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転生したので今度こそモテたい  作者: マグローK


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第98話 シークレット

 劇を見終え、楓は向日葵と二人で文化祭を回り出した。文化祭は昨日に引き続き盛況で、並ぶところは並び、待つところは待ったものの、列は基本スラスラと進み、とんとん拍子にことは運んだ。

 どれも、一人だったとしても楽しむこともできただろうが、楓は向日葵とともにやるからこそ、一人の時よりも面白いのだと思った。

 やったことをすぐに共有できる話し相手がいて、それぞれが感情を発散し、うまくできないことはお互いがサポートする。そうして、占いや縁日、食べ物関係まで、楓は向日葵とともに回った。うまくいかなくても笑いのタネになり、どれもが挑戦として心躍った。

「ちょっと、疲れた」

 楓はつぶやくと、ふらふらとした足取りで邪魔にならないように端に寄り、そのまま壁に背中を預け、手で顔を覆った。

 祭り慣れしていない楓は、二日連続の祭りの空気にあてられ、精神的に参ってしまっていた。

「大丈夫?」

「うん。ちょっと人が多くて疲れただけだから、休めば戻ると思うよ」

「こんな時、一瞬で元気にできればよかったんだけど」

 そんな楓を前にして向日葵が申し訳なさそうに言ってうつむいた。

 楓はすぐに首を横に振った。

「向日葵が悪いんじゃないよ。僕の体力の問題だから。前よりはマシになってると思うけど、まだ慣れなくてね」

「気を使わせちゃって悪いな」

「別に、気にしなくていいよ。本当に、少しすれば体力も戻るだろうし」

「そう?」

 うかがうような様子の向日葵に楓はこくこくと頷いた。

「じゃあ、一人になる時間もほしいだろうし、飲み物でも買ってくるよ。何がいい?」

「お茶かな」

「わかった。ここで待っててね」

「ありがとう」

 向日葵は楓の返事を聞くと、後ろ手に手を振ってすぐに駆け出した。そんな様子から、一人になる時間を用意してくれたものの、すぐに戻ってきそうだと楓は思った。

 ふう。と息を吐き出してから、楓は天井を見上げた。

 家で自分の部屋にいれば、一人になることは日常だが、そうは言っても慣れない連日の人の多さに、楓は圧倒されていた。前世からの名残で、人混みは弱点の一つだった。だが、前よりはマシになったという言葉通り、一日程度なら耐えられるようになってきていた。そのことを思うと、人の多さにもだいぶ慣れてきたと自分を褒めたい気もした。

 じっとしていても回復しないだろうと思い、動きすぎない程度に楓はクールダウンのつもりで歩き出した。呼吸をして、神経を落ち着かせる。

 すると、人の声が聞こえてこない上に続く階段を見つけ、楓は上がってみた。向日葵のことだから、見つからなければ声でもあげてくれるだろうと考えての行動だった。

 楓の予想通り、階段を一段登るたび、喧騒が少しずつ遠のいていく気がして、すぐに心の休まりを感じ、自然と頬がほころび出した。

「あっ」

 登り切ると楓は声を漏らしていた。

 人がいたからだ。それも知り合いだった。そして、何故か泣いていた。

 咄嗟に見なかったことにして逃げようかと思ったが、声を出してしまったせいで、目の前の人物はすでに楓のことを見ていた。

「楓さんにも一人になりたい時とかあるんですね」

 すぐに、隠すように目元を拭いながら葛が言った。

「あ、あるよ。そりゃ。それに、僕はどちらかと言えば人の多いところは苦手だし」

 不自然にならないよう楓は言った。

「そうなんですね。なんだか意外です。椿たちとワイワイしてるイメージだったので」

「それ、椿にも言われた気がする」

「そうですか。他の人からすれば、そう見えますよ」

「あれ、喋り方戻したの?」

 楓はやっと違和感の正体に気づいた。葛の話し方が丁寧なものに戻っていた。一時は砕けた喋り方になったものの、戻ってしまったらしかった。

「はい。私の口に馴染みませんでした。クラスメイトの人達にも試してみたのですが、うまくいきませんでした。絵の方の結果もイマイチで、踏んだり蹴ったりでここに来て休んでたんです。恥ずかしいところを見せてしまいました。楓さんも一人になりたいでしょうし、私はそろそろ行きますね」

「ううん。もうちょっと、一緒に話そうよ」

「でも、気を使わせてしまうと思いますし」

「いいよ。僕は気にしないから」

 楓は逃げようとする葛を押しとどめた。今の葛はそっとしておく方がいいかもしれないが、それは違う気がした。挑戦して、うまくいかなくて、一人でいる時、楓は誰かがいたらと思ったものだった。だからこそ、すぐには逃げられないように、葛を階段から離すと、葛の顔を見た。

