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転生したので今度こそモテたい  作者: マグローK


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第96話 貴族喫茶

 今度こそテキトーな相槌は打つまいと用心しながら楓は向日葵に続いて歩いていた。

 やはり今回も向日葵にはすでに目的地があるらしく、出し物の様子も、看板の文字も何も見向きもしないで楓を先導していた。

 そんな様子に、楓も当たりをつけるため、パンフレットを確認をした。とりあえずわかったこととしては、朝顔のクラス以外のものなら、大丈夫だろうということだった。あくまでそれは、見かけや名前ではわからないタイプの実は怖いものでしたというものでなければの話だが。

 ここでも楓は周りの様子を見ていた。見るもの見るものいつもの校内と雰囲気は違ったが、何よりも気を引いたのはみな一様に楽しそうな笑顔ということだった。

 楽しみにしている。人が楽しんでいる。怖がったばかりだが、自分もその中の一人なのだと思うと、ケッというような気持ちが湧き出ることはなかった。

「ここだよ」

 と言って向日葵は立ち止まった。入る前に一応立ち止まってくれる向日葵に、ニヤニヤとしてしまいながら、楓は向日葵の指さす方を見た。

 そこは一風変わった喫茶店のようなものというだけで、楓にとっても何も問題はなさそうだった。そのためすぐに頷き、入ろうとする向日葵に続いて、楓は中へと入った。

「ごきげんよう」

 という合唱で二人は迎えられた。何が起きたのかわからず楓は目を白黒させたが、すぐに周囲をうかがうために意識を切り替えた。もしかしたら人を食らう怪物の屋敷かもしれないと考えたからだった。

