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第4話 魔王


 目の前で魔王を名乗った女、普通なら何を馬鹿なと一蹴されてもおかしくない。

 しかし、その女-ケテルはその立ち振舞いの全てが目の前にいるのは人智を遥かに越えた者であることを物語っている。

 例えばケテルは右手に剣のようなものを握っているのだが、その剣?も黒いもやがかかっていて細長い何かとしか分からない。

 

 「ねえ、私も名乗ったんだからあなた達の名前も教えてよ。」


 ケテルは不満気な声を上げる。

 だが、俺もジャンヌも声を出すことすら出来ず答えられない。

 するとケテルは何が面白いのか、心底楽しそうな声を上げる。


 「もー、ノリが悪いなー。そんなにノリが悪いと…」


その瞬間、ケテルは急に声におぞましい程の殺気を含めて、


 「殺しちゃうよ?」


 ただ一言囁かれただけ、だと言うのに俺もジャンヌも反射的に後ろ飛びでケテルから大きく距離を取る。

 全身の細胞が逃げろと叫んでいる。

 しかし先程の殺気に当てられてか足が動かない。

 そんな俺らにケテルは拍手をしながら、


 「すごいねー、今ので死んじゃはないんだ?この村の当たりはパン屋だけじゃなかったんだねー。良かった良かった。」

 

 ケテルは俺らに賛辞を送っているつもりらしい。

 だが、今の言葉からは嫌な予感が漂っている。


 「パン屋が…どうしたの…?」


 先にそれを指摘したのはジャンヌだった。

 ケテルは軽く顎に手を当て何かを思い出しているかのように頷きながら、


 「うんうん、この村は衛兵みたいなのも全然歯応え無くてさ。私が少し殺気を当てただけで死んじゃうかそうでなくても命乞い、つまんないよねー。」


 そこで一度言葉を区切り手を大きく広げて、


 「でも!この村のパン屋は私がこの村の人間は今いないやつも含めて全員殺す、って言ったらね。本気で私を殺そうとしてきたんだよ!それも男の方も女の方も必死になって!それがすごく滑稽で!愚かで!楽しかったんだ!」

 

 ケテルはまるで遊園地で遊んだ感想を言っている子供のようだ。

 俺は震える声でケテルに尋ねる。


 「それで…その二人を…どうしたんだ?」


 ケテルは首をかしげて、


 「どうって…」


ケテルはニヤリと笑って、


 「殺したよ。」


 その言葉を俺は理解できなかった。

 いや、脳が理解を拒んでいた。


 「出来るだけ長く遊べるように、ゆっくりゆっくり壊していったよ。でも思ったより早く死んじゃった。それだけは残念だったな。」


 一切悪びれもせず、自慢話かのように話続けるケテルの話は俺が認めたくないことが紛れもない事実であると告げている。

 そして、頭がそれを理解すればする程、目の前の敵に対する怒りがこみ上げてきた。

 ケテルは話を止めて俺らを見る、真っ黒な瞳がケテルを睨み付ける俺といまだにショックから立ち直れずに、いや、いや、と呟いているジャンヌを映す。


 「うーん、男の子の方は良いね楽しめそう。でも女の子の方は…要らないね。」


 ケテルは手にした黒いもやを曇った空に掲げる。

 すると、空へどす黒いオーラが立ち上る。


 「男の子の方、早く逃げないと死んじゃうよ?」

 

 俺は嫌な予感がしてジャンヌの手を掴んで無我夢中でケテルから距離を取る。


 「全ては虚無へ」


 ケテルが呟いた瞬間、何かが起こった。

 急いで振り返るとそこにはジャンヌと地面と空と村の森があり、それ以外何もなかった。

 俺らの村はその一切が無くなっていた。

 呆然としていると、不意に耳元で声がした。


 「足、速いんだね。あーあ、大切そうなその女の子が手だけになったらどんな顔するかが見たかったのに、残念だなー。」


 こいつはダメだ、どこまでも狂っている。

 こいつは、そんなことをするために手加減していたのだ、この状況はこいつにとってただの遊びなのだと理解した。

 

 「おっ!でもその理解できないものを見たときの顔も好きだよ。…そのフード邪魔だね。」


 ケテルは無造作に俺からフードを剥ぎ取った。


 「よーし、これで顔もよく見え…」


 ケテルの声が段々と小さくなっていく、ケテルの目線は俺の髪を見ているようだ。

 ケテルから先程までの楽しそうな感じが嘘のように消え失せ俺らに対しての見下した感じのみが残る。


 「ふーん、じゃあそっちは?」


 ケテルの手が目で追えない程の速さで閃きジャンヌからもフードを奪う。


 「こっちは違うと、なら邪魔だからそこで転がってて。」


 ケテルはジャンヌの胸ぐらを掴んで持ち上げると軽々とジャンヌを投げ飛ばす。


 「ジャンヌ!」


 俺が叫ぶとケテルは煩わしそうに、


 「うるさいな、おとなしくしてろ。」


 そう言い俺の頭を掴み地面へと叩きつける。

 あまりの衝撃に気を失いそうになるのを何とかこらえる。


 「気を失ってた方が楽なのに、まあ良いかうるさくするなよ?」


 ケテルは先程のオーラを俺の頭を掴んでいる手に集めると、


 「虚ろな思考」


 そう呟いた次の瞬間、俺の意識が段々と空っぽになっていく感じがする。

 俺は…なんだっけ?俺って何だ?お…れ…は…


 「お兄ちゃんに…手を出すなーーー!!!!!!」


 誰かの声がする…見てみると少女がこちらに手を向け大きな緑の光を放つ刃を放っている。

 だがその刃は少女の手から離れた瞬間消えてしまった。

 それと同時に俺の上に居る女の体が大きく揺れて。

 俺の意識が戻った。

 何故かケテルはよろけている。

 今しかない!

 俺はケテルを押し飛ばしジャンヌの元に走った。

 先程ジャンヌが放ったのは、風高位魔法の"タイフーンブレード"だろう。

 高位魔法を放ったからかジャンヌは気絶しているが傷もなく大丈夫そうだ。

 

 「貴様ら…私をこけにしやがって…」


 ケテルがゆっくりと立ち上がる、何故かその体には大きな切り傷が出来ている。

 先程の魔法か?いや、あれはすぐに消えてしまったはずだ。


 「絶対に殺してやる…殺してやるぞ!」


 ケテルが俺らへ飛びかかろうとしてきたその時、

 昼が訪れた。

 空をおおう雲は晴れ、太陽のごとき光が俺らを照らす。

 空を見上げると、光の塊が猛スピードでこちらに近づいてくる。

 光は俺らとケテルの間に静かに降り立った。


 「中央星国リオジナルの騎士が一人、マリ=フレイティアだ。おとなしくして貰おうか?」


 降り立った光は女の姿をしていて俺らへそう告げたのだった。

 

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