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第6話 絶対能力


 マリの言っている信仰とはおそらくジャンヌだろう。

 俺は先程の喜びも忘れて額に汗を流す。

 マリはどう考えても凄い存在だ、気配だけでもケテルよりも強いことが分かる。

 そんなマリがジャンヌについて名指しで話をしようと言ったのだ。

 …嫌な予感しかしない。

 最悪の場合マリと戦闘になるかもしれない、絶対に勝ち目はないが…

 それでも、もう家族を何もせずに失いたくない。

 マリは少し考えた後口を開いた。

 …例え何を言われてもせめて動揺しないようにしないと。


 「そうだな…お前は信仰が明らかにおかしな動きをしたところを見たことはないか?例えば空気を踏んで空を飛んだり、水の中で生活できてたりしたところを。」

 「はい?」


 動揺しないように、とか思っていたがあまりに変な話でつい声が出てしまった。

 これは…マリのジョークなのだろうか?


 「えっと、何の冗談ですか?」


 俺がそう言うとマリはまた少し考えて、


 「ふむ、白髪、お前は神の力をどう思う?」


 俺はマリが何をしたいのかが分からない。

 マリは言葉を続ける。


 「神の力それは人智の及ばない奇跡だ。あるものは滅びた星さえ命の溢れる星へ変える力、あるものは栄えた星を一夜で跡形もなく消し去る力、またあるものは…いやこれ以上は良いか。」


 マリは一呼吸おいた後


 「私たちはそれを"絶対能力"そう呼んでいる。」


 正直おとぎ話だとか神話だとかそんな次元の話だ。

 本当にマリは何が言いたいんだ?

 するとマリは突然顔を近づけてこう言った。


 「実は絶対能力は、神だけの特権ではない。人の身で絶対能力を持つものは少なからず存在する。例えば先程の虚無、あいつの力は常識とされる知識で説明がつかないものだったろう?」


 俺はケテルの力を思い出す。

 "全ては虚無へ"、"虚ろな思考"どちらも確かに信じられないものだった。

 だがやはり何故マリはこの話を?

 …まさかとは思うが、


 「まさか、ジャンヌが絶対能力を持っていると言いたいんですか?」

 「ジャンヌ?ああそいつの名前か、まあそれはどうでも良い。質問に答えよう、答えはイエスだ。本当にないのか?そいつが説明のつかない力を使ったことは。」


 脳裏に先程ジャンヌがケテルに上位魔法を放った時の状況がよぎる。

 あの時ジャンヌの魔法は手元で消えていた、なのにケテルの身体には大きな切り傷ができていた。

 もし、あれが魔法の不発でなかったとすれば。

 もし、あれはジャンヌの力でそれこそ人智の及ばない経路をたどってケテルに魔法を当てていたとしたら。

 俺は口を開く、

 

 「もし…」

 「ん?」


 怖い、もしマリの不況をかえば直ぐにでも殺されるかもしれない。

 でも、ジャンヌは俺が守らないといけない。

 

 「もしジャンヌが絶対能力を持っていたとしたらあなたはどうするんですか!?」


 思ったより大きな声が出た。

 マリは少し驚いたようだがすぐに気を取り直し、


 「別にどうともしないさ。」


 あっけなくそう言った。

 やはりここは玉砕覚悟で…ん?

 

 「どうともしない?」

 「ああ、私は別に絶対能力を敵視もしていなければ利用しようとも思っていない。」


 なんだろうか、なんというかどっと疲れた。


 「まず、どうこうしようとしているならのんきに話などしないで連れ去っている。」

 

 それもそうだ、マリは俺なんか敵じゃない程強い、俺の事なんか気にせずジャンヌを連れ去った方がよっぽど早い。


 「私がしたいのはお前がそいつをしっかり守ってやれと言うことだ。」

 

 守る?それはもちろんだが一体何からだ?


 「さっきも言ったが絶対能力は奇跡の力だ。もちろんそういった力を欲する奴は腐るほどいる。」


 なるほど、もっともな話だ。

 確かにそんな力があれば星国を一つ支配することだって可能だろう。

 ほしいと思う人がいない方がおかしい。


 「どうやらお前の話が本当ならそいつの能力は目覚めたてだ。二度と使わなければ変な奴らから狙われることもないだろう。」


 マリはそう言って軽く伸びをした後、


 「じゃあ私は帰る、虚無も私が片付けるから安心しろ。じゃあな。」

 「待ってください。」


 マリが飛び立つのを俺はとっさに止めてしまった。

 マリは怪訝そうに俺の顔を見る。

 俺は言葉を続ける。

 

 「ケテルは俺が殺します。」


 自分でも何を言っているとは思う。

 でも、このままやられっぱなしは嫌だ!