 だが、中は明るく、夏目邸よりも豪華な雰囲気でとても怪物の屋敷には見えなかった。そこはまるで、ダンスホールやパーティ会場のような雰囲気だった。

 さらに、目を引くのは、奥に鎮座する一人の女性の姿だった。偉そうに足を組み、肘掛けに肘を立てていることから一番上の立場だとわかるが、それは明らかに茜だった。

 動かない楓達を見かねたように一人が進み出ると、

「座りなさい」

 と言った。そこからはごきげんようと言った時の華やかさが消え、尊大な態度が丸出しになっていた。

 ここではどうやら給仕の側が上らしいと楓は悟った。見た目とのギャップを楽しむのではなく、そういう場所だったのだ

「そうじゃないでしょう!」

 奥に鎮座する茜が急に声を上げた。

「貴族たるもの、来客がどんな相手でも全身全霊を持ってもてなすものでしょう?」

「すいませんお姉様!」

 そうだろうか。と楓が思うより早く、楓達に座るよう促した人物は大袈裟に頭を下げた。

「そうじゃないでしょう」

「すいませんお客様」

 楓は目の前で何が始まったのかと思い口をぽかんと開けてしまった。ふと気になって楓は向日葵の肩を突いた。

「向日葵はここの出し物がどんなものか知ってて来たの?」

「ううん。でも、なんだか面白そうだね」

「はは。面白そうなんだ」

 キラキラと目を輝かせて言う向日葵に、楓は何も言えなかった。

「せっかくです。私がお手本を見せてあげます」

「お姉様が?」

「ええ。そもそも二人は私の客よ」

 組んでいた足を元に戻し立ち上がると、茜は悠然と楓達の方へと歩き出した。

 服装は動きにくそうに見えたが、見かけよりも速く動いていたらしく、気づくと楓は茜に手を取られていた。

「このもののご無礼をお許しください」

「はあ」

 茜にひざまずかれ、楓は理由がわからず首を傾げた。

「ここからは私がお相手します」

 茜はそう言うと、唇が楓の手の甲に押し付けた。楓は咄嗟に手を引っ込めようとしたが、茜の怪力に楓の手はびくともしなかった。

 まあという声が周りから漏れたが、これが他のお客さんにはしてないことなのか、毎度こうなのか楓にはわからなかった。

 茜は楓にしたのと同じように向日葵にもすると、満足したように二人の手を引き、席まで案内した。

「何か注文はありますか?」

 と茜が聞いた。だが、どこにもメニューはなかった。

「あの。この状況は正常ですか?」

「もちろんです。お客様は私達になんなり言いつけてくだされば結構です。敬語なんてめっそうもございません」

 茜がいつもの話し方にしてくれと言っていることだけは楓にもかろうじてわかった。だが、メニューがなくてどう注文したものか。

 楓は向日葵にどうするか聞くことに決め、アイコンタクトで尋ねた。すると、何をするかは楓の自由にしていいと言っているような気がした。

 テレパシーは使えないが、向日葵が加わりおかしなことになる前に手を打つため、楓はそう思うことにした。

「飲み物は何があるの?」

「紅茶とコーヒーがあります」

「じゃあ、僕は紅茶で。向日葵は?」

「私も紅茶」

「かしこまりました。準備ができるまで少々お待ちください」

 茜は一度だけ振り返ると、すぐに楓達の方へ向き直った。どうやら前に出てきても指示役であることに変わりはなく、自分で紅茶をいれることはないらしい。

 茜の顔はニコニコしているものの、じっと見つめられていては落ち着かない。会話をしようにもかしこまった雰囲気のせいか、体が凝るようでうまく言葉が出せなかった。

「茜ちゃん。この状況どうにかならない?」

「と言いますと?」

「いや、明らかに僕達浮いてるじゃん」

「そんなことありませんよ?」

「あるよ。違和感だよ。翔んだと思ったら、しゃがんでたくらい違和感だよ」

「わかりました。では目をつむり私についてきてください。終わる頃には紅茶も準備を終えていると思います」

「どういうこと?」

「こちらです」

「面白そうだし行ってみようよ」

「……うん」

 ノリノリな向日葵に流され、楓は頷き、目をつむって茜の手を握った。歩き出すと、支えがあってもふらつき、体をぶつけそうだと思ったが、無事目的地までついたようで、

「ここです」

 と茜に言われ立ち止まった。暗くなったのかまぶた越しの光が弱くなった。

「目は開けてもいいの?」

「戻るまで待ってください」

 そして、手が離されると微風が楓の体に吹きつけた。香水か何かかと思ったものの、楓は匂いを感じ取ることはできなかった。

「では戻りましょうか」

「え、何しにきたの?」

 楓の質問に茜はふふふと笑うだけだった。暗がりへ移動しただけで、楓には何もしなかったように感じられた。

 全くもって意図は掴めず、予想と想像が楓の頭の中を激しく駆け巡るが、席に戻るまでの間で思うつくことはなかった。

 暗がりから出た途端、何かあったのかざわめきが聞こえたが、楓には目をつむっているためなんのことかわからなかった。

「紅茶の用意ができました。目を開けてください」

 すっかり言う通りに動いているなと笑いながら、ここでも楓は言う通りに目を開けた。机の上には紅茶が三杯置かれていた。丁寧に三人の席の前に置かれていて、茜も一緒に飲むらしかった。さらに、どこから取り出したのかお菓子まで用意してあった。だが、楓の目を奪ったのはその美味しそうなお菓子でも、紅茶でもなかった。

「向日葵、何その格好。いつの間に着替えたの?」

 楓は吹き出してしまった。向日葵が周りと同じような格好をしていたからだった。

「それは自分の格好を自覚している人の言葉だよ」

「何言ってるの。もう何も問題ない、よ」

 だが、向日葵の言葉に自分の体を確かめてみると、楓の服装も無事だったはずの制服ではなく、周りと同じようにドレスのようなものへと変えられていた。

 楓自身を変えるのと違い、楓の服を変えることは向日葵達にとってどうということはない。暗がりへ移ったのは早着替えを見られないためだったのだ。あくまで着替えたということにするための茜の策だったわけだ。

 楓は握り拳を作って茜を睨んだ。だが、それだけで茜の顔が歪むことはなかった。

「かわいいお顔が台無しですよ。どうかしたんですか?」

「今は楽しい時間だからね。今回はこの辺で勘弁してあげるよ」

 楓は表情を戻してカップに手をかけた。できるだけ緩んだ顔を見られないようにしながら、湯気の立ったカップを口元へ運んだ。

 かわいいと言われたことを誤魔化すためだったが、楓はすぐにハッとして目を見開いた。紅茶の味にうるさくない楓だったが、一口で美味しいということがわかった。

 今度は睨むわけでなく茜を見た。

「美味しいよ。これ」

「確かに美味しい」

 向日葵も楓の向かい側で何度も頷いていた。

「お口にあったなら幸いです」

 見た目だけ凝って作り、手を抜いているのを誤魔化しているわけではないらしかった。客におかしな格好をさせなければ最高かもしれない。

 だが、服装が場に合っているせいか、浮き足立っていた気分もいつの間にか落ち着き、高まっていた心拍もゆっくりになっていた。

 自然と笑みがこぼれ、お菓子にも手が伸びる。名前も何も知らないものだったため、取ろうとして手を止めたが、茜が食べていいことと説明を加えてくれたため、楓は手に取った。

 それは紅茶と合うお菓子だった。甘いものの、紅茶を飲めば味がしつこく残らない。そんなベストマッチなお菓子だった。

 椿や桜もいればと思ったが、今は贅沢な思いだろう。

 ほとんど会話のつもりだったが、気づくと全て平らげていた。

「ち、ちなみにこれっていくらだったの?」

 楓は恐る恐る茜に聞いた。

「私のお客様からお金を取ることなどできません」

 お気持ちだけでもとさえ言われず、茜のおごりということで、甘い汁を吸うだけ吸った形になり、楓はむしろ申し訳ないと感じた。

「何か僕たちにできることはない?」

「それでは、記念に写真撮影をしてくださいますか?」

「写真撮影? 何になるの?」

「撮ってくださればいいのです」

 茜の思い出かと考え、楓は頷いた。向日葵も異論はなさそうだった。

 インスタントカメラによって、三人が入るように撮ってもらった。すぐに現像された写真に写っていたのは笑顔の三人だった。

「それではまたお会いしましょう」

 楓は茜にペコリと頭を下げた。

「いや、よかったね」

「そう? それなら、私も楓を連れてきたかいがあったよ」

 ドアに手をかけたところで楓はすぐに振り返った。

「服は? ねえ、服は?」

「お着替えになられますか?」

「なられます!」

 外に出るすんでのところで気づき、楓は服を取り戻したのだった。

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