ばし次々に数値をいじっていく。


「ま、こんなもんだろ」


 完成したアバターが全体表示される。迷いなく作成されたアバターは青年と瓜二つの見た目をしている。

 青年は決定のボタンをすぐに押した。アバターを眺めた時間僅か2秒。

 アバターの詳細設定などの選択肢が消え、新たな項目が表示される。


 [アバターのネームを決めてください。]


 アバターのネーム。青年はもう既に決めていた。いや、それ以外に有り得ないと言うべきか。


「これで良しと」


 アバターネームには〈アソビト〉の文字が並んでいた。

 紹介が遅れてしまったが、この青年の名は〈新戯 遊渡(あらぎ ゆうと)〉。ゲームを愛し、ゲームに命を売った男。というのは冗談だが、ゲームを愛しているのは本当だ。

 ゲーム界隈でも名の知れた有名人で、必ず〈アソビト〉という名前をつけている。

 ネームを決定し、また更なる文字が浮かび上がった。


「お?これは……」


 新戯 遊渡、もといアソビトは浮かび上がった文字を見て胸のワクワクを躍動させる。

 その躍動を促進させるように女性の声がアソビトの耳に飛び込んできた。


 [ジョブと用意された初期装備を選んでください。]


 ずらりと並んだジョブの数。パッと見ただけでも10個はあるだろう。


「どれどれ?どんなジョブがあんのかなぁ」


 指で文字をなぞる。剣士や守護戦士、魔法士や魔術師などなどかなりの種類のジョブがあることが見て取れる。

 ジョブの種類を見ている中、アソビトの指があるジョブを差したまま止まる。

 そこには特に強調された文字ではないが、見たことの無い文字が書かれていた。


「なんだこれ……〈破剣士ブレイダー〉?」


 見たことの無いジョブの名前にアソビトは首を傾げながら内心ワクワクを滾らせていた。


「〈破剣士〉ってなんだ?説明とかないのかな」


 アソビトは文字を押してみる。すると〈決定〉と〈キャンセル〉の文字が浮かび上がり、女性の声が響く。


 [〈破剣士〉に決定しますか?]


「違う違うどんなジョブか確認したいだけなんだよ。〈キャンセル〉押して……長押しかな?」


 〈キャンセル〉の文字を押して選択を1度やめ、今度は〈破剣士〉の文字を長押しする。

  すると〈破剣士〉の文字が強調表示され、数行の文章が浮かび上がった。


「お?これが説明か……どれどれ?」


 数行の文章、〈破剣士〉の説明を指でなぞりながら読み始める。


「……〈破剣士〉。大剣や大斧などの破壊力に極振りしたジョブ。重量級の武器を巧みに操り、全てを破壊し尽くす無情な戦士。俊敏にステータスを振れば重量級武器を扱いながらスピード良く動き回ることも可能。遠距離武器と軽量武器との相性〈悪〉。へぇ、面白そうじゃん!」


 アソビトは〈破剣士〉の文字を押し、女性の声を聞きもせずに〈決定〉のボタンを押した。


「初期装備はまぁ、言うて目を引く物ないしテキトーでいいか」


 そう言いつつ軽量装備を選ぶ。防御力は無いものの、重量が少なく機動力を確保することが出来るとのこと。


「これで決定!おっし、じゃあそろそろ本編に……い?」


 ゲームスタート、と思っていたアソビトだったが、更に文字が浮かび上がり、アソビトは腑抜けた声を漏らした。

 またも女性の声が世界に響き、アソビトの腑抜けた声をかき消す。


 [パートナーとなるNPCのアバターを作成してください。事前に用意された15個のプリセットから選ぶことが可能です。更にプリセットから詳細設定を選択することでこと細かくアバターを作成することができます。]


「パートナーとなる、NPC?」


 下調べなし。そうこの青年、アソビトはゲームにログインするまで下調べをしないという制約を自らかけ、あろう事か事前紹介PVすらも閲覧していないのである。そのため〈パートナーNPC〉の情報すら知らない。

