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転生したので今度こそモテたい  作者: マグローK


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第82話 肉体

「僕の体って僕のなの?」

「何言ってるの?」

 楓の質問が突拍子もないものだったのか、向日葵が目をしばたかせた。

 向日葵の家で遊ぶようになったからこそ聞けることだと思い、楓は口にしたのだったが、端的すぎて伝わらなかったようだった。

 少し、アゴに手を当てて、考えてみてから、楓は再度口を開いた。

「要するに、この体には元の持ち主がいるんじゃないかなって思って。精神を追い出したりして居座ってるんだったら申し訳なくて」

「ああ、そういうこと」

 向日葵がやっと手を打った。

 気にはなっていたものの、なかなか言い出せずにいた。聞いてはいけないような、後戻りできないような怖い気がしていたからだった。

 しかし、椿の絵の話をしている時に突然記憶がよみがえる経験をしてからというもの、気になって仕方がなくなっていた。

 経験していないからこそ、当初は何気ない風に答えてしまっていたが、確実に経験していたのだ。今の体の記憶を探る時は追体験のように感じていたが、今までのそれよりも強かった。

 体のことを知ることは、記憶を読めることとも関係しているのかもしれない、と考えての質問だった。

「どうなの?」

「簡単だよ。楓の体は楓のもので、他の誰のものでもないよ」

「でも、僕以外の誰かの記憶があるんだよ」

「楓以外の記憶?」

「そう、僕がこの世界で目を覚ます前の、この体が体験したことの記憶を思い出せるんだよ。この間は自分の意思とは関係なく見えたし」

「もしかして、頭痛そうにしてた時のこと? あれはそういうことだったの?」

「そうだよ。向日葵は把握してないの?」

 楓は向日葵がギクリとしたのを見逃さなかった。

 どうやら把握していないことだったらしく、思わずため息をついてしまった。

「いや、仕方ないじゃん。私は楓のことを操作したりできないんだから、記憶を読んだり、状態を把握したりするのは、他の人がやるのと同じようにしかできないんだって」

「そうだったね。じゃあ、僕が目を覚ます前の記憶については何もわからないの?」

「そんなことはないよ。目を覚ます前の記憶も、楓の記憶だよ。楓は生まれた時から楓だった。それに間違いはない」

 例えば、と言って向日葵はマシュマロを掴んだ。

「このマシュマロ。中がどうなってるかわかる?」

「え? マシュマロの中はマシュマロじゃないの?」

 不意に聞かれて、楓は常識的に答えた。マシュマロはマシュマロだと思った。

 しかし、楓の言葉を受けて、向日葵はニヤッとした。

 楓が訝しげに見ていると、向日葵の手によってマシュマロは半分にちぎられた。中からはとろっとしたチョコが出てきた。よく見ると普通のマシュマロとは少し形が違うようだった。

「チョコ入りだったの?」

「そう、私はナシもアリも好きだけど、今はそういう話じゃなくて。つまり、外から見て中の状態がわからないのが楓。もし異変があっても私には感知できない。でも、これが透明のコップに入ったジュースなら?」

 今では透明のコップを手で持った。これならば楓でもわかる。

「オレンジジュース?」

「そう、中身がわかる。楓はこの世界に来た時点で私やお姉ちゃん。それに朝顔の影響を受けず、状態を把握できなかった。つまり、生まれた時から楓は楓だったってこと」

「なるほど?」

 楓はわかったような、わからないようなつもりで腕を組んで首をかしげた。

 今の今まで心配してきた、誰か知らない人間の体を勝手に使っている可能性は消え、少し安心した。

 それでもまだまだ謎は残っている。全ては解決できないだろうが、せっかくだしと会話を続けることにした。

「じゃあ、何ですぐに意識が鮮明にならなかったんだろう?」

「私にもよくわからないけど、多分死の精神的ダメージだったんじゃないかな?」

「精神的ダメージ?」

「そう。溶けたチョコを固めるには冷やさないといけないように、意識を戻すのにも何かが必要で時間がかかったんじゃない?」

「人を精神レベルで連れ去っておいて理解してないの?」

「まあ、あんまり原理を理解してやってたわけじゃなくて、その、出来心だったと言うか……」

 向日葵は言い淀むと、ちぎったマシュマロを口に放り込んだ。

 しゃべれない言い訳を作って時間稼ぎをしたようだった。

 そのため、仕方なく楓は自分の頭で考えることにした。体は勝手に動いていたが、元から自分だった。だから、記憶を読むことができ、突然よみがえってくることもあった。では、体験したと感じるためには記憶を思い出さないといけないのは、精神的ダメージが大きかったからだろうか。

 思い返してみると、意識はぼんやりとしていたものの常にあった気がした。どのタイミングが死だったのかわからないほどつなぎ目が感じられなかった。寝て起きたら体が変わっていた感覚だろうか。

