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転生したので今度こそモテたい  作者: マグローK


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第67話 朝顔の部屋で

 向日葵にも茜にもできなかったことが朝顔にはできる。もしかしたらテレポートもできたのかもしれない。楓は胸を躍らせながら自分の体を見下ろした。

 しかし、そう思ったのも束の間、光がおさまると体が少し軽くなると同時に、胸に重力を感じた。

 上半身は冷え、股の部分にしか布が残っていなかった。

 見ていたのは海パン姿の自分。

 今の楓は同じように海パンだけを身につけた姿になっていた。

 性別は女のまま。

「ほら、戻してあげたよ」

 できたとばかりに言う朝顔。

 楓は咄嗟に腕で胸を隠した。

「いや、戻すって服装のことじゃないから! 性別のことだから! 早くさっきの服にしてよ」

 楓は叫んだ。

「そうなの? 似合ってると思うよ」

「どこの世界に海パンだけの女子がいるよ」

「ここ?」

「そういうことじゃなくて」

 らちが明かないと思い、楓は胸を押さえたまま、作戦により接近に成功した扉に駆けた。

 そして、ドアノブを握る。だが、押しても引いても扉はびくともしなかった。

 これまで入る時も出る時も簡単に開いたにも関わらず。

「ダメだよかえ姉。まだ何も終わってないのに部屋を出ようとしちゃあ」

 背中に直接、朝顔のひんやりとした小さな手が触れた。

 楓の背筋は自然と伸びていた。

「いや、そんなつもりは……」

「そう?」

「うん」

 朝顔は疑っているのか、何かの作戦なのか楓の背中の上で指を踊らせていた。

 くすぐったさを感じるものの、楓は笑うことはできなかった。

「へえ、本当に洗脳とかはできないんだね」

「洗脳?」

「でも、部屋に対する能力は効いてる。面白い。やっぱりタイプだなかえ姉は」

「誰か! 誰か助けて! 閉じ込められてる!」

 会話が成立していないことを悟り、楓はドアを叩いた。

 窓が割れて、さすがにそろそろ廊下に様子を見に来た人が居てもおかしくない。

 逆に遅すぎて、もしかしたら何事もなかったということで、もうすでに誰も居ないかもしれない。

 だがそれでも、無力な楓にできることは、外に助けを求めることだけだった。

「助けて! 向日葵! 茜ちゃん!」

「無駄だよ。ここは今かえ姉がいた世界から隔絶されてるから」

「どういうこと?」

「朝顔がドアに触れてかえ姉のいた世界とつなげないと、戻れないようになってるから」

「戻れない?」

「簡単だよ。この部屋は別の世界なんだよ。だから、入る人も選ぶし、かえ姉がかえ兄だった時の姿の写真もある。言ってしまえば、本来の神の世界に一番近い場所なんだよ」

「神の世界?」

 どうやら神隠しにでもあったのかと楓は思った。

 咄嗟にスマホを取り出そうとしたが、服装を変えられてしまったことで、同時に紛失したようだった。圏外よりも絶望的に感じられた。

 ドアから助けを呼んでも誰も来ない。スマホもない。連絡手段は完全に断たれた。

 体から力が抜け、楓はその場にへたり込んだ。

 抵抗する気力も薄れ、そっと頬へ伸ばされる朝顔の手を、身じろぎ一つしないで受け入れていた。

 ただ、うつろな表情を浮かべて楓は朝顔の顔を見上げていた。

「朝顔ね。かえ姉が臨海学校行くって知ってたから、帰ってくるまでは待ってたんだよ。連れ去らないで、紅葉ちゃんと仲良くして待ってたんだよ。偉いでしょ? ね? 朝顔を褒めて褒めて」

