彼女の思わく
部屋の中は整理されている、一般的なアパートの一室というところだ。中には箪笥とベッドと折り畳み式の机がある。他と違う所は神棚があるという所だ。
中山陽太と霧島恵が卒論を完成させるべく、パソコンをカタカタと打ち込んでいる。
陽太の手が止まる。
「終わったわ〜」
恵はパソコンに顔を残したまま、目線を陽太に向ける。
「訂正箇所はないの?」
陽太は顔を横に向けて、頷く。
「大丈夫だ」
恵は疑いの目を向けたが、陽太が提出したものにこれまで間違いはなかった。
陽太はこれまでの重労働から解放されたように晴れ晴れとした顔になった。
恵は意を決して、陽太に対しての悩みを吐き出す事にした。
「ねぇ?」
「何?」
「私達、付き合ってるよね?」
陽太は照れ臭そうに笑う。
「そうだ」
恵はキッと目を細める。
「だったら、隠し事はないよね?」
「え?」
「隠し事してるでしょ?」
急な恵の問いかけに戸惑う陽太
「何のことだよ」
「惚けないで、私と居る時も他のこと考えたりしてるじゃない」
恵は会話している最中でも陽太が度々、顔を横に向けるのを見ていた。まるで、何かに意見を聞いているように
陽太は今回も横を見ると神妙な顔に変化した。
恵はすかさず問い詰める。
「他に女が居るの?」
戸惑う陽太
「違えよ」
恵は顔を近づける。
「じゃあ、何よ?」
陽太は深い溜息を吐く。
「分かった、話すよ」
恵は全身を耳にして、陽太の意見を聞いた。
「実は俺、人を殺してるのよ」
眉を顰める恵。
「どういうこと?」
陽太の話では、中学の時、成績優秀な男女が居た。ずっと一緒にいる訳ではないけど、ちゃくちょくと会話をする程度、だけども、お互いに話している時だけはとても楽しそうだ。
お互いに好意を持っているのは明らかだ。周りも付き合ってると言っても、納得の二人だ。
ある時、陽太が机で物を落としてしまい、偶然二人が会話してる所に落ちてしまった。陽太は落とし物を拾って、顔を上げると会話を中断した二人と目が合った。
「二人って付き合ってるの?」
二人は慌てた様子になる。
「そんな訳ねえよ」
男子は照れ臭そうに咄嗟に否定をしてしまった。
それを聞いた女子はショックを受けた顔で立ち去って行った。
翌日から二人は話すことがなくなった。
男子が話しかけようとすると、女子が近くの友達と急に話したりして、明らかに避ける様になったからだ。
暫くしてから、帰り際の廊下に一人の少女が立っていた。
迷い込んだのかなと思って、陽太は過ぎ去ろうとするとその少女は顔を上げて、憎しみの篭った目で陽太を睨みつけた。
「アンタのせいで、私が生まれなくなったじゃないか!」
陽太は幼女の顔を見ると、あの男子の鼻筋と女子のぱっちりした目という特徴を見つけ、あの二人の子供だと直感した。
「えっと、、、」
「アンタの噂話のせいで、私が生まれなくなったんだ!アンタ程度の男でも私に近い能力を持った子が生まれる様に協力してもらうからね!」
罪悪感を覚えた俺はお祓いもに行く事もできず、迷惑をかけられないならという事を聞くとこにした。あの男子と鼻の形が似てた陽太は容姿の面ではクリアしてたらしい、結果はプラスになったと言っていい、それは死ぬ気で勉学に励む事になったという行動に現れた。帰ってからは飯以外はずっと勉強。寝てる時は夢で復習をするとこになり、優秀な成績を修める事ができたからだ。
「そして、お前と出会ったんだ」
考え込む恵
「てことは私と付き合ったのはその少女のお陰って訳?」
「そういうこと、お前に出会うまでにダメ出し食らったりして、大変だったんだぜ?地道にお前の気を引こうとして、頑張ったりな」
「何で、その子は私に教えていいって言ったのかな?私は警戒するかもしれないのに」
「何でも、もう教えても問題ないってさ」
「フーン」
恵は心の中で苦笑いをした。こんな私にとっていい男は手放したくない。この子は読んでいる。瞳は今まで顰め面で閉じていた目を開いて、ぱっちりした目を現した。
少女は言っていない事がある。それは中学で別れた女性は母親ではない。あの男女は高校卒業まで付き合って別れた。
本当の母親は恵だ。
陽太の何気ない一言で別れてしまった後は、父は高校に入学し、それから何人かの女性と付き合って、結婚したらしい。
少女は恵が母親じゃないといけない理由がある。
「でも、私と結婚しても堅苦しいかもよ。うちは代々、由緒ある神社を営んでるから」
「それも知ってるってさ」
恵は陽太が話しかけていた方を見て、苦笑いした。この子は陽太を逃さない為に自分の為にお祓いされる事がないことを知っている。
少女は思っていた。由緒正しいこの血筋の力を使えば、意識があるまま、輪廻転生ができるから私が生まれる様に頑張ってね。
恵は姿は見えないが目が合っていると感じた。
奇しくも、二人は同じ事を考えていた。
この人(陽太)を宜しくね。
陽太は背筋に氷を落とされる感覚がした。
青春の一時を無駄に探してないですから