同日 21:00〝ソウル〟集結
舞台は食堂が選ばれた。
ドールハウスとチェス盤が置かれ、私が瑠璃と最初に出会い、利根や鈴と共に床に転がる蕗屋〝ドール〟を発見した場所。
全てを、ここで終わらせる。
長机の上には分解したままのドールハウス。その正面には今回の主役である六体の〝ドール〟が繋がっていない状態で、虚ろな瞳を前方上空に向けている。
長机に対して仁王立ちのカイラと、その脇に控える私。少し後ろには日野が、更に出入口近くで間軒警部と多見刑事が立っている。
この場にいないのは、利根真理央、須藤鈴、波部貴夜、そして仁行所瑠璃の四人。この場に集めると言っても、こんな秩父の山奥まですぐ移動できる訳もない。
だが――ある種、彼らは最初からここにいるとも言える。
最初に繋がったのは利根だった。三白眼の瞳に明かりが灯る。
「さすが切り込み隊長、こんな所でも一番乗りね」
『……オイオイ、大丈夫なのかよコレ』
口角を上げるカイラに対し、〝ドール〟状態の利根は開口一番苦言を呈する。
「大丈夫って、何がよ?」
『……波部っちは全部警察にまかせるって言ったんだよ?』
すぐ横の鈴〝ドール〟も目に光が宿っている。彼女も同期したらしい。
『それなのに、勝手に調査しちゃって……波部っちに怒られても知らないよ?』
「勝手にじゃない。埼玉県警にも瑠璃にも許可はとってある。じゃなきゃ、そもそもこの屋敷に入ることすら出来やしないもの」
『でも波部の許しは得てねェんだろ? ヤバくねェか?』
「何言ってるの。そりゃ波部君の言い付けは破る形になったけど、怒ったりはしないわよ。せいぜい呆れるくらいで――」
『お前は何をやっているんだ』
静かに――いつものように一歩引いた位置で、彼は立っていた。
「来たね、波部君」
『答えろ。どういうつもりだと聞いている』
「連絡行ってるんでしょ? なら、アタシがこれから何をするかも分かってる筈――」
『そういうことを言ってるんじゃないんだよ。俺は全て警察に任せろと言って、お前はそれを了承した筈じゃないのか。お前の耳は何の為についているんだ』
メチャクチャ怒ってるではないか。
気のせいか、彼の〝ドール〟からは静かな怒気が立ち上っている気がする。
この場にいない四人をこの場に集結させるのにカイラが選んだのは〝ドール〟を使うことだった。昨日のうちに各所に手を回し、それぞれの〝ドール〟のスーツ、ゴーグル一式をそれぞれの自宅に郵送しておいたらしいのだ。そうすれば、大宮にいようが浦和にいようが、一式を身に付けさえすれば即座に秩父の双児舘へとその魂を転送させることができる。
全てが分かった瞬間、カイラは皆にその旨を伝え、本日二十一時ちょうどに〝ドール〟と同期するよう連絡をしておいた。かくして、今こうして続々と〝ドール〟が繋がっているという訳だ。
「まあいいじゃないの。もう一度言うけど、警察と瑠璃の許可は得ているんだし、一日みっちり調べまわったおかげで真相が分かったんだから、ね? 文句言うのはアタシの推理を聞いてからでも遅くないと思うけど?」
『……好きにしろ。俺はもう知らん。後は勝手にやってくれ』
愛想が尽きた、とばかりにそっぽを向いて黙り込んでしまう。
「あ、同期を切るのはやめてね。波部君には是非、事の成り行きを見守ってもらいたいから」
『見守るっていや、肝心の屋敷の主が来てねンじゃねェか?』
利根、鈴、波部の、更にその右に並ぶ〝ドール〟は未だに昏い目のまま、棒立ちで虚空を眺めている。
「――あ、日野さん、このままじゃ同期できないんじゃない。ほら、同じ姿勢でないと」
「ああ、そうでしたね。ありがとうございます」
指摘を受けた日野は慌てた様子で辺りを見渡し、チェス盤に手を伸ばす。
「久宮様、これを使わせて頂いても?」
「アタシの許可なんていらないってば。この屋敷の物だし。今回の推理では使わないしね」
「ありがとうございます」
一言お礼を言ってチェス盤を折り畳み、瑠璃の〝ドール〟の腰と膝をそれぞれ九十度に折り曲げ、腰掛ける体勢にして、折りたたんだチェス盤を〝ドール〟の尻の下に滑り込ませる。二つ折りにしたチェス盤は瑠璃〝ドール〟が腰掛けるのにちょうどいい高さだったらしい。姿勢を整えた日野は手にした携帯端末からどこかに連絡を入れ、程なくして瑠璃〝ドール〟の目に命が灯る。
「申し訳ありませんお嬢様。私の配慮が足りませんでした」
頭を下げる日野。下半身が不自由な瑠璃は基本的に着座以外の姿勢をとることができない。そして〝ドール〟とオペレーターが完全に同じ姿勢でないと、同期はできない。瑠璃がなかなか同期しなかったのは〝ドール〟が着座の姿勢をとってなかったからだ。
『……ううん、全然構わないのだけどね……わたしの方から連絡すればよかったのだし……』
フルフルと頭を振る瑠璃。口調が弱々しい。体調が悪いというのは本当らしい。
『……もうみんな揃ってるのね……。カイラ、真相を探り当てたって、本当?』
「多分ね」
『……凄いね。波部クンもだけど、みんな本当、優秀……』
首を数度傾け、嘆息する瑠璃。
『オイオイ、体調崩したとは聞いてっけど、大丈夫かよ? 別段、無理してこの場にいるこたァねェんだぞ?』
フランクな口調で優しい言葉を吐く利根。
『……大丈夫。わたしも、事の顛末は見届けたいし』
『そうだよねー。ルリルリだって、当事者みたいなもんなんだし』
ウンウン、と頷く鈴を一瞥して、カイラは声のトーンを上げる。
「さて、いい加減に開始しましょうか」




