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破滅に向かって その④


「戦闘を開始したのですか、ドルガ王」

「お互いに和平なんてものが実現しないことは確認できただろう? プラスに考えろよ、王様。戦争には資源が必要だ。資源を持ってるのはあんたたちだ。儲けさせてやるから安心しな。もちろん、あんたが余計な事をしない限りはな」

「……和平交渉はまだ途中のはずです」

「結論は出ただろ。さて、俺は前線で指揮をとらなきゃならねえ。長い戦争になる。せいぜい楽しませてくれよ、クソガキ」


 ドルガは立ち上がり、アレサンドラを見下ろした。


 一方のアレサンドラは余裕の笑みを浮かべ、それに答える。


「楽しいものになればいいのだけれど。私、一方的な虐殺は好みじゃありませんの」

「言ってくれるじゃねえか」


 ピンファは絶望していた。


 戦争が始まってしまった。


 それは同時に、メアリたちが危険に晒されることを意味していた。


 価値観が違うのだから仕方がない―――そんな一言で済まされるような事態ではない。


 何か打開策を考えなければ。


 しかし、どうすれば……。


 ピンファが自問したとき、迎賓室のドアが勢いよく開かれた。


 まず入ってきたのはヤークト帝国軍の兵士だった。続いて、ブラックレイ公国の兵士も室内へ飛び込んでくる。


「どうしたの、あなたたち。そんなに慌てて」


 アレサンドラの言葉に被せるようにして、ブラックレイ軍の兵士が言う。


「戦場に、ノッドカーヌ王国軍が現れました!」

「……ノッドカーヌ? どういうことかしら、ピンファ王」


 メアリたちが戦場に介入したのだ。


 一瞬、ピンファは言葉に詰まった。


 ノッドカーヌ王国軍が両軍の衝突を止めるために派兵されていることは、おそらくこの両君主は知らない。


 何か言わなければ不利になる。


 そう判断したピンファは覚悟を決めた。


「……あなたたちがどうしても戦争をするということであれば、こちらも実力を行使させていただく。これで私もこの戦争の当事者だ。さあみなさん、もう一度席にお座りください。お互いに犠牲が大きくなる前に、話し合いで決着をつけようじゃありませんか」

「面白くなってきやがった。あんたの婚約者がこの部屋にいないのが不思議だったが、そういうわけかい。つまり、シュヴァルツェ王国軍を滅ぼした軍勢が今、俺たちヤークトとブラックレイの間に割って入ってるってことだな?」


 ドルガは再び席に座りなおした。


「まさかあなたにそんな度胸があったなんてね。同盟関係にも傷がつきますわよ。一体どう収集をつけるつもりなのかしら、ピンファ王?」


 アレサンドラは眉を潜めながらピンファへ顔を向ける。


「……それはもちろん、平和的に、ですよ」


 もはや一刻の猶予もない。


 彼らに戦争から手を引かせるには、このタイミングしかないのだ――内心の焦りを押し隠し、ピンファはアレサンドラとドルガに笑いかけた。




◆◇◆◇◆




 時は少し遡る。


 ヤークト帝国とブラックレイ公国が衝突したのは、旧シュヴァルツェ王国の地方都市があった場所だった。


 そこはちょうど、ヤークト帝国の拠点とブラックレイ公国の拠点――シュヴァルツェ王国の元王都である――の中間に位置する地点で、まだヤークト帝国に占領されておらず、かつ、独立した政権もない、要するに誰の所有でもない場所でもあった。


 ことの発端はこうだ。


 ヤークト帝国が送り出した先発隊が駐留していたところを、ブラックレイ公国の別部隊が強襲したのである。


 それをきっかけに両軍の本隊が動き出し、この旧都市を拠点として取り合う形になった。


 突然の開戦で、旧都市に居を構えていた民衆たちが逃げまどう中、ヤークトとブラックレイの両軍が入り乱れる混戦が繰り広げられていた。


 メアリは近郊の小高くなっている地点から、国防大臣率いるノッドカーヌ王国の百余名の軍勢とともに、その様子を見つめていた。


「……始まってしまいましたね」


 独り言のようなメアリの呟きに、国防大臣が答える。


「しかしまだ、先発隊どうしの戦いです。本隊が到着するまでにはもう少々の時間があると見えます。もしあの中に割って入られるのであれば、今をおいて他にないでしょう」

「……分かりました。補助魔法を全力で使うにはもっと近づかなければなりません。大臣さん、協力してくださいますか」

「当然でございます、そのために我らはここにいるのですから。……各小隊長に伝えよ。これより我が軍は目標地点へ接近する。なんとしてもメアリ様をお守りするのだ」

「はっ!」


 国防大臣の傍らで、側近が返事をする。



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婚約破棄された令嬢の赤字領地再建計画 ~私の執事は有能です~
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