同日 19:05〝サンドボックス〟完成
便宜的にシナリオAとシナリオB、としておこう。
シナリオBは、先程考察したように蕗屋の死で結末を迎える。
仁行所が自分を裏切って死に追いやるように操ったのではなく――そうなることを想定していた、というのが真相だろう。
普通、完全犯罪を遂行する人間は自らが危害に遭う危険性を極力排除して計画を練る。当たり前だ。自分が五体無事で終わってこその完全犯罪というものだ。
この点、蕗屋は違う。
そもそも目的が違う。
蕗屋が目指していたのは『全て自分の計算通りに動く箱庭世界』の完成であって、完全犯罪ではない。
自身の身の安否など、どうでもよかったのだ。
むしろ、人生をかけた箱庭完成という悲願を成就させるためなら、自分の身を供物として捧げることすら厭わなかったのだろう。
だから。
アイツは自分の死すら、脚本の一部として組み込んだのだ。
〝ドール〟とドールハウス、そして仁行所瑠璃を利用した密室トリック――しかし、操っていたつもりが操られていて、結果命を落とす漫画家――間抜けな役回りに見える。あの自己愛の強そうな蕗屋がそれで良しとするか、と思いそうになる。
だけど、違う。
これでいいのだ。
蕗屋透は演者であると同時に脚本家で演出家で、箱庭の創造者で神なのだ。
適度に捻くれてて適度に悪趣味で、適度に論理的で適度に外連味に溢れた蕗屋透が作り上げた箱庭は、自らの死によって完成する。
これが、シナリオBだ。
ではシナリオAはどんなモノだったか。
これは、あの場で久宮が解説した通りで相違ないと思っていい。
つまり、密室殺人が成功し、蕗屋が生き残るパターンだ。
被害者は脱出ゲームで一位抜けした人間が選ばれる。結果論として俺ということになっているが、これは完全にたまたまだ。誰がなってもおかしくないし、蕗屋も誰が死んでもいいと思っていた。俺も推理小説は数多く読んでいるが、その中でも珍しい『被害者が誰でもよかった』事件となっている。警察と世間に向けてのスケープゴートとしては使用人の日野が選ばれた。これもまあ、久宮の推理通りで間違いない。
犯人は蕗屋と仁行所。
被害者はランダム。
スケープゴートは日野。
そして探偵役は――久宮。
……なんだが。
待てよ。
本当にそうか?




