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転生したので今度こそモテたい  作者: マグローK


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第95話 恐怖の館

 楓は向日葵とともに学校の中をしばらく歩いた。行きたいところがあると言ったきり、どこなのか説明も受けずに歩いていた。

 そんな時、思考がさまよった。見知らぬ人のいる中を歩いているにも関わらず、いつもの学校ということがなんだか不思議に感じられた。けれど、隣に向日葵がいる。今までなら絶対にありえなかった神様の向日葵と文化祭を回っている。楓はそれだけで心温まる思いだった。

 向日葵は神らしく、知っている人からは向日葵だということで目を奪い、知らない人からは人目を引く見た目であることから目を奪っていた。

 楓は日常的に接しているため、前よりは見慣れてしまっていたが、それでもキレイだと思うことに変わりはなく、気まずさを感じることもあった。

 人の形をした神なのだから、人として最上級の見た目であるということを誰も否定しないのは当たり前のことだろう。

「ここだよ。さ、入ろう?」

 楓は向日葵に話しかけられたことに気づくまで少し時間がかかった。

「う、うん。そうだね」

「私を見てたの? やっと私だけを見るつもりになった?」

 小首をかしげながら聞いてくる向日葵に楓は頬を染め、視線を外した。

「それもあるけど、やっぱり向日葵は人の注目を集めるほどキレイで可愛いんだなと思って」

「そう? 楓に言われると照れるなぁ」

「僕に言われると?」

「うん。かわいいって好きな相手から言われた方が、知らない人から言われるより嬉しいし、説得力があると思わない?」

「まあ、知らない人からかわいいねって言われたら、怖いしね」

「でしょ?」

 頷きながら、楓は道端でかわいいと言われたところを考えてみた。

 向日葵と一緒ならまだしも、楓には一人の時にそんな経験はなかった。

 だが、向日葵に守られてばかりのことを思うと、震え上がるか、流されてしまうかのどちらかな気がした。向日葵のようにキレイな人から言われれば、ついて行ってしまうかもしれない。

 危ない危ない。と楓は首を横に振る。ついて行ってしまうではない。そんな時は丁重にお断りしなくては。そもそも無視だ。

「どうしたの?」

「シミュレーション」

「大事だね。でも、シミュレーションすれば大丈夫ってことは、楓も克服できたんだね」

 向日葵の言葉で楓は現実に引き戻された。

「何を克服できたって?」

「だからこれだよこれ。今から入るこれ」

 そう言って、向日葵の指さす先を見た。そこにあったのは文化祭にしては本格的に作られた恐怖の館という出し物だった。

「あっ」

 話を聞いていなかったことを誤魔化すために、テキトーに返事したことが仇となったことを自覚した。楓は未だホラーを克服できていなかった。

 向日葵に抱き上げられて空を飛ぶことで、高いところは前よりもマシになっていたが、ホラーは依然としてダメだった。

 今も現実を認識して少しの間フリーズしていた。

「ほ、ホカノニシナイ?」

 カタコトで言う楓に向日葵は笑顔で首を横に振った。

「そうだねって言ったでしょ。人生は限られているのだ!」

「ちょ、ちょっと待って。入るにしてもまだ心の準備が!」

 散歩に行きたくない犬のように引っ張る手を引っ張り返して抵抗するが、楓の力では向日葵をどうすることもできなかった。

 あえなく、楓は教室の中に引きずり込まれた。


 中は二人一組で進めるらしく、楓は一人にならなかったことにひとまず安堵した。

 だが、暗くおどろおどろしい雰囲気の室内で、向日葵に抱きつき目を閉じる以外、いつものように楓にできることはなかった。

「ようこそ。恐怖の館へ。私は館長の夏目です」

 聞き覚えのある声と名前に、楓は恐る恐る目を開けた。暗さと目深に被られたフードによって素顔はわからないが、おそらく朝顔だとわかった。

 どうやら向日葵は朝顔の出し物を見に来たらしかった。姉妹なのだから気になっていてもおかしくない。そう思うと少しだけ楓も落ち着きを取り戻した。

「あなた達にはこの館の探索をしてもらいたいのです。別に特別な力は必要ありません。恐怖の館などと呼ばれているものの、怖いことは起きませんよ。ただ、中がどうなっているのか確認してほしいんです。私はもう歳で歩き回ることができません。なので、人を雇って報告してもらっているわけです。お化け屋敷のように楽しむことができて、人助けもできる。まさに一石二鳥でしょう? ですが、誰一人として報告に来ないんですよ。なので、あなた達はしっかり報告に来てくださいね」

