表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したので今度こそモテたい  作者: マグローK


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/187

第76話 夏祭り前編

 着付けを済ませ、楓は家を出て、姉と妹とともに歩く。

「楓お姉ちゃん似合ってるよ。ね、藍お姉ちゃん」

 紅葉が言った。

「もちろん」

 藍が言った。

「あ、ありがとう」

 楓は頬を染めながら言った。

 今の姿になってから、服装や見た目を褒められることが増えた気がした。

 しかし、褒められるのは嬉しいが、浴衣は動きにくく、下駄は歩きにくい。

 靴下をはかされた犬みたいになってしまい、走ることなどできそうにない。

 そもそも、浴衣は小股で歩くことが正しいらしいと聞いたため、これでいいのではと楓は思った。

「紅葉もかわいいよ」

 楓も言い返した。

 日も沈みかけても残る暑さの中、同じ方向に向かう人々。

 前世の楓には馴染みの薄かったイベントへ向かっていた。

 それは、夏祭り。

 行ったことはある。一応、楓にとっても楽しかった思い出だった。

 だが、それが何年前かわからない。

 友達がいなかったことと、行かない方がかっこいいと思う気持ちも相まって、家にいた。

 だが、今は心待ちにしていた。

 人混みの中で見知った顔を見つけると、笑みがこぼれていた。

「楓たーん!」

 大声を出して手を振っている桜。

「楓さん」

 控えめに手を振る椿。

「お待たせ」

 楓は二人と合流した。

「遅いと言おうと思ったけど、まだ待ち合わせ時間前か」

「ふふふ。ぬかりないよ」

「じゃ、私たちはこの辺で」

 と藍は言った。

 紅葉とともにどこかへ行こうと背を向けようとした。

 気づくと、楓は藍の手を引いていた。

 反射的だった。

 自分でも何をしているのかわからなかった。

 困った様子の藍を見上げ、楓は視線を宙に泳がせた。

「お姉ちゃんたちも一緒でいいよね?」

 楓は確認するように桜と椿を見た。

「もちろん」

「歓迎です」

 桜も椿も頷いた。

「じゃあ紅葉も混ざるんでいい?」

 楓は紅葉に聞いた。

「朝顔ちゃんも一緒?」

 紅葉に聞かれ、楓は頷いた。

 朝顔は向日葵が連れてくるはずだ。

「じゃあいいよ。私は朝顔ちゃんと約束してたから」

 紅葉はすっかり朝顔と仲良くなったらしい。

 触手の一件が済んで以降、楓は朝顔と紅葉が遊んでいるのを目にしていた。

 凶暴性はなりをひそめ、心配することはなかった。

 中身が変わるという朝顔の仮説通り、楓からすると全くの別人だったのではないかと思うほどの変化だった。

 もしかしたらキスで戻ってしまうかもしれないと思うと、事故や油断に気をつけなければならないと思っていた。

 それは少し負担だったが、実際に触手が暴れるよりはましだ。

 それに、今の楓は朝顔といても緊張することはなくなった。

 初対面時のかしこまった態度はしなくていいからだった。

「で、とうの朝ちゃんとその姉達は?」

 楓が聞くと桜も椿も首を横に振る。

 まだ来ていないらしい。

 夏祭りに皆で行きたいと言い出したのは向日葵だった。

 面白そうだと言い出し、集められるだけの人間を誘っていた。

 だが、とうの本人が遅刻しているらしかった。スマホで時間を確認すると、もう集合時間を過ぎている。

 夏目家に、まさか夏祭りに行けないしきたりはないだろう。

 夏のために生まれてきたような苗字なのだし、と思ったがそれは関係ないかと楓は思った。

「気長に待ちましょ」

 という椿の提案を受け、雑談をしながら待つ。

 特別の予定があって遅れるという連絡もない。

 ただ人混みにつかまって遅れているだけなのだろう。

 予想通り、しばらくすると、

「おーい! 楓ちゃーん!」

 という向日葵の声が聞こえてきた。

 喧騒の中でも十分な声量だったのか、名前を呼ばれたからか、今日の主役の登場に楓も大きく手を振り返す。

 向日葵の後ろには茜と朝顔の姿もあった。

 こんな人混みの中では瞬間移動も使えず、飛行もできない。つまり、歩いての移動のせいで遅れたのだろう。

