エルザの朝-2
特に何事もなくエルザは家に着いた。扉を開けて家に入るが、家族が起きている様子はない。
エルザは台所に向かい、料理を始めた。
作るのは目玉焼きだ。先程取ってきた新鮮な卵を使った目玉焼きは、家族からも好評の一品である。
エルザは鼻歌を歌いながら卵を焼く。歌い終わった頃には、まん丸の目玉焼きが出来上がっていた。
これを家族分作った後は、それぞれを皿に乗せ、机に並べる。
机の上に並べられた4枚の皿の中心には、パンの入ったバスケットが置かれている。
朝食の準備が終わったちょうどその時、両親が起きてきた。
「おはよう、エル。」
「おはよう。」
「おはよう、母さん、父さん。」
遅れて、歳の離れた妹もやってきた。まだ眠そうな顔をしている。
「•••お姉ちゃんおはよう。」
「おはよう、レイ。」
家族4人が揃ったので、いつも通りみんなで椅子に座り、朝食をとり始める。
「お、今日は目玉焼きか。」
「そうだよ父さん。卵を取ってこれるのは餌やり当番の特権だからね。」
エルザは笑顔で答えた。
目玉焼きの感想や雑談と共に進む朝食の時間。一見すると仲睦まじい光景だが、エルザは少し気を落としていた。これから訪れる未来を知っているからだ。
「ところでエル、いつになったら孫の顔を見せてくれるの?」
「そうだぞ。父さんだって早く可愛い孫の顔を見たいんだ。」
始まった。
最近の悩みにもなりつつあるこれ。要するに、「早く結婚しろ」ということだ。
エルザはもう16歳。15歳で成人なのだから、もうエルザは大人だ。最初の1年は何も言われなかったが、最近は毎日のように両親が結婚をせがんでくる。
もっとも、エルザは結婚をしたくない訳ではない。むしろしたい方だ。だが一端の村娘にとって、出会いというものはなかなか訪れないのだ。
「•••何度も言わせないでよ。良い人が全然見つからないんだってば。」
「男ぐらい簡単に落とせるでしょ? そのご自慢の胸で。」
母はエルザの胸に視線を向ける。
確かにエルザの胸は大きい。自分でもそう思っているし、むしろそれを誇りに感じてさえいる。この武器を使えば、確かに男も落とせよう。
だが、それではだめなのだ。
「•••あのね母さん、私はカッコいい男の人結婚したいの。そりゃあ街に行けばここと違ってそんな人沢山いるけど、大体そういう人はみんな結婚してるし、私が落とせるような男は大体冴えない男ばっかり•••。だから—」
「そんなことばっか言ってるからいい男が現れないんだよ。少しくらい妥協しなさい。」
「けっこんけっこん!」
妹まで便乗してきた。
これ以上この話はしたくないので、エルザはいつものセリフで話を切る。
「はいはい。考えておきます。」
その後はつつがなく食事も進み、朝食の時間は終わりを迎えた。後片付けは両親がやることになっているので、エルザは足早に自室へと戻った。
「はぁ••••••。」
部屋に入るなり、エルザは大きくため息を吐いた。
両親からあの話をされたのは何度目だろうか。だが、別にそれが嫌な訳ではない。両親の気持ちも理解できるからだ。エルザだって、自分の子供が結婚できる歳になったら、早く結婚して孫の顔を見せてほしいと思うだろう。
しかし、結婚に至るきっかけがないのだからどうしようもない。残念ながら、この村にエルザのお眼鏡に適う男はいない。いっそのこと、街で1人暮らしをするという手もあるが、慣れないところでいきなり1人というのも少々怖い。
「結婚、ね••••••。」
したくてもできない。そんな葛藤に悩みながら、窓の外に広がる景色を遠い目でながめる。
ちょうどその時、エルザの目にあるものが映った。
ずっと探していたもの。心から願っていたものだ。
「—!?」
それを目にし、声にもならない音が喉から飛び出た。
今までの出会いの無さは、この瞬間のために存在したのかもしれない。確率は収束するという。まさにそれは、このことではないだろうか。
とうとう現れたのだ。
理想の人が。
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