 マリは一瞬驚き、次の瞬間、


 「あ?」


 その顔を怒りに染めた。

 マリから殺気が溢れ出す。


 「舐めているのか?あいつは絶対能力者だ、絶対能力に対抗できるのは同じ絶対能力だけだ。お前は土俵にすら立てていない。」


 マリの言うことは多分正しい。

 でも、


 「ケテルは俺らの村を、家族を奪った。俺の手で決着をつけたい。」


 マリは更に語気を強める。


 「その自己満足に何人巻き込む?あいつはまた同じように村を襲うだろう。お前がちんたらしている間に一体いくつ村が滅ぶ?」


 マリの殺気は激流のようで立っているだけでもやっとだ。

 だが、引くわけにはいかない!


 「俺はケテルを許さない、そしてケテルのこれからの悪事も許さない。見ていろ、必ずお前より早くケテルを殺して俺がケテルに殺されるはずだった全員を救済して見せる!」


 マリは再び驚いた後ため息をつき、


 「付き合ってられないな。だが、本気だというならリオジナルの王城まで来て見せろ。そしたら少しは話を聞いてやる。ただあまりちんたらしていると私が虚無を片付ける。せいぜい急ぐことだ。」


 マリは今度こそ空へと消えていった。

 リオジナルの王城、今まで生涯見ることもないだろうと思っていた場所だ。

 だが、俺の心はもう決まっている。


 「行って見せるさ、王城でもどこでも。」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 中央星国リオジナルにて


 リオジナルの王城には多くの部屋がある。

 そしてその部屋の一つのバルコニーにマリは着地した。

 マリは軽く身なりを整え部屋に入る。


 「お帰り~、遅かったじゃん。」


 マリは何故か自室にいる招かれざる客に非難の目を向ける。


 「イロハ、どうしてお前がここにいる?」

 

 マリは自分が気に入っている椅子に我が物顔で座る様々な色の糸で竜が刺繍された真っ白な和服を着て髪を一つに纏めた小中学生ほどの真っ白な髪の少女を問い詰める。


 「だってマリが私に内緒でどっか行っちゃたんだもん。帰ってきたら質問攻めにしてやろうと思って待ってた。」


 マリは額に手を当て天を仰ぐ。

 マリにとって同僚とも言えるイロハはマリが白髪嫌いになった元凶である。

 マリとイロハはお互いに顔を会わせれば喧嘩をする犬猿の仲である…もっともそう思っているのは本人達だけであり、周りから見れば喧嘩するほど仲が良いを体現した二人である。


 「…何があったかは教えてやる。」


 マリの言葉にイロハは嬉しそうに、


 「そう来なくっちゃ!」


 マリはしぶしぶイロハに話し始める。


 「まず、三人の絶対能力者を見つけた。」

 「へー、三人も?珍しいね。」


 この話はイロハにとって興味が無さそうだ。

 だったら聞くなよ。

 そう思いつつマリは話を続ける。


 「しかもその一人は今代の魔王だ。」

 「!そいつはどうしたの?片付けた?」

 「いや、取り逃がした。」


 イロハは初めは食い付いたがマリが逃がしたと言うとはあーとため息をついて、


 「雑魚じゃん。」

 「行ってない奴に言われたくはない。」

 「うるさいなあ、じゃあ続き話してよ。」


 イロハはつまらなそうに話の続きを促した。

 マリはイロハにイライラして思い付く。

 …少し驚かしてやろう。

 マリはとっておきの話を始める。


 「たどり着いたときは絶対能力者は二人しかいなかった。」


 マリがそう言うとイロハは、


 「二人?さっき三人って…まさか!」


 イロハは気づいたようだ。

 マリはニヤリと笑って、


 「ああ、そのまさかだ。三人目は私の目の前で絶対能力を発現させて見せた。」


 絶対能力は神の力、本来人の身で使えるものではない。

 しかし強い思いがあれば、本当にその思いを叶える意志があれば、絶対能力は目覚める。

 マリはカシルが最後放った言葉の途中カシルに絶対能力の目覚めを感じていた。

 また絶対能力の名前はその思いで決まる。

 そして、マリは能力名を呼び名に使う。

 

 「来れるものなら来て見せろ白髪、いや"救済"!」

 

 

 


 

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