 館長は言葉を言い切ると闇に紛れて見えなくなった。

 朝顔が何かの力を使ったのか、それとも出し物の演出なのか、はたまた暗さゆえなのかわからないが、楓はすぐさま目をつむった。

「行くよ。楓」

「行くの?」

「行かなきゃ出られないでしょ。ゆっくりでいいから」

 背中をさすられ、楓もほんの少し覚悟を決めた。長く息を吐き出してから、ゆっくりと目を開いた。暗くて視界が悪いのだから、そもそも目を開けていても同じかもしれないが、これが楓の覚悟だった。

「行こ」

「よし」

 一歩進んで、何か気配を感じた気がして振り向いたが、楓は何も見つけることはできなかった。

 切り替えて前に進む。

 全て見えているであろう向日葵を頼りに、一歩一歩踏み出していく。

「この辺は手を伸ばさない方がいいと思うよ」

「え? ベタベタしてるってこと?」

「見えないと思うけどどうしてわかったの?」

「もう触ってるから」

 覚悟を出して積極的に探索を始めてこれだった。ベタベタのまま振りかざすこともできず、楓はハンカチで拭おうとした。だが、すぐにくっついて取れなくなった。どうあがいても取れないため、楓はベタベタをどうにかすることを諦めた。

 そして、ベタベタエリアをどうにか触れないようにして通り抜けた。

 通り抜けたとわかったのは空気が変わった気がしたからだった。こもるような暑さだったのが、急に冷凍食品売り場の近くに来た時のように感じた。

 鳥肌が立っていくのがわかった。

「ここは身を低くした方がいいかも」

「どのくらい?」

「できればでいいけど、しゃがんで足に掴まってた方が安全だと思う」

「それで歩けるの?」

「私に任せておいて」

 楓は向日葵の指示通り、しゃがみ込みそして足にしがみついた。

「いい?」

「多分いいよ」

「じゃあ、進むからついてきてね」

「うん」

 向日葵が動くのに合わせて、できるだけ邪魔にならないよう、楓は低い姿勢のまま歩を進めた。

「そういえば、なんでしゃがまなきゃいけないの?」

 何か見えそうな気がして、楓は上を見た。だが、暗すぎて少し先を見ることすら楓にはできなかった。

 期待したものが見えるより早く、何かが楓の顔に落ちてきた。しかし、混乱で声を上げることもできなかった。

「私も何かまではわからないんだ。でも、立ち上がらない方がいいってことは言える。あと、上も向かない方がいいと思う」

「もう遅いよ」

 向日葵に指摘されて初めて、楓は顔についたものを触れる気になった。だが、直接手で触れるのは抵抗があり、手についたハンカチで拭った。じっとしているだけでは流れ落ちないだけあり、粘性があるようだった。それでも、手について取れないベタベタとは違い、ハンカチで拭うと簡単に取れた。顔にも特別違和感などはないため、無事な手で触れるとどこかで触ったような感触に楓はふと思い出した。

「触手のやつだ」

「そう。それ、朝顔の触手だよ。それがいっぱいある感じ」

「それならさっさと進まないと」

「ちょっと待って、落ち着いて」

 楓は天井のいつ襲ってくるかわからない触手を想像した。それだけで向日葵の足から離れ、床に落ちている粘液も気にせずほふく前進をした。制服はすぐにぐしょぐしょになったが、楓としてはそれどころではなかった。