「無理に話す必要はないけどさ、よければ僕で練習するといいよ。僕も人と話すのは少し無理してやってるところがあるから、練習相手になってほしいし」

「そうなんですか?」

「そうだよ。僕だって、人といれば疲れるし、人と話すと緊張するよ」

 葛は黙り込んだ。そして、うつむいた。何か考えるようにしているらしく、楓は先を促さず黙って返事を待った。

「私ももう少し頑張ってみる。せめて、楓には椿と接するようにできるように目指してみる」

「その意気だよ。と言っても無理はしなくていいからね。喋り方は人それぞれでいいと思うし」

「そうですか?」

「そうそう。僕はもう、葛にですますで話されても、葛のキャラだってわかってるから」

「ありがとうございます」

 葛は急に頭を下げた。

 楓はすぐに首を横に振って答えた。

「いいんだよ。そういうのは、少しくらい気を使わないでもいいんだと思うよ」

「気を使わない?」

「そう。気心知れた関係というか、なんというか。まあ、人それぞれなんだけどね」

「桜さんみたいな?」

「桜は参考にしない方がいいと思うけど、イメージとしてはそんなところだよ」

「私にもできるでしょうか?」

 楓は葛に真剣に目を見つめられ、目をそらしそうになって留まった。ここにきて初めて目があった気がした。楓が階段を登ってからの葛は、それほどよそよそしい態度をとっていた。

 目を見てくれた葛に、

「できる」

 と言いたかったものの、楓は首を縦には振らなかった。

「それは、葛次第だよ。やろうと思って続ければできるだろうし、やめてしまえばできないだろうし」

「そう、ですか……」

 楓の言葉に、葛はがっかりしたように肩を落とした。つま先を見るように視線を落とし表情は見えなくなった。

「できるかは葛次第だけど、でも、もう僕と話すことはできてるじゃん」

 楓は葛の肩に手を乗せて言った。

「これでいいんですか?」

「そうだと思うよ。完璧じゃなきゃいけないなんてことはないしね」

「完璧じゃなくてもいい?」

「うん」

 やっと顔を上げ、遠くを見る葛の目は少し前よりも生き生きとしており、少し生気が戻っているように見えた。

「それに、僕は葛の絵も好きだし」

「見たんですか?」

「まあね。向日葵と隣のクラスだからってことで」

「どうでした?」

 急にずいと顔を近づけられ、楓は咄嗟に身を引いた。絵のこととなると積極的になるらしい。

 楓は苦笑いを浮かべながら、視界に入った絵におっと口を開いて、指さした。

「ちょうどあの絵みたいに、心惹かれる絵だったよ」

「あの絵?」

 首をかしげながら葛は楓の指さす方を見た。それは今から学校に向かっていくような雰囲気の絵だった。文化祭の文字が入っていなければ、入学案内のチラシに見えたかもしれない。そんな挑戦というような雰囲気の絵だった。

 葛はすぐに駆け寄った。

「どうかしたの?」

「これ、私の絵です」

「葛の?」

「はい。椿に負けて飾られていないはずなのにどうして?」

 人気の少ない場所にひっそりと葛のポスターは飾られていた。他にも何枚かの文化祭のポスターがあった。

 出し物も出ていないような、休憩場のようなこんな場所だったが、飾られていることに変わりはない。

「ほら、葛を認めてくれる人がここに場所を与えてくれたんだよ」

「そうなんですかね?」

「そうだよ。でなきゃわざわざはり出したりしないよ」

「そう言われるとそんな気がしてきました。なんだか、できそうな気がしてきました」

 やはり、嬉しかったらしく葛は楓とポスターを見比べながら笑みを浮かべていた。

 一人で人と関わることから逃げ、休むことも必要だろうが、やはり、取り組まなくては上達もしない。そして、取り組まなければこうして形になることもなかった。

 楓もまた、そんな葛から気力をもらった気がした。

「私、もうちょっとだけ、踏ん張ってみます」

「うん。僕も葛を見てたら、もうちょっと回ってみようかなって思ってきたよ」

「文化祭をですか?」

「そう。人混みと回るのに疲れてここに来たんだ」

 楓は階段を見下ろした。

「楓ー?」

 ちょうど、向日葵の探すような声が階下から聞こえてきた。

「向日葵さんの声ですか?」

「そう。二人で回ってたんだ。じゃ、椿じゃないけど、僕も友達だからね。って言ってみると恥ずかしいな」

 はにかみながら手を振ってから、楓は葛に背を向けて、階段に向けて一歩歩き出した。

「あの!」

 急に大きな声を背中にぶつけられ、楓は踏み外しそうになりながら、振り返った。

「何?」

「あの、い、一緒に回ってもいいですか? 挑戦ってことで」

「いいと思うよ。でも、向日葵にも聞いてみよっか」

「はい」

 楓は葛と並んで階段を降りた。

「楓どこ行ってたの? ここで待っててって言ったよね?」

「ごめん。人気がないところがあったから、一人を堪能しようと思って登ってみてたんだよ」

「そっか。休めた?」

「まあまあかな」

「じゃ行こうか」

「ちょっと待って」

「あ、あの。向日葵さん」

「葛ちゃん?」

「私も一緒に回ってもいい?」

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