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破滅に向かって その③


◆◇◆◇◆



 太陽が高くなり始めたころ、約束の時間がやって来た。


 ノッドカーヌ王国の王宮にある迎賓室には、既に役者が揃っていた。


 初めに、ノッドカーヌ国王のピンファ・ノッドカーヌ。


 そして優雅な笑みを称えながら周囲を抜け目なく観察しているのはブラックレイ公国公王、アレサンドラ・ルーシュ・ブラックレイ。


 やや遅れて到着し、用意された席に悠々と座っているのはヤークト帝国皇帝、ドルガ・ヤークト。


 その他には、それぞれの王たちの護衛や外交担当者たち。


 室内は異様な雰囲気に満たされていた。


 ノッドカーヌ王国の外交官たちの目配せに、ピンファは頷いてみせる。


 彼の背中には冷たい汗が浮かんでいた。


 貿易大国の国王としていくつもの交渉に臨んできたピンファだったが、これほどまでに緊張するのは初めてのことだった。


 彼の言動が世界の命運を握っているといっても過言ではないのだ。当たり前のことだろう。


 国防大臣率いるノッドカーヌ王国軍は計画通り早朝に王国を出発し、ヤークト帝国とブラックレイ公国が睨み合っている戦地へ赴いている。


 今頃はもう到着していることだろう。


 何事もなければ良いが、と思うピンファだったが、それすらもこの会談に左右されるのだ。脳裏に浮かぶメアリの黒く美しい瞳を振り払い、ピンファは会談にだけ集中するよう努めた。


 誰にも聞こえないよう小さく深呼吸して、ピンファは立ち上がった。


「皆様、本日はお集まりいただき心より感謝いたします。時刻となりました。早速会談を始めさせていただきます。この会談は―――」


 と、そのとき、ピンファの言葉を遮るように、ドルガが声を上げた。


「よせよ、そんな堅苦しいことは。どうせここにいる全員、この集まりの目的は分かってんだろう? 説明は抜きだ。本題に入ろうぜ、王様」

「……!」

「結局のところ、俺たちとブラックレイがやりあうのかどうか。問題はそこだけだろ?」


 不敵な笑みを浮かべながら、ドルガは出席者全員を見渡した。


 ピンファは努めて冷静に答える。


「仰るとおりです。前置きはナシでいきましょう。……両軍、今すぐに撤兵していただきたい。そして両国の蟠りは平和的な方法で解決していただきたい。その方法を話し合うために、今日は皆さまに集まっていただいたのです」

「……もちろん、撤兵も平和的解決も、それらが可能ならばの話ですわよね?」アレサンドラが鈴のなるような声で言う。「仮に私やピンファ王がそれを望んだとしても、相手方にその意思がなければ実現はしませんから。果たして本当に可能なのかしら。―――先制攻撃のため秘密裏に兵士を私たちの陣地に送り込むような真似をするような相手と、仲良く手を握りなさいというのは」


 アレサンドラの視線がドルガを捉える。


 その瞬間、堪えきれないというようにドルガが笑い出した。


「くっはははは! バレねえとは思わなかったが、今その話をするのかい。ま、そういうことさ。俺は最初っからブラックレイを潰すつもりでいる。話し合いの余地ナシだ。もちろんヤークト帝国の復興支援っていう王様の提案にはそれなりの魅力があったけどよ、そんなもんは戦場の魅力には勝てねえ」

「戦場の魅力……それは民衆の命よりも尊いものなのですか」


 ピンファの問いに、ドルガは愉快そうな表情のまま答える。


「前提が違うんだよ、王様。俺たちヤークト帝国は、元を辿れば戦場でしか生きる意味を見出せない連中の集まりさ。もちろん俺も含めてな。そんな連中に武器を捨てて平和に生きろと言うのは、死ねと言っているのと同じ意味だろ? あんたがやっているのは俺たちから生きる意味を奪うことなんだぜ」

「しかし」

「何度も同じことを言わせるなよ、王様。犠牲がどうとかって話じゃねえ。何も俺だけが戦争を望んでるわけじゃねえ。将校から兵士一人ひとりに至るまでの全員の総意なんだよ、この戦争は」


 やれやれ、とアレサンドラが首を振る。


「ピンファ王、聞いての通りですわ。価値観の違う者同士の話し合いは無意味。元より武力行使以外の方法を知らない連中ですから。ピンファ王の平和を願う心は立派ですわ。しかし、それでは解決しない問題もある」

「珍しく意見が合うな、ブラックレイのクソガキ。なあ王様、そもそもあんたが口出しするようなことじゃねえんだよ。これはヤークトとブラックレイの因縁なんだ。……交渉は決裂だな」


 ドルガが言い終えるのと同時に、アレサンドラの側近が彼女の耳元に何かを囁いた。


 アレサンドラの表情が一瞬だけ引き攣った。


「……ヤークト皇帝、残念だわ。せめてこの話し合いの間くらいはと思っていたのだけれど」

「下手な芝居はやめろよ。こうなることはあんたも分かってたはずだろ? ヤークト軍の先発隊の迎撃のため、ブラックレイの別部隊が動いてるって話を聞いてるぜ?」


 アレサンドラとドルガの間に緊張感が走る。


 それを見て、ピンファは戦争が始まったのだと直感した。



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婚約破棄された令嬢の赤字領地再建計画 ~私の執事は有能です~
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