 朝顔は楓の眼前でゾッとする笑顔を浮かべていたが、楓は頷き、

「偉い偉い」

 とかすかに笑って口に出した。

「頭も撫でて」

 朝顔の要望に楓はどうにか手を伸ばして、目の前でしゃがみ込んだ朝顔の頭を撫でた。

 撫でていると、楓の中でどうにでもなりそうな気がした。だが、すぐにわかる。見かけだけだということを楓は知っている。

 どうやらもうダメらしい。打てる手は打った。最後の最後まであがくべきなのだろうが、他の手が思いつかなかった。

 なるようになる。閉じ込められたからといって、悲惨な未来が必ずしも待ち受けているわけではないだろう。

 もしかしたら、今までよりも楽しいかもしれない。

 諦めたその時、ガコッと音を立ててドアが開かれ、楓は後頭部をしたたかに打ち付けた。

 痛みを感じるものの、痛みを表現する気力はとうに失われていた。

 だが、視界に入ってきたものに楓は目を見開いた。

「茜ちゃん!」

 と思わず叫んでいた。

 茜は余裕がないのか顔を歪ませて部屋の前に立っていた。かろうじてウインクが返ってくると、楓は少しの気力が戻ってきた気がした。

「朝顔ちゃん? ちょっとオイタが過ぎるんじゃないかしら?」

 手を前に突き出した姿勢で茜は言った。

「別に朝顔は悪いことしてないよ」

 朝顔ははてといった様子で言った。楓もその表情からは全く悪意を感じられなかった。

 悪意なくして行われていたのかと思うと楓は背筋が凍る思いだった。

「まあ、楓の見た目を見たらどっちがどっちだかわからないものね」

「どうしてあか姉でも開けられたの?」

 冗談めかして言う茜に、朝顔が急に無表情になって言った。

 場の空気が一瞬にして凍てついた。

 寒気がより一層強くなり、楓は身震いしていることを自覚した。

「こじ開けたのよ。妹のトリックくらいは見破れないとね。と言ってもギリギリだけど。さ、行くわよ」

 茜から伸ばされた手を掴むと楓は立ち上がり、駆け出した。

 朝顔は怒りで我を忘れていたのか、思いのほかスキだらけだった。

 だが、すぐさま後ろからヒュンヒュンという風を切る音が鳴り出した。

「これ大丈夫なの?」

 楓は聞いた。

「それは、どうかしらね」

 茜にも余裕がないらしく、表情は真剣そのものだった。

 追ってきているものはなんだかわからないが、振り返る余裕のない楓は前だけを見て出せる限りの全速力で走った。

「こじ開けたって言ったけど、どうして開けられたの? あそこは僕と朝ちゃんしか入れないはずじゃないの?」

「細かいことは後」

「どこ行くの?」

「とりあえず、安全基地になりそうなところかな」

 階段を上がると風を切る音が小さくなり、多少息をつくことができた。

 それでも休む間もなく茜は口を開いた。

「じゃあ行くわよ。覚悟はいい?」

「行くって?」

 楓の質問に答えることなく、茜は楓を抱き上げると窓に向かって突進した。


 朝顔にされたのと同じようにして、楓は自分の家へと帰ってきていた。

 ただいまの挨拶をしている場合ではなく楓は自分の部屋まで駆けた。

 ドアを開けると、楓の部屋には先回りしていたのか向日葵の姿もあった。

「よかった。無事だったんだね」

 向日葵の言葉とハグ。

 生きていることを実感してから、すぐに楓は服を着た。

「ただいま」

 と言って仕切り直すと三人はテーブルを囲んで座った。

「茜ちゃんが入ってこられたのはどうして?」

 楓は聞いた。

「それは楓がドアを叩いてくれたから場所がわかったからよ。もし閉じ込められてもドアを叩いてくれればまた助けられると思う」

 茜は答えた。

「そっか」

 ホッと胸を撫で下ろすと同時に、別の疑問が頭をもたげた。

「あれは何? 朝ちゃんってあんなだったの?」

「朝顔のこと朝ちゃんって言ってるの?」

 向日葵に聞かれ楓は頷いた。

「そう呼ばないとすっぽんぽんにされるところだったから」

「災難だったね」

「そんなことより」

 茜は机を叩いた。

「あれはもう朝顔ちゃんだと思わない方がいいわ。同じ形をした何か。いつものね。ここをかぎつけてくるのも時間の問題よ」

「そうだね。お姉ちゃんの力でもギリギリとなると、今度は厄介かもね」

「ちょっと待って二人は何か知ってるみたいだけどあれは何なの? 本当に朝ちゃんなの? それとも違うの?」

 二人は目線を合わせるとコクリと頷いた。

 なにやら重要そうなことらしいと楓は息をのんだ。

