混乱する世界 その③
「ええと、待ってください。そ、それだと、私の髪や瞳が、目立ってしまうと思うのですが……」
「やはり嫌ですか?」
「嫌というか、あまり喜ばれないのではないでしょうか? 私は金髪でもないし、青い瞳でもありませんから」
「何を言うのです。僕はね、あなたの髪と瞳の色が好きですよ。もちろんそれだけがメアリさんの魅力ってわけじゃないですけどね」
「そ、そういわれても……」
渋るメアリに、ピンファはわざとらしくため息を吐く。
「では仕方ない。シュヴァルツェ王国への同行は認められませんね」
「そんなぁ、ピンファ様のいじわる」
頬を膨らませるメアリ。
「うっ……そんな可愛らしい顔をしてもダメですよ! これは交渉なんですから!」
「でも、純白のドレスなんて」
メアリは白のドレスに身を包んだ自分を思い描いてみた。
やはりどうしても、黒い髪と瞳が目立ってしまうように思えた。
今までロービスに醜いと言われ続けてきた黒髪と黒い瞳である。
それを人前で晒せと言われると、やはり少なからず抵抗感はあった。
しかしそれでも―――強い劣等感を抱いているこの髪や瞳を美しいと言ってくれる人が今、メアリの目の前にいるのだ。
そしてそれは、メアリ自身が愛する人物でもある。
その彼が望むことであれば、自分が抱えている抵抗感や劣等感など大した問題ではない――メアリはそう感じていた。
「……分かりました。私、ピンファ様の希望通り、純白のドレスを着ます」
「本当ですか!? 嬉しいなあ、きっと似合うはずですよ。王国で一番の仕立て屋に生地やデザインを見積らせなければ。ああそうだ、採寸も必要ですね」
「着ますから、シュヴァルツェ王国への同行を許してくださいね?」
「……そ、そういう約束でしたね。しかしいざとなると不安だなあ。出先でメアリさんにもしものことがあったらと思うと……」
「それを仰るなら、私もピンファ様の御身が不安です。誰に何が起こるかわからない混乱した地域、それが今のシュヴァルツェ王国領なのでしょう?」
メアリはピンファの表情を伺い見るようにしながら言った。
困ったな、とピンファは額に手をやる。
「確かにメアリさんの言う通りです。僕であろうとメアリさんであろうと、危険な場所へ行くのは変わりない。様々な困難が生じるはずです」
「でしたら、その困難は二人で分かち合いましょう。それが夫婦というもの―――ではないですか?」
メアリの言葉に、ピンファは納得したように頷く。
「なるほどなるほど。その通りです。ではメアリさん、僕と一緒にシュヴァルツェへ参りますか。お互いが無事に帰って来られるよう、夫婦として助け合おうじゃないですか」
「ええ、ピンファ様」
「よし、そうと決まれば早速準備をしなくては。まずはメアリさんも同行する旨を大臣たちに報告してきます。きっと、みんな驚くでしょうね。反対する者もいるでしょう。ですが僕にお任せください。絶対に説得してみせますので! よーし、明日から頑張るぞー! じゃ、私は先に失礼します!」
ピンファは意気揚々と肩を回しながら王宮内へと向かっていく。
その後ろ姿を見送っていたメアリだったが、不意にピンファは立ち止り、振り返った。
「どうされたのですか、ピンファ様?」
メアリが尋ねると、ピンファは大きな声で答える。
「メアリさん、言い忘れてましたけど、式では写真も撮りましょうねー!」
「写真? 写真って、人とか風景を映すあの機械ですか!?」
「その通りです! メアリさんの姿を後世まで残しましょう!」
「こ、後世にまでですか……!?」
「額縁に入れて正面玄関に飾っちゃいますからね!」
最後にとんでもない爆弾発言を残して、ピンファは王宮に戻って行く。
「そ、そんな大々的に……?」
恥ずかしすぎて死んでしまいます。
そう言いたいメアリだったが、既にピンファの姿は見えなくなっていた。
せめて気持ちを落ち着かせようと、メアリはもう少しだけ庭先を散歩することにした。
「……うぅ」
緑の草木に囲まれた庭には色とりどりの花が咲き乱れていた。
それらの花々を眺めながら、メアリはそこに自分の姿を重ねてみる。
「黒い花って、綺麗なんでしょうか……」
かといって金色の花というものも現実には存在しないのだ。
ピンファが喜ぶのならそれで良いか、と、メアリは納得することにした。
そんな彼女の元に、執事が急ぎ足でやってきた。
「メアリ様、少しよろしいですか?」
「……? ええ、なんでしょう?」
執事はどうやら慌てている様子だった。
それを不思議に思いながら、メアリは執事の次の言葉を待った。
「――メアリ様にお客様でございます」
「お客様ですか? ピンファ様ではなく私に?」
「その通りです」
「珍しいこともあるものですね。一体どなたですか?」
メアリの質問に、執事は呼吸を整えるようにして答える。
「ブラックレイ公国の、アレサンドラ様です」
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