「ってことは、僕の目が覚めるまではずっと無意識で生きてきたってこと?」

「そうじゃない?」

「だから思い出せると」

「そうだと思う」

 向日葵の返答が曖昧だが、楓はなんとなくわかってきたような気がした。

 気兼ねしなくてよかった。しかし、それはそれで違和感が生まれてくる。

「それじゃあ、意識が戻るまでの性格が、以前の僕より明るいのはどうしてだろう」

 ずっと別人だと思っていた最たる理由、それが、友達の多さと人に対して臆さない態度だった。

 それこそ今の桜のようは言い過ぎだが、近いレベルで女子と接していた記憶だった。

 桜も意識がはっきりしてから、少しの間は戸惑っていたようだが、今は慣れている。

 椿が人の輪の中に入らないで驚いていたのも、楓にとっては記憶に残っていた。

「多分意識が働かないから欲望で動いてたんじゃない?」

「自我が機能しなくなってたから無意識で欲望が解放されてたってこと?」

「そう考えると妥当じゃない?」

「なるほど」

 今まで押さえつけていた感情が死のショックによってブレーキが壊れ、解放されてしまったと。

「つまり楓は、根源的な欲求として友達や彼女がほしかったんじゃない?」

「そう、かもね」

 少し頬を染めながら楓は言った。それはそうだろうと思った。友達はわからないが、今は一緒にいて楽しい。彼女に関しては告白してフラれて死んだのだ。ほしかったに決まっている。

 だが、そうなると椿への感情、恋慕が成就していないのは何故か。

 もし仮に向日葵の言う通り、自我で押さえつけられるのなら、少しずつ意識が戻ってきていたせいかもしれない。

 何にしても、今後は自動操縦は避けた方が良さそうだと思った。

「にしても、僕が起きた時とタイミングがよすぎる気がするんだけど」

 楓は口を突き出して言った。

「何が?」

「向日葵、僕が目覚めた日に病院に来てたでしょ? 状態がわからないのにおかしくない?」

「それは、彼女としての務めだよ」

「まだ彼女じゃなかったんだけど」

「うーん。じゃあ好きだから? 状態は探れなくても、変化には気づくようにしてたつもりなんだけど」

「本当に? イマイチ神様の集団で僕には力が効かないってことで、はめてるんじゃないかって気がするんだけど」

「そんなことないよ。本当に効かないんだって。わざわざ飛んで移動するくらいだし」

 楓は向日葵の言葉を聞き流し、少しの間考えた。

 向日葵と言葉のやりとりをしていても、実際のところを引き出すことはできない。何かゲームのような形で見破れないかと。

 今までの向日葵とのやり取りをヒントに考え、ふとひらめいた。

「それじゃあ、本当に僕の心が読めないのかゲームをしようよ」

 楓は言った。

「読めないよ?」

 向日葵は自信なさげに言っている。

 楓は気にせず先を続ける。

「いいから、これから僕はある考えを心に浮かべるから、それが何か当ててみて。わかるならヒントなしでもいけるだろうし、わからないなら無理でしょ」

「それって、わかるって言ってる人に試すやつじゃないの?」

「本当はわかってるかもしれないでしょ」

「読んでわざと外すかもよ?」

「その時はその時だよ」

 楓には考えがあった。もし、向日葵が読んでいたら反応が大きく変わるだろうことを思い浮かべる。

 以前から楓から積極的に迫ると動揺するところがあるのを、楓は向日葵から感じていた。楓から何か働きかけることが少ないことが理由なのではないかと考えていた。

 ここではそれを利用する。

「思い浮かべたよ」

 楓は極力平時と変わらないようにして言った。

 楓が思い浮かべた言葉は、向日葵を好き。だった。

 向日葵が読めたならばたじろぎ、嘘とついてもわかるだろうという算段だった。

 楓の目を見つめる向日葵はしかし、首をかしげるだけだった。思わず目をそらした楓の様子を見ても、ピンとくるものがないようだった。

 これでは変化に気づくどころではなさそうだが、と楓は思った。

「わかった?」

 楓は聞いた。

「わかんない」

 向日葵は諦めたように手を挙げた。

「じゃあ、答えは何でしょう?」

 楓は改めて問うた。

「わかんないって。うーん。夕飯はカレーかな? とか? カレーがいいなとか?」

「少年か! って心はまだ少年だけど、違うよ」

「じゃあ、今度は楓が私の考えを当ててみてよ」

「え? 何で?」

「自分から勝手にゲームを仕掛けた罰。神様の罰だから天罰だよ。外したら何を考えてたか教えてね」

「待って」

「待ちません。よーし考えた」

 向日葵がわからないならわからないで、口に出さなくて済むゲームだと思っていただけに、突然のことで楓は心の中で頭を抱えた。

 いつ答えを聞いてくるかわからない状況で、向日葵から目をそらすのは得策ではないと判断したからだった。

 しかし、顔を見ていても何もわからない。目を見て人の考えなど読めないのではないかと思った。

 わざわざ目をそらしてから合わせてみても、ニコニコ笑顔のまま向日葵の表情は全く変わらない。

 ヒントとなるのは、カレーを食べたいという発言くらいだと楓は思った。

 もしかしたら、と楓はパッと顔を上げた。

「お、わかった?」

「カレー食べたい!」

 向日葵はハッとした。

 当たりか、と思い楓は表情を緩める。

「別にそんなつもりで言ったんじゃないよ」

「え、違うの?」

「うん。ハズレ。正解は楓が好きでした。楓は?」

「お、おんなじところだよ。向日葵が好きって考えてたよ」

「本当? 嬉しい。うふふ。相思相愛だね」

「いや、よかった。本当によかった。平和的解決で」

 向日葵は楓の隣に移動するとしきりに頬ずりを始めた。

 堂々と答えておきながら答えを外し、挙げ句の果てにはお互いがお互いを好きと考えていたことで、いたたまれない思いの楓だった。

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