 そして、茜が口を開いた。


 神様にも色々な種類がある。

 序列もあれば、力の強さも様々。

 茜を一番として、一番下を向日葵とする神様の集団において、朝顔が二番目だった。

 ただし、朝顔は平均を取ると実力としては三番目やそれ以降にも劣った。

 さすがに向日葵に劣ることはなかったが、それでもほとんどの神に力では劣った。

 しかし、それは平均を取ればのことだった。

 朝顔の能力にはむらっけがあった。

 もちろん、神の世界において能力の強弱は問題ではない。何故なら、何をしようと世界は変わらないからだ。

 虚無。

 それだけが、厳然事実だった。

 だが、一度楓がいる世界に来たならば、能力の違いが世界へ与える影響として如実に現れる。

 楓の身近に居るのは向日葵、茜、朝顔の三人だけだが、他の神が来たこともあった。

 その時はちょうど間が悪く、朝顔の調子がいい時でもあった。

 三番目の神が来た。

 名はシロガネと名乗った。

 艶やかな赤髪はまるで本物のバラのようにキレイだった。

 シロガネはやってくるなりお菓子にハマり、朝顔のものを横取りしてしまった。

 一瞬だった。

 一瞬にしてシロガネは壁に埋もれていた。

「私の大切なお菓子を取るからだよ。何か弁明は?」

「……」

 シロガネはすぐに再生することもできず、しゃべることなどできるはずもなかった。

 快不快に慣れていない三番目の神は、お菓子の誘惑に負け、烈火の如く怒った朝顔に、ものの見事に顔面を殴り飛ばされた。

 それ以来、痛みのトラウマから楓のいる世界へは来なくなってしまった。

 その時に発した雰囲気からは、まだ余裕を感じていた茜だった。

 そのため、もし朝顔が問題を起こしたとしても、なんとかなるだろうと軽く踏んでいた。

 だが、それは誤りだった。

 調子がいい時にもまたむらっけがあった。

 今回ばかりは茜もギリギリで余裕がなかった。


 話し終えたところで楓は頭を抱えた。

「それってもう終わりってこと? 僕を人柱にしてちゃんちゃんってこと?」

 楓は二人に聞いた。

 即座に返事がない。

 二人は表情を曇らせてうつむくばかりだった。

「おい彼女。僕を守るって話はどうした」

「いや、朝顔に対しては実力が及ばないからちょっと無理かな」

 控えめに向日葵が言った。

「おい元凶の姉。解決策は?」

「調子は長くは続かないから、終わるまで専守防衛ということにしようと考えてるわ」

 茜が言った。

 堂々としていた。

「守りに徹すれば問題が解決するまで何とかなるってこと?」

「人間の世界でもアウェーよりホームが強いでしょ?」

 パリンと音がして窓が割れた。

 触手のような何かが侵入して来ようとしていた。中に押し入ろうとするように動くものの、入れないのか、何度か押し引きを繰り返していたがやがて引っ込んでいった。

「もうバレたみたいなんですけど? しかも破られてるみたいなんですけど? これは追い込まれてると言うのでは?」

 楓は言った。

「いや、入ってこなかったから大丈夫だよ……ちょっと破られるのは想定外だけど」

 茜が言った。

「聞こえてるよ? 想定外? 無理じゃん。僕が生贄になるのね」

「まだ諦めちゃダメだよ。希望を持つんだよ」

 向日葵が言った。

「希望を持ってどうにかなる状況?」

「それは……」

 向日葵は口ごもった。

「ごめん。責めるつもりはなくて。ちょっと混乱してるみたい」

「ううん。私も気にしてないから大丈夫だよ。楓ちゃんがピンチに弱いことは知ってるから」

「ありがとう」

 割られた窓もすぐに直せる。とりあえず家に居れば大丈夫らしいことはわかった。

 茜はテレポートで家に戻り、朝顔との直接対峙を試みるという。

 そして、安全のため向日葵が家に残った。

 家族に危険が及ぶ可能性は怖かったが、他に適した場所がなかったらしい。

 これでは臨海学校が終わったというのに休めない。

「ああ、実力が上なら茜ちゃんが残ってほしかったな」

 楓はつぶやいた。

「まだ動揺してるの? でも、それは思ってても言っちゃダメだよ! 私だって傷つくんだよ!」

 向日葵が叫んだ。

「ごめん。どうにも、感情に振り回されちゃって」

「大丈夫?」

「ダメかも」

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