 早足で駆けてくる三人を待っていると、楓は肩を叩かれた。

 桜だった。

「何?」

「楓たん。向日葵たんが来て急に明るい顔してかわいいね」

「な、何言ってるの?」

「まあそう照れない照れない」

 どんと背中を押され、危うく向日葵とぶつかりそうになり、楓は思わず目線をそらしてしまった。

 夕方で提灯の明かりの下、夏祭りを彼女や友達と回るという状況。加えて、桜の言葉で、楓の脳の処理能力を超えていた。

 黙ったままではいかん。反省を生かさねばと思い、楓はどうにか顔を上げた。

「あのさっ」

 という声がぶつかる。

「楓ちゃんからでいいよ」

 と向日葵に譲られ、楓は頷いた。

「向日葵、浴衣似合ってるよ」

 楓は言ってからホッと息を吐いた。

「今日は言えた」

「私も同じこと言おうと思ってた」

 二人は思わず笑い合った。

 風邪が治らず、こうして夏祭りを楽しむこともできなかったかもしれない。

 朝顔の暴走が終わらず、外出すらままならなかったかもしれない。

 それでも今は無事に夏祭りを回れる。

 まだ他にも一緒にやりたいことはたくさんあったが、それらはこれからしていけばいいと楓は思った。

「お熱いねー」

 桜に言われ、楓はうつむいた。

「あんまり茶化さないの」

 椿が言った。調子に乗った桜は椿に小突かれていた。

「じゃあ、皆揃った?」

 一応最年長の藍が確認すると、一同屋台が立ち並ぶ方へ移動を始めた。

「手、つないでもいい?」

 向日葵が少し遠慮がちに言った。

「もちろん」

 楓から絡ませるように手をつなぐ、できればもう離さないために。


 屋台。

 なんだか焦げたにおいが充満していると楓は思った。

 懐かしい気分の中、どれがいいのだろうと目移りしていた。

 ぞろぞろと歩いていると邪魔な気もするが、グループになっているのは楓達だけではないらしかった。

 気を取り直して前に進む。

「それじゃあ、手始めに、射的対決でもしませんか?」

 桜が提案した。

 誰からも反論は出ない。

 年上に対する桜の対応は珍しい気がして楓は吹き出してしまった。

「ん? 楓たん余裕そうだね? じゃあトップバッターは楓たんで」

 早速の指名。

「いや、僕多分射的はできないよ」

 楓は言った。

「まあまあ、誰でも最初は皆の犠牲になるものだからさ」

「ひどい。そこは誰でも最初は初心者とかじゃないの?」

 一番目を仕方なく受け入れ、楓はお金を払って銃と弾を三発受け取る。

 やったことはあった気がしたが、何故だか一度も当たった記憶はない。つまるところノーコン。

 練習できないと普通並みにすらできない。

 確実にうまい三人がいることを思うと、勝負も何もないのではと思うが、できることをやるまで。

「ねえ、ところで勝負の内容は?」

「落とした数が多い人。次に大きい人で」

「わかった」

 つまり、しょぼいものでも多く落とせば勝ち。

 射的を最初に選んだのはたまたま近くにあったからだろう。桜に計画性があって選んだとは考えられなかった。

 それに、残されていて勝負に使えそうなものは金魚やスーパーボール、水風船をすくうくらいだ。

 楓は意識を周りから目の前に切り替える。

 弾を詰め、狙いを定め、撃つ。

 外す。

 狙ったお菓子の箱を大きく上にそれた。

 これは当たるのだろうか、と楓は思った。

 同時に、隣でお菓子の箱に当て落としている少年の姿を見てしまった。

 どうやらうまければ当たるらしい。

 それはそうだ。弾は発射される。物は動かない。当てられるかどうかは力量次第。

 残弾二発。

 楓は振り向いて向日葵を手招きした。

「ねえ、向日葵の力で軌道を変えてくれない? できれば威力とかも」

 楓は頼んでみた。

「ダメだよ。勝負は正々堂々とやらないと」

 普段能力によるイカサマまみれの向日葵が言った。

 彼女の頼みでも聞いてくれないらしい。

 無理な頼みとわかってはいたが、楓は肩を落としてしまった。

「でも、ヒントはあげられるよ」

 楓の様子を見かねたのか向日葵が言った。

「本当?」

「うん。楓ちゃんの身長ならもう少し前に出てもいいと思う」

「うーん。前に出る?」

