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避けられぬ戦乱 その④

「では早速本題に入らせていただきましょう。……ブラックレイ大公、ヤークト帝国との正面衝突はもはや避けられないのですか? このままでは大勢の民衆が犠牲に――」

「その前に、先日の件はどうなったのでしょうか。メアリ様の我が軍への派遣依頼に対する返答を、まだいただけていませんでしたわね?」

「……それはお受けできない。ノッドカーヌの王として、戦争への突入を早めるような行為はできません。それが同盟国であっても同じことです」


 あらら、とアレサンドラは諦めたように笑った。


「それがあなたの考えならば受け入れるしかないでしょう。しかし、メアリ様という圧倒的な戦力を得られないのであれば、戦いは長期化するでしょうね」

「ですから、ヤークト帝国との決戦について今一度考え直していただき―――」


 不意にアレサンドラが片手をあげた。


 ピンファが言葉を切ると、ドアが開き、召使が茶器を一揃いと菓子の載った皿を運んできた。


「まずはお茶にしましょう、ピンファ王。難しい話はそれからでも遅くないでしょう?」


 幼い子供のように無邪気な声音で、アレサンドラは言う。


「…………」


 さすがのピンファも苦笑いを浮かべ、メアリの方を見た。


 メアリもまた、苦笑を返すしかなかった。



◆◇◆◇◆



 会談の雰囲気は和やかだった。


 しかし、ピンファがヤークト帝国との戦争の話をするたびに、アレサンドラは巧妙に言い逃れた。


 全く進展しない話にメアリが焦りを感じ始めたころ、突然アレサンドラがメアリに尋ねた。


「ロービス将軍のこと、メアリ様はどう思ってらしたの?」

「……え」


 かつての婚約者の名前に、メアリは動揺を隠しきれなかった。


 アレサンドラは微笑んだまま言葉を続ける。


「あの時のこと、お詫びしたいと思っていましたの。シュヴァルツェ王国を陥落させる計画の一部だったとはいえ、本来の婚約者であるあなたは国を追放されてしまった。あなたにはつらい思いをさせてしまったわ。それから先日の非礼も重ねて謝罪いたします。ごめんなさい、メアリ様」

「あ、い、いえ……」

「もしあなたがロービス将軍を心から愛していたのなら、私のことを恨んでいるのではないかしら?」

「そんなことは……」


 メアリが言うと、アレサンドラは大きく胸をなでおろした。


「ああ、良かった。正直に言えば、ノッドカーヌ王国を守ってあげたのは罪滅ぼしのつもりだったんですのよ。ロービス将軍は野心こそ大きいお方でしたけど、彼に世界を制する資格は無かったわ。少しおだててあげたらすぐその気になっちゃうんだから」


 ふふふ、とアレサンドラは笑い声を漏らした。


「すべてあなたの計画通り―――この間お話をしたときも、そうおっしゃっていましたね」

「その通りですわ。シュヴァルツェ王国軍と正面から戦えば、あなたの補助魔法を打ち破らなければならない。それには多くの兵を浪費なければなりませんわ。だからより効率よく、内部から崩壊させようとしたの。案の定ロービスはあなたを手放し、ブラックレイの武器に飛びついた。彼はブラックレイ公国を利用したつもりだったんでしょうけれど―――自分が嵌められていると気づけない浅はかな男に天下は取れませんわ」


 アレサンドラは紅茶に口をつけた。


「……では、あなたならば天下をとれると仰りたいので?」


 ピンファの質問に、アレサンドラは笑顔を返す。


「私の夢はブラックレイ公国による世界の統治。それは変わりませんのよ。せっかくそのチャンスが――ヤークト帝国と覇を競う機会が巡ってきているのですから、それに水を差すような真似はしていただきたくはありませんわ」

「しかし―――多くの民が犠牲になります。どちらが勝っても待っているのは地獄ですよ」

「それは違いますわ。私が望んでいるのはあくまでも平和です。そのためにヤークト帝国を打ち滅ぼす必要があるのです。すべての地をブラックレイのものとし、私の理想とする平和な世界を創り上げるために」

「……分かりました。ヤークト帝国との決戦は避けられないということですね?」

「その通りです、ピンファ王。それにこうも考えられますわ。ブラックレイ公国とヤークト帝国との間に緊張状態が続いている限り、民は戦争の恐怖に怯え続ける。だからこそ決着をつけてしまった方がよい」

「どちらの勝利に終わったとしてもですか?」

「ブラックレイ公国は負けませんわよ。平和のための戦争――大義は私たちにあるのですから」


 自信に満ちた声色でアレサンドラは答えた。


「仮にそうだとしても……ノッドカーヌ王国は今回の戦争は避けるべきだと考えています。大国同士の正面衝突は不利益しか生まない。どうにかご再考をお願いいたします。ヤークト帝国皇帝との会談の場は我々が用意いたしますから」


 ピンファの顔を見据えたまま、アレサンドラは再び紅茶を啜った。


 そしてカップを置き、深い息を吐いた。


「私はノッドカーヌ王国を評価しているつもりです。侵略ではなく貿易によって他国との関係性を構築し、戦争のない国を実現させてきたあなた方をね。確かに、あなた方のように豊かな国土を持つ国であればそういうやり方も可能かもしれない。しかし、そうでない国は? 戦争で相手を蹂躙することによってしか独立を保てない国はどうでしょう?」


 アレサンドラの表情からは笑みが消えていた。


 ピンファは言葉に詰まり、口を閉じた。


 そんなピンファを前に、アレサンドラは語り続ける。


「ピンファ王、あなたの国と私たちの国は違いますのよ。あなたの価値観を私はできる限り尊重します。しかし、私の理念にまで口出しをされる覚えはありませんわ」

「……承知、いたしました……」


 悔しさをかみ殺すようにピンファが答えた――そのときだった。


「お待ちください、アレサンドラ様」


 声をあげたのはメアリだった。


 突然のことに、ピンファは驚いた。



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婚約破棄された令嬢の赤字領地再建計画 ~私の執事は有能です~
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