エルザの朝-1
村娘の朝は早い。日が昇ると同時に起床して身支度をし、家畜の餌やりのために外に出る。その後は家に戻って家族のために朝食を作るのだ。
例に漏れず、空が青白くなってきた頃にエルザは目を覚ました。誰かに起こしてもらっている訳でもなく、長年の生活から体内時計がそう組み上がっているのだ。
エルザは自室の窓を開ける。そして柔らかく吹き込んでくる新鮮な空気に身を包みながら、大きく背伸びをした。昨晩は寝相が悪かったのか、全身が凝ったように痛むので、伸ばした体を左右に振って全身をほぐす。
「ふぅ、少し楽になったかな。•••次は餌やりか。」
ぼさぼさになっている髪を櫛でとかしながら、エルザは今日着る服を決める。といっても、家は裕福ではないので服を沢山持っている訳ではない。せいぜい3,4着程度だ。それでもエルザは満足していた。両親が、汗水流して稼いだお金で自分のために服を買ってくれる。その事実だけで彼女の心は満たされていた。
髪をとかし、服を決め、それに着替えたエルザは準備万端。次は家畜の餌やりだ。
「行ってきまーす。」
まだ寝ている家族を起こさないよう、小さな声でそう言って外に出る。向かう先はもちろん飼育場だ。
この村では、村人全員でお金を出し合って家畜を購入している。だから飼育場は1つしかない。しかしその分飼育場は広くなってしまうので、餌やりは若者2人で協力して行う。そしてこれも週ごとに分担されており、今週はエルザの週という訳だ。
しばらく歩いていると、突然後ろから声をかけられた。
「おっはよー!」
「うわっ! びっくりさせないでよ、ルーナ。」
今週の当番のもう1人、ルーナだ。お淑やかそうな見た目をしているが、実は活発な女友達だ。
「えへへ。背を向けてる人がいたら驚かさないとダメでしょ?」
「全くダメじゃないと思うけどね。」
エルザはルーナと雑談を交わしながら飼育場までの道のりを進む。
この村は土地だけは広いので、移動するだけでも疲れてしまう。
軽く息を切らしながらも、2人は飼育場に到着した。
「あ~、ようやく着いた~。」
「ほらほらルーナ、ぐでぐでしないでさっさと餌やり済ませよ。」
「•••うぅ、餌やりめんどくさいよぉ。」
「そうですか。はい、これルーナの分。」
「なんて無慈悲な!」
目の前に置かれた餌の入ったバケツを、ルーナは嫌そうに持ち上げた。
この村では主に豚と鶏を飼っている。ルーナは豚に、エルザは鶏に餌をやることになった。
餌やりといっても方法は簡単。柵の外から中にいる動物たちに餌を投げ入れるだけだ。問題なのはその範囲の広さだ。
15分程経ち、ようやく餌やりを終えた。2人は近くの切り株に座り、休憩をとる。
「いや、やっぱ広すぎでしょ、ここ。なんでこんなに豚いるの?」
「ほんと謎だよね。鶏も100羽は軽く超えてそうだし。まぁ、その分食糧には困ってないんだけどね。」
「確かに。」
数分の休憩の後、2人は立ち上がって家へと向かう。空も明るくなってきた。そろそろ家族が起きる時間だ。
餌やりという仕事を終えたからか、2人の足取りは行きよりも軽い。
雑談をしながら進む帰り道。ルーナが足を止めたので、エルザも止まった。
「どうしたの?」
「•••誰かいない? ほら。」
ルーナはそう言うと、少し先の丘の方を指差した。方角的には村の外だが、村の方に歩いてくる人影が確かに見える。
「本当だ。冒険者かな?」
「どうだろう。まあ、私たちには関係ないか。ごめん、行こっか。」
「あ、うん。そうだね。」
この辺りに来る人は少ないので、エルザとしてはその人物の正体が少し気になったが、ルーナが先を進むので仕方なくそれについて行く。
しばらくして、ルーナの家が見えてきた。
「じゃ、また明日ね!」
ルーナは元気に手を振りながらエルザに別れを告げ、自宅の方へと向かう。それを見送った後、エルザも帰路を急いだ。
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