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転生したので今度こそモテたい  作者: マグローK


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第79話 夏休み明け

 夏休みが終わった。

 夏休みの宿題は終わっていた。無事に提出して、楓は夏休みから解放された。

 そして、紅葉も藍も帰っていった。家に空き部屋が戻り、がらんどう、とまではいかないまでも、途端に静かになったように感じられた。

 まだまだ暑さは残っているが、クーラーの効いた部屋で机に突っ伏していれば、そこまで気になるものではない。故障や扇風機だけなら死んでいたのでは、と楓は思った。

「なんだかやっと日常って感じだね」

 楓が言った。

 向日葵の風邪も治り、朝顔の一件も終わり、久しぶりに二人だけで家でだらだらしていた。

 向日葵も楓と同じように机に突っ伏していた。

「うーん」

 向日葵が言った。

 向日葵の気が抜けているのはいつものことだが、朝から一日中様子がおかしい、と楓は思っていた。緊張していないとか、リラックスしているというよりも、腑抜けているというか、全ての警戒を怠っているというか、そんな印象だった。

 神様なのだから人間程度気にする必要がないということなのかもしれないが、そんな荘厳さはなく、動物が尊厳を失っているような気がし、楓には堕落し切った猫の姿のように見えていた。

 アゴを撫でればゴロゴロ言うのではないかと思うが、未だ試したことはない。

 スキだらけだしと思い、楓は向日葵のアゴに手を伸ばした。自分がされる分には抵抗があったが、向日葵からの抵抗はなかった。気づいていないとさえ思えるほどだった。そのため、遠慮しないで楓は撫でた。指からすべすべとした感触が返ってくる。