 ならどうやってアソビトはこのゲームのこと知ったのか。他ゲームを共にプレイしていたフレンドの話からこのゲームのことを知ったのだ。

 気持ち昂るフレンドの話を遮り、アソビトは情報を遮断するとフレンドの話を断固拒否。そして今に至るというわけだ。


「NPCの見た目?まぁ、テキトーに……」


 そう思いプリセットを開いた。その瞬間、面倒くさそうだったアソビトの顔が一気に活気溢れ、高揚を取り戻した。


「なんだよこれ……人に狼に虎、竜まで!?おいおいおいなんなんだよこのゲーム!もうこの時点で面白すぎだろ!」


 アソビトは計10体のプリセットを見比べる。人:男性、人:女性、狼、虎、竜、大型昆虫:サソリ、大型昆虫:蜻蛉トンボ、馬、鳥、そして岩壁人形ゴーレム

 どれもこれも面白そうなものばかり。アソビトは性別選択の時以上に唸り、悩み始めた。


「うわぁぁぁ……迷うぅぅぅ……」


 そこからアソビトの壮絶なパートナー選びが始まる。


「狼、気になるなぁ虎もいいよなぁ。竜パートナーにできるとか最高かよ!鳥とかも肩に乗せてとかロマンあるよなぁ、サソリとトンボは……まぁどうなんだ?馬は移動が便利だろうしゴーレムも〈破剣士〉との相性良さそうだよなぁ。人も連携が取りやすそうだし……うわ迷うぅあぁぁっ」


 そう唸りつつ悩みに悩み続け、気づけば時間は経っていく。


……1時間10分後……


 アソビトは悩みに悩んだ末、震える指で〈人:女性〉を選択した。


「ふぅ……これで良し。じゃあアバターの見た目作ってと」


 様々な項目をポコポコと音を立てながら弄っていく。自分のアバターよりも集中して入念に項目の数字を合わせていく。

 そして気がつけば。


……1時間後……


「……よし、こんなもんだろ!」


 パートナーNPCの見た目が完成した。

 かなり美しいな顔立ちに男の目を引くバスト、スレンダーな体に少し大きなヒップ。髪はサラサラとした純白のロングポニーテール。アソビトの性癖が詰まっている。


「……かなり俺好みに寄せすぎたけど、まぁ……いっか。決定と」


 〈決定〉を選択する。ついにフィーニス・ウィアがスタートすると思ったが、また別の項目が現れた。


 [アバターの性格とジョブを選択してください。ジョブは人:男性もしくは人:女性の場合のみ選択可能です。]


 女性の声が告げた通り、性別とジョブの項目が表れる。


「性別まで決めれんのかこれ、なになに?明るい、真面目、無口、穏やか、素直、負けず嫌い、愛嬌、淫乱?え、そんなのもあんのか」


 フィーニス・ウィアの対象年齢は18歳以上。なぜその年齢に設定されているのかがわかる。


「てかこれ、人じゃなかったら淫乱どうなんだ……ちょっと気になってきたな」


 好奇心は何人なんぴとも縛り付けることはできない。が、アソビトはなんとか好奇心に耐え、〈穏やか〉を選択した。

 そしてジョブの選択に移ったが、先程のジョブ一覧と変わらない文字が並んでいた。


「いやぁ、さすがに〈破剣士〉以外にしたいな。何か面白そうなのは……お?これは」


 ジョブ一覧を眺めるアソビトの目が止まる。そこには〈竜騎士ドラゴンセイバー〉と書かれていた。

 その文字を長押しし、説明を表示させる。


「竜に乗り颯爽さっそうと敵エネミーを倒すことからその名を授かった騎士。直剣や大剣、槍や戦斧など、短剣以外の近接武器を操れる。初期の相棒は炎ブレスを得意技とするワイバーン。竜のタマゴを入手し、孵化ふかさせることで他の竜を手懐けることが出来る。短剣と遠距離武器との相性〈悪〉。これにするか」


 〈竜騎士〉を選択し、〈決定〉を押す。そして先程と同様装備項目が表れる。

 そこには軽量装備から重量装備、露出度の高い装備などマニアックな物まで揃っている。


「うわ何だこの淫乱装備!?防御力も無さすぎるだろ……さすがに他だな、見た目もなんか違うし。お、防御力もあるし見た目も悪くないな、これにしよう」


 そう言って選んだ装備は黒のロングコートに白のノースリーブ、そしてノースリーブに隠れるほど短いショートパンツ。現実世界で着ている人が居てもおかしくないような現代の装い。

 防御力は重量装備には劣るものの、軽量装備よりも高く、淫乱装備とは比べ物にならないほどに高い。


「さてと、ゲームスタートと行きますか!」


 〈決定〉を選択。そして最後の項目が出現する。女性の声、アナウンスはどこか名残惜しそうに告げた。


 [アバターの作成を完了しました。〈スタート〉を選択するとゲームを開始できます。改めまして、〈フィーニス・ウィア ❖終焉の軌跡❖〉へようこそ。汝に、Fortia(フォルティア)があらんことを。]


 アナウンスが終わるのを確認し、アソビトは笑みを浮かべながら〈スタート〉を押した。

 遂にここから、アソビトの〈フィーニス・ウィア〉ライフが始まった。

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