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選ばれた未来



 ヤークト帝国とブラックレイ公国の間で休戦協定が結ばれ、幾らかの月日が過ぎた。


 旧シュヴァルツェ王国領内には依然として両大国の総督府が置かれ、それぞれの軍隊が駐留しているものの、かつてほどの軍事的な緊張感は無かった。


 シュヴァルツェ王国からの侵攻を受けて以来落ち着く間もなかったノッドカーヌ王国にも、ようやく平穏の時が訪れていた。


「ようやく一息つけましたね、メアリさん」


 ピンファは中庭の芝生に座り、花壇に咲き乱れる花々を眺めながら、隣に腰かけるメアリに言った。


「ええ。先日のアレサンドラ様とドルガ様の会談も、無事終わりましたし」


 中庭の片隅の、美しい花に囲まれた場所には、黒い石造りのオブジェが置かれていた。


 メアリの母の墓標である。旧シュヴァルツェ王国の王都からこちらへ移設したのだった。


「ヤークト帝国の復興支援にもようやく目途が立ちました。あとは人員と資金を送るだけです。いやあ、今回は僕もけっこう頑張りましたよ」


 そう言ってピンファは芝生の上に寝転がった。


 彼の頭を愛おしそうに撫でながら、メアリは言う。


「ピンファ様の頑張りは、私が一番知っていますよ。本当に……すごい方です、あなたは」

「いえいえ、今回の戦争が止められたのはメアリさんのおかげです。本当にありがとう、メアリさん」


 二人は真面目な顔で見つめ合い、そしてどちらからともなく笑い出した。


「では、僕たち二人はよく頑張った―――ということにしておきませんか?」


 ピンファの言葉に、メアリは笑顔を返す。


「それはいいアイデアです。そうしましょう」


 そこへ、国防大臣が駆け込んできた。


「国王陛下! お知らせがございます!」

「……な、なんだ!? 何が起こった!?」


 慌てて飛び起きるピンファに、大臣は息を切らしながら報告する。


「ついに届いたのでございます――例のモノが!」


 はあ、とピンファはため息をついた。


「何事かと思ったぞ、大臣よ」

「はっ、も、申し訳ありません! しかし一刻も早くお伝えせねばと!」

「分かった。貴公の忠義には感謝するよ。すぐに向かうとしよう」


 そう言ってピンファは立ち上がった。


「……大臣様、お怪我の具合はいかがですか?」


 メアリが尋ねると、大臣は腹部のあたりに触れながら明るく答えた。


「何も心配ございません! むしろ療養を取ったおかげで以前よりも健康になったくらいですな。わっはっは」

「そうですか……安心しました」


 胸を撫でおろすメアリ。


 そんな彼女に手を差し出しながら、ピンファは言う。


「では行きましょうか、メアリさん。私たちも準備に取り掛からなければいけません」

「ええ、ピンファ様」


 メアリはピンファの手を取って立ち上がった。


「ところで大臣、例のモノだが、仕上がりはどうだった?」

「それはもう、素晴らしいの一言に尽きるでしょう。メアリ様にきっとよく似合うはずでございます!」

「そうかそうか。そんなに良い出来なのか――――純白のドレスは」


 ピンファが発注していた例のモノ、それはメアリが結婚式で着るための純白のドレスだった。


 メアリとピンファの結婚式が、ほんの数日後に予定されているのだ。


「各国から祝いの文と品が次々に届いております。もう王宮には入りきれないほどですぞ」

「ありがたいことだ。招待状の発送はどうなっている?」

「予定通りでございますぞ!」

「それは何より。……きっと良い式になりますよ、メアリさん」

「はい。私もそう思います」


 ピンファに手を引かれながら、メアリは王宮の中へ足を踏み出した。


 そのとき、暖かい日差しを感じた彼女はふと背後を振り返り、空を見上げていた。


 そこには雲一つなく澄み切った青色が広がっていた。


 たとえ仮初のものだとしても、ようやく手にした平和を守り続けていかなければならない。


 この空が再び黒煙に包まれることが無いように―――。



◆◇◆◇◆



 メアリとピンファの結婚式は無事に執り行われた。


 来賓の中にはアレサンドラとドルガの姿もあったという。


 その式がどれほどの祝福に包まれたものだったかは、ノッドカーヌ王国王宮の広間に飾られた、大勢の人々の笑顔に囲まれる純白のドレス姿のメアリと、その隣で照れたような笑みを浮かべたピンファの写真が物語っている。



応援いただきありがとうございます!

これにて完結です!


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