 猫のようにゴロゴロとは言わなかったが、マッサージの最中のような、気持ちよさそうな表情を浮かべていた。そして、ふわぁと息を漏らすのだった。

「ペットか!」

 楓は思わず叫んでいた。

「だって気持ちいいんだもん」

 前よりも心を開いてくれていることかと考えてみるが、真意は読めない。

 アゴを撫でる手を止めていると、逆に手にアゴをこすってもっとしろとせがんでくる。楓は再び撫でてやるが、本当にどうしたのだろうと思った。

「何かあったの? 嬉しいこととか?」

「うん。もう有頂天ってやつだよ。やっぱり楓を好きになってよかったなって」

「僕何かした? 心当たりがないんだけど」

「覚えてないの?」

「覚えてないも何も、今日は学校行って帰ってきただけじゃない? 向日葵に対して特に何かしてあげた記憶はないんだけど」

「しょうがないから教えてあげるよ」

 やっとのことで、向日葵は楓の手からアゴを離すと体を起こした。

 何をするのかと思い、楓は向日葵を見つめていると、不意に唇を奪われた。咄嗟に押さえる。

「え、何してるの?」

「こういうことだよ」

 楓は高速でまばたきを繰り返した。なんの脈絡もないキスだと思った。

 だが、向日葵はこれでわかるでしょ。という表情を浮かべている。どうやら答えらしいということを知り、楓は視線を宙にさまよわせ、必死に考える。

 キスというと、すぐに思いつくのは夏祭りでの最後の出来事だった。

 向日葵と、他の子よりも向日葵を見ることを約束した後、向日葵に頼まれ、周囲に流され、熱いキスを交わしたこと。

 桜から教わった技術も実践したキス。

 長いようで短かった。

 それが尾を引いているということかと楓は考えた。

 他にキスだけで向日葵の変化を説明づけられるものが思いつかなかった。

「僕のキスがよかったの?」

「私から求めたんだよ? 当たり前じゃん? 前よりゾクゾクしたって言えばいいのかな? 形だけ求め合った時とは比べ物にならなくて、病みつきってやつかな」

「あんまり頻繁にやるものでもない気がするんだけど」

「二人だけだし、減るものじゃないんだしいいじゃん。またしようよ」

「確かに減るものじゃないかもしれないけど、そういう時に限って人が来て気まずくなるんだよ?」

「でも、私は来たらわかるよ」

「今の向日葵が言っても説得力ないよ」

 原因がわかると、楓は床に倒れ込んだ。桜はやろうよと言って聞かないかった。楓にしてみたら思い出すだけで恥ずかしく、それだけで十分だった。

 楽しいというだけで行動する神様とは違うことを悟った。

 嫉妬する癖に、恥ずかしいという感情は持っていないのかと思った。だが、今までのことから考えると持っていないのだろうとも思った。

 恥の感情が人と違うということや、失敗ということに反応するものだとすると、向日葵の感情として機能していなくてもおかしくない。

 なんとかして、興味をキスからなんとか引きはがさなくてはと思ったが、手頃な方法が思い当たらなかった。

「あ、桜ちゃんから聞いたよ。今の状況にぴったりな、お菓子を二人で食べるゲームがあるんだってね」

 楓はギクリとした。

 しかし、避けようとしているものの、楓は決してしたくないわけではなかった。むしろしたい。だが、どうにも気乗りしなかった。そのため、嘘を吹き込むことにした。

「そうだね。二人で食べるだけだけどね。別に普通でしょ?」

「本当に? 私が聞いた話だと、端から食べ合うって聞いたんだけど」

 中身まで聞いていたらしい。

「普通って言うならいつもやってるんでしょ? なら、やろうよ。いいでしょ?」

「いや、普通って言ったのは端から食べ合うやつじゃなくて……」

「違うの? もしかして普段はやらないの? 楓は私が寝込んでいる間、他の子と何してたの?」

「そんなに変わったことじゃないよ」

「そんなに?」

「そんなに」

 こくこくと頷く。自分から進んでやったわけではなく、巻き込まれたという思いが強いからだ。嘘は言っていないと思った。

「まあいいや。思い出話は聞きたいから、おいおい話してもらうとして、今回は桜ちゃんに紹介してもらったやつをやろうと思うけど、いいよね?」

「え」

 タイミングよく、玄関のドアの閉まる音が家中を響いた。

 気にしていた要因が消えたこともあり、向日葵の顔が嬉しさで歪んだ。

「ほら、お母さんも出かけたみたいだよ?」

「ええい! やってやろうじゃねぇか!」

 楓は立ち上がった。ルールを知っているならば話が早い。先手必勝とばかりに棒菓子を口にくわえた。

「いいねぇ、乗り気だねぇ」

 向日葵も立ち上がると反対側をくわえる。

 楓は眉間にシワを寄せ向日葵をにらみつけた。こうでもしなければ平静を保てなかった。

 準備ができたことを基準に両者同時に食べ進める。途中で折ってしまってもよかったが、それでは啖呵を切っただけにダサすぎる。

 どうってことはないはずだった。羊やヤギが草をはむように食べ進め、顔は確実に近づく。しかし、怖気付く楓ではなかった。桜とやった時と比べると異次元のスピードで進み、二人の唇は簡単にぶつかった。

 満足だろうと顔を離すと、向日葵の後ろでは音を立てずにドアが閉められたところだった。

 楓はまばたきを繰り返し、向日葵とドアを見比べる。

 向日葵は楓の予想通り満足だったようで、また恍惚とした表情を浮かべている。

 まだいるかもしれない気まずさから、すぐに廊下に出ることもできず、楓は顔が熱くなることを気にするばかりだった。手持ち無沙汰で向日葵を小突いた。

「間髪入れずやるゲームなの?」

「違う。今誰かいたっぽい」

 再び玄関のドアが閉められる音がした。家を出たらしい。

「ねぇ、向日葵の人を感知する能力故障してない? お母さんが出てったんじゃなくて、誰か来てて、今出てったみたいだよ?」

「そうかもねぇ」

 向日葵は聞いていなかった。

 楓は頭を抱えるしかなかった。

 知り合いからの連絡もなく、ドッキリか何かでいきなり訪れようとしていたのかもしれない。別に連絡してからでなくてはいけないわけではないため、誰が来て出て行ったのかわからない。

 こと感情においては、神様達は弱い。嬉しいと素晴らしい能力も鈍るようだ。

 少し前までは、もっと頼れるかっこいいイメージがあった向日葵だったが、今は親しみやすいと言えば聞こえはいいが、神様としてはダメなのではと楓は思った。

 好いてくれることは嬉しかったが、舞い上がったテンションもなく、日常でいきなりキスとなると恥じらいが勝っていた。

 確実に二人きりになれる環境が楓の家にはないことがネックだった。楓の部屋に鍵はない。

「他は何したの?」

「事故が起こったことを理解してない?」

「何のこと?」

「理解してない!」

 仕方なく、楓は一方的な説明を繰り広げた。夏休み、向日葵が寝込んでいる間にしたことを余さず伝えた。嘘を言うとバレた時に面倒になるからだ。

 主に茜とのやり取り、あとは楓の姉妹との出来事、向日葵への心配などなど。

 ところどころで興味を持ったように向日葵が目を輝かせたが、楓は言葉を挟ませなかった。

 息つく暇もなく説明をすると、楓は疲れていた。

「やったやつ私ともやろ?」

「いいけど、もっとプライバシーが保護された環境でやろうよ」

「外でキスしたのに?」

「あれは、他の人もしてたからであって……」

「他の人がしてたら外でもするの?」

「人は流されやすい生き物なのだよ」

「ふーん。面白いね。それって自分で決めてないんじゃない?」

「そうとも言えるし、そうとも言えないんじゃない? 周りと合わせることで生き残ってきた種族だって、どこかで聞いたような気がするから」

 いいぞ、と楓は思った。今この場をやり過ごして、別の空間でやることに取り付ける。

 そのためにも今は、この会話を引き伸ばそうと楓は思った。

「それで、今はお母さんがいるから色々したくないってこと?」

「まあね。気になるから、心から楽しめないと言うか」

「じゃあ、私の家に来ればいいんじゃない?」

「そうだね。向日葵の部屋って鍵ついてるの?」

「ついてるよ。なくても作れるし」

「そうだよね」

 楓は手を打った。

 自分の家が近いため、自分の家にこだわってきたが、向日葵の家を知り、人に見られずにやりたい今、絶好の場所は向日葵の家だった。

「今度は私の家ね」

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