表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したので今度こそモテたい  作者: マグローK


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/187

第62話 睡魔といたずら

 全員の髪を乾かし終え、向日葵に髪を乾かしてもらうと楓はそこで力尽きた。

 布団を敷き、横になるところまでは動けたが、それ以上はもう無理だと悟った。

 うつ伏せだったが、このまま返事のないしかばねになることも覚悟して、楓は目をつむった。

 まだ消灯時間まで時間はあったが、楓には動く気力が残されていなかった。

 周りも気遣いからか、静かにしてくれた様子で、楓は安心して体の力を抜いた。

「うっ」

 しかし、勢いよく楓の頭めがけて物がぶつかってきたことで、楓は声を漏らした。

 半目のままで顔を起こすと、目の前で桜が満面の笑みを浮かべていた。

 楓は犯人を桜と決めつけ、何が起きたのかさらに周りを見回してみる。

 いや、顔を上げたことで背中に落ちた物を見える位置に動かしてみた。

 感触からわかっていたが、投げられたのは枕だった。

 借り物の枕を投げるとは何事かと思ったが、何かあったらこっそり向日葵に証拠隠滅してもらえばいい。

 内なる決闘の炎が刺激されると、楓は男として逃げ出すことができなくなった。

 だが、眠気には勝てず、えいやっと桜の胸めがけて投げ返すと、再び枕に顔をうずめた。

「楓たんノリ悪いー」

 桜が言った。

「眠いんだって。もう肝試しで疲れた」

「夜はこれからでしょ」

「知らないよ。桜はなんでそんなに元気なのさ。僕はもう眠い」

「眠い眠いって老人なの?」

「老人じゃないよ。眠いもんは眠いでしょ」

 楓はあくまで桜を見ることはなく、顔を横に向け、声だけ発して答えていた。

 目を開けることもなく、ただただ会話だけしていた。

「もういいよ。あたし一人でやるから」

「向日葵と椿はいるよ」

「いい」

 桜は遊んでいたが、各々明日の準備をするなり、暇を潰すなりしていた。

 別に桜の相手をするのは楓でなくてもいいはずだった。

 ばふっばふっと音を立てていることから、桜は枕でバレーボールや紙風船のように