 向日葵の制止も聞かずに進んだため、楓は壁に頭をぶつけた。

「まだあるんだって。これで終わりじゃないんだって」

「相変わらず忠告が遅いよ」

 おでこを押さえながら、楓は向日葵の声の方へ振り返った。今のところゴキブリも捕まえるられそうな壁に触れ、触手の粘液をくらい、頭をぶつけていいところがない。暗いだけでなく、不気味な話し声のようなものも聞こえ出し、心休まる場所がなかった。そもそも安らぎは恐怖の館に求めるものじゃないか。と楓は自嘲気味に笑った。

「何があるの?」

「二人じゃないと押せないスイッチがあるみたい。二人で合計四つのスイッチを押すみたいだけど、いくつか選択肢があるんだ」

「選択肢?」

「そう。ヒントみたいに過去を振り返れってあるけど、どういうことだろう?」

「テキトーに全部押すんじゃダメなの?」

「不正解に触れると終わりはなくなるらしいよ」

「ちょっと待って」

 楓は考えた。雰囲気は恐ろしいが、ここは文化祭。あまり手の込んだものを作る時間はなかったはずだ。

 そう、出されている問題は簡単だ。過去を振り返れという言葉通り、ここまでを思い返した。

「手を入れるところはどうなってる?」

「えーと、ヌメヌメしてるのと、ビリビリしてるのと、ベタベタしてるのと、アツアツなのの四種類かな」

「じゃあ、ヌメヌメとベタベタだよ。これまでに出てきたものはその二つだから」

「やっぱりそう思う? じゃあ入れてみよっか」

「わかってて聞いたの?」

「さあ、どうでしょう?」

 向日葵の楽しそうな言葉遣いに、楓はしてやられたと思いつつ立ち上がった。

「僕がベタベタの方ね」

「いいよ」

 服は後で向日葵にキレイにしてもらおう思い、少しも払うことなく両手を突っ込んだ。楓の両手はすぐにスイッチを見つけ、同時に押した。向日葵もおそらく押したのだろう、すぐに楓が頭をぶつけたあたりの壁が横に動いた。

「おや、あなた方が次の担当の方ですか? 聞いていると思いますが、私はこの館の館長。この先がどうなっているのか調べてほしいのです。頼めど頼めど報告に帰ってくる人がいないので困っています。あなた方は報告してくださることを祈っています」

 館の主と思われる者は言った。

「あなたは入口の人とは違う人なんですか?」

 向日葵が聞いた。

「入口? 今入って来られたのが入口ですよ? そして、この先が館の中です。ドアが二重なんですよ。さ、中の様子がわかったらば報告に来てください」

 そうしてガラガラと開けられたドアによって、楓は向日葵とともに教室を出た。どっと疲れたような気がして楓は息を吐き出した。そのまま窓のある壁までヨロヨロと、歩き背中をつけて天井を仰いだ。

「怖かった。何あれ?」

「朝顔の悪戯じゃない? 本気でやろうとしたら、本当に入口から入口へ移動を続ける世界も作れるだろうし、あくまで出し物として作ってくれたんだと思うよ」

「もうやだよそういうの。はあ、出られてよかった」

「体は大丈夫?」

「大丈夫じゃないよ。だってあれだけ、あれ?」

 大袈裟に動いて粘液をなすりつけてやろうと考えていた楓は首を傾げた。服についていたはずの粘液がなかった。加えて、手にくっついて取れなかったハンカチも簡単に取ることができた。

「これはどういうこと? なんともないんだけど」

「外には出さないようになってたんだろうね。やっぱり面白いことするな。朝顔は」

「前は圧倒されてたのによく言うよ」

「実力は敵わないんだから仕方ないでしょ。もう、置いてくよ」

「待ってよ。そんなつもりじゃないって」

 楓はプンスカし出した向日葵に置いて行かれまいと少し駆けた。

 だが、急に立ち止まると笑顔で振り返ってきた。

「冗談だよ。びっくりした?」

「びっくりしたよ。最近の向日葵なら本当に怒っちゃったんじゃないかって」

「そんなすぐに怒らないって」

 楓は安心から吹き出してしまい。二人して控えめに笑った。

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