 確かに銃と的までの距離が近づけば当たりやすくなるだろう。

 前回の弾の軌道を考えつつ、楓は低くなった身長なりに身を乗り出して銃を構えた。

 二発目。

 詰める。撃つ。

 かする。

「おお」

 と仲間内がどよめいたものの、揺れるだけで落ちない。

 あと一発。

 しかし、ゲームのルールがわかってきた。

 次は当てられる。

 今の勢いを殺さないで、詰め、放つ。


 結局、楓が取れたのはキャラメル一箱。

 勝負は茜、向日葵、朝顔の三人が大勝し、あとはどっこいどっこいだった。

 ここまでは予想通りの展開だが、神様三人が取り過ぎたのか射的を出禁になり、いたたまれず移動していた。

「いやーすごいね向日葵たん達」

 のんきにりんご飴を食べながら桜が言った。

 見ているだけで口の中に唾液が広がった。

 夏祭りのりんご飴は酸っぱいイメージだった。

「ねえ、見てたの?」

 楓は聞いた。

 桜は言い出しっぺにも関わらず、一つも落とせずどこかへ行ったかと思うと、りんご飴を持って戻ってきたのだった。

「いやぁ、皆の勇姿は目に焼き付けたから」

「本当に?」

 疑心暗鬼になりながらも、楓は落としたキャラメル一つを口に入れる。

 せっかく取ったのだ。食べないのももったいない。

 酸っぱいものを見てからなせいか、余計に甘く感じられた。

「楓たんちょうだいよそれ」

「りんご飴食べながら食べるの?」

「大丈夫大丈夫」

 よくわからないが、楓はあまりいい組み合わせではなさそうだと思い、渡して少し距離を置くことにした。

 向日葵はどこかと思ったが、迷子にでもなったのか向日葵の姿が見当たらない。

 荷物が増えたことで、移動している間にどこかではぐれたのかもしれない。

「朝顔ちゃんと一緒に回ってくるね」

 突然、紅葉が現れて言った。

「お姉ちゃんにも言った?」

 楓が聞くと紅葉は頷く。

「じゃあ、気をつけてね。遅くなる前に帰るんだよ」

「わかってるよ」

「朝ちゃんも紅葉をお願いね」

「わかりました」

 朝顔の返事を聞いて、楓は紅葉を送り出した。

 二人で約束していたのだから、ぞろぞろと回る必要もないだろうと思った。

「やっと追いついた」

 向日葵が息を切らしてやってきた。

 立ち止まると膝に手を当てて下を向いた。

「どうしたの?」

「いや、体力的な疲労というより、ここまで人が多いと精神的に疲れて」

 向日葵が言った。

「わかるけど、あれは? 取った景品は?」

 楓の質問に向日葵は辺りを見回した。

 人が聞いていないことを確認したのか、それでも警戒するように顔を楓の耳の近くに寄せた。

「お姉ちゃんも朝顔もひどいんだよ。私に全部押し付けて家に送っとけって」

「なるほど」

 全ての景品を家に送ったから手ぶらだと。

 そして、それを向日葵に任せていたから一時的に姿がなかったと。

 楓は納得した。

「じゃあ向日葵も戻ってきたし、屋台巡り再開かな?」

「あれ? 聞いてない? 桜ちゃんは椿ちゃんと回って、お姉ちゃんは楓ちゃんのお姉ちゃんと回るんだってよ。朝顔と紅葉ちゃんと私達だけじゃない?」

「本当? どうして?」

「さあ、桜ちゃんは椿ちゃんとやりたいものがあるって。お姉ちゃんは姉同士話がしたいって。それで、朝顔達は?」

「二人で回りに行ったよ。約束してたみたいで」

 どうやら取り残されてしまったらしい。

 確かに、振り返ってみると、先ほどまでりんご飴を頬張っていた桜の姿がなかった。

 その近くにいた椿、茜、藍の姿もない。

 どうやら向日葵の話は本当らしい。

「まあ、あんまりぞろぞろ動くと迷惑だろうし、二人一組ぐらいがちょうどいいかもね」

「私は嬉しいよ。やっと、楓ちゃんと二人になれたから」

「周りに人いっぱいいるけどね」

「それはいいの!」

 少しの間二人で笑い合う。

 思い返すと、夏休みに入ってから、ろくに二人の時間を取れていなかった。

 学校がある時よりも時間はあったはずなのに、二人きりになれていなかった。

「何から回る?」

 楓が聞くと向日葵は首を横に振った。

「楓ちゃんが回りたいのからにしようよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