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転生したので今度こそモテたい  作者: マグローK


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第90話 結果発表

 楓は向日葵だけでなく、椿と桜とも待ち合わせをして学校に向かっていた。

「とうとう当日だね」

 神妙な面持ちで桜が言った。声にもいつもの高いテンションが乗っかっていなかった。

「ダジャレ?」

 だが、そんな桜を少し笑いながら椿が言った。

「別にそんなつもりじゃなかったけど、椿たんのことなのに案外余裕みたいだね」

「そうじゃないわ。実は心臓がうるさいくらいよ。でも、今騒いでも結果は変わらないもの」

 椿の言う通りだった。描き終えて出してしまってからは何もできない。できることがあるとすれば、全員で祈りを捧げることくらいだった。

 神のみぞ知るとはよく言ったものだが、楓には向日葵が結果を知っているのかどうか、判断できなかった。当たり前だが、楓は向日葵の心を読めない。様子から判断するしかない。

 それでも、ソワソワしていることは見てとれた。たとえ、楓が話をすれば心穏やかでなくても、友達の努力が実を結ぶかどうかということに、関心がなくなったわけではないらしかった。

 部外者がこれだけ気にしているのだから、本人が無関心なことなどあり得ないだろう。四人で待ち合わせをするのも、思い返せば初めてのことだ。それだけ関心ごとということだろう。

 楓は先ほどから唇が乾いて仕方なく、頻繁に舌でなめていた。

「大丈夫だって。楓たんがどう思ってようと、絵を描いたのは椿たんだよ?」

 いきなり桜にバシンと背中を叩かれ、楓は目が覚めた思いだった。

「そうだよね。僕が心配しても仕方ないよね」

「そうそう」

「きっとなるようになるよ」

 向日葵があっけらかんと言ってのけると、楓には場の空気が少し軽くなった気がした。

 そのまま四人は学校へ向かうペースを早めた。


 学校に着くと、ムードはすでにお祭りの時に近いようだったが、まだ生徒が準備しているということもあり、ほどほどの熱気だった。

 だが、入り口からして平時とは違うことがわかるアーチ状の門が待ち構えている。楓もどんなものかは知っていたが、当日に改めて見るとよく作ったものだなという出来に、驚かされながら通った。

 屋台が並び、いつもの雰囲気とは違う様相に、ドギマギしながらも歩いた。浮き足立つ気持ちと、これ以上進みたくない気持ちで葛藤するが、周りは構わず進んでしまう。

 いつの間にか図書室でもないのに話をやめ、四人は静かになっていた。

 一度は軽くなった空気が、学校が近づくにつれ少しずつピリピリするように感じ、学校まで来るとパンパンに膨らんだ風船のように張り詰めているようだった。

 去年の光景では椿の描いた絵が、校内に張り出されていた。それが今年はどうなっているか。

 手に持つパンフレットは汗で柔らかくなっていた。パンフレットに描かれた絵は椿とは別の人のもののようで、椿の名前は載っていなかった。

 中のポスターは一つのイベントとなっているのか、当日までわからない。無論、張り出す人間にはわかるのだが、ここにいる四人は誰も知らなかった。

「せっかくの文化祭なのに、まるで葬式みたいな面持ちね」

 突然の声に楓は顔を向けた。

 余裕ぶった様子で言ったのは葛だった。

「葛はもう見たの?」

 椿の質問に葛は首を横に振った。

「まだよ。せっかくだから、椿と一緒に結果を確認しようと思ってね」

「よかった。それなら、私か葛でも、他の人でも精神的に問題なさそうね」

「別にそんなつもりじゃないわ」

「とか言いながら、わざわざ椿たんのことを待ってるなんて、葛たんツンデレなんじゃないの?」

 ニヤニヤ笑いながら桜が言った。

「本当に違います。いいから行きましょう」

 葛はぷいとそっぽを向くと、校舎に向けてツカツカ歩き出した。

 そんな葛に桜は肩をあげて見せた。楓も待っているほどの関係でデレていないとは言えなさそうだと思った。

 すぐに歩き出した三人に置いていかれまいと、楓は思考を投げ出して少し駆けた。


 校舎に入り、いつものように上履きに履き替え、楓は下駄箱の変わりように気がついた。

 靴のまま中に入れるわけではない。飾り付けが下駄箱にもしてあったのだ。

 担当ではなかったにしろ、通ったのだから気づいてもよかったものだが、気にして見たのは初めてだった。

 どこまでもお祭りムード。だが、最後に笑うのは一人だけ。

 履き替えて少し歩くと、目につくところにB2サイズらしい大きさのポスターが貼られていることに気づいた。

 光の反射でよく見えなかったが、空気が変わったことはすぐにわかった。

 描き手には遠目からでもある程度わかるのかもしれない。

 まだ見えたわけではなかったが、楓にもある程度結果がわかってしまった。

 一歩一歩進む。

 ハッとしたように息を呑む音。それに続けて駆け出す足音。

 廊下を走る桜を止める者はいなかった。

「おめでとう椿たん」

 桜の叫びで視線は椿に集まった。

「おめでとう」

 楓は椿に言った。

「よかったね」

 向日葵も続けて言った。

「よかった。本当によかった」

 安心したように息を吐き出すと、椿は強張っていた顔を緩めて笑みを作った。

 楓も関わっていただけに、やっと安心でき、四人全員の気持ちが一つになった思いだった。

「みんなにカッコつけてモデルを頼んでおいて、選ばれなかったらどうしようと思ったけど、本当によかった」

「椿たんが選ばれない訳ないじゃん」

 笑顔で言ってから、桜は何かに気づいたようにピクリとした。

「別に葛たんを下手って言ってるんじゃないよ?」

「わかってます。椿。おめでとう。今回も勝てなかったけど、そうね。椿は一人じゃないものね」

「ええ。でも、葛だってそうよ。私がいる。それに、桜さんも楓さんも向日葵さんもいる。そんなによそよそしくしなくていいのよ」

「そうね。そうかもね」

「あー! あたしが言っても納得しないのに、椿たんが言ったら一回で納得したー」

「いいでしょ。私の勝手だもの」

 楓は微笑んだ。

 負けは悔しいだろうに、それを表に出さず、気丈に振る舞い、それでいて気を遣わせない。

 葛は強いなと楓は思った。

 自分ならばどれだけみじめに振る舞い、どれだけ落ち込んでいたかわからなかっただろうと考えた。

「また何かの機会に椿に挑むわ。その時まで私に負けないようせいぜい腕を磨いておくことね」

「期待してるわ。何かあったら頼ってね」

「椿とじゃないかもしれないけど、今度は私も誰かと協力するかもね」

 捨て台詞のように言うと葛は姿を消した。

 しかし、嫌な気分を撒き散らす敗走といった雰囲気はなく、なんだか椿の言葉で壁が壊れたような気が楓はした。

「でも、このあたしだけ空気が読めてないみたいなのはなんなの?」

 真剣な顔で桜が言った。全く理由がわからないように。

「いつものことでしょ」

 楽しそうに椿が言った。

 椿も葛の態度は気にかかっていたのだろう。いくら風紀委員と言えど、崩れた態度がいけないわけではない。先ほどの椿を見てから何かひっかかっていたものが取れたようだった。

 桜の指さす椿の絵は、アーチをくぐっている三人の女子。

 二人はパンフレットを手に楽しそうに話をしており、一人はすでに何かを見つけたように駆け出している。

「ねえ、楓たんはおかしいと思うよね」

「僕は桜の方は別に気にならないよ」

「おい!」

「でも、僕がかわいく描かれすぎてるのは気になるかな」

 楓は改めて椿の絵をまじまじと見た。

 モデルになったこともあり、立ち位置でどこに描かれているのが誰か手に取るようにわかる。

 楓はどうしてか真ん中だった。

「僕こんなに笑ってるかな?」

「笑ってたわよ」

 椿が言った。

「それに、楓さんは十分かわいいわよ。そんなに卑下することないわ」

「そ、そうかな」

「そうだよ。楓はかわいいよ」

「いや、そこまでじゃないよ。いつも言うと思うけど、向日葵は僕のこと特別視しすぎなんだって」

「じゃああたしの視線は? あたしは絶対に楓たんがかわいいと思うよ?」

「桜だって女の子ならかわいいってスタンスじゃん」

「じゃあ私は? 私の視線は?」

「えーとそれは……」

 椿に問われると楓は言葉に詰まった。何か特別視するようなことがあった気もしたが、向日葵や桜のようには思い浮かばなかった。

「わかったから。自分をあんまり卑下するのはやめるよ」

 認めまいとしている間は耐えられたが、まだ完全な耐性を得られていないかわいいという言葉に、楓は顔を真っ赤にしながら言った。すぐに顔を隠すも、見られたかもしれない。

 嬉しいと同時に恥ずかしいという思いが発生している。だが、褒められるのは悪くない。そんな気持ちだった。

「あれ、時間って大丈夫なんだっけ?」

 ふとしたように向日葵がつぶやいた。

「余裕を持って出たはずだけど……」

 そうそのはずだ。心の中でも確認するように唱えるも、いつの間にかぞろぞろと入ってきていたはずの生徒達の姿が下駄箱から消えていた。

 ゾワっとした感覚が足から登ってきて、楓は時計を見た。

「やばい。まだだけどやばい!」

「遅刻したら実行委員なのに何してるんだって歓太郎くんに怒られちゃう」

 四人で楽しんでいただけで時間は過ぎていた。

 急に焦り、四人は小走りで教室まで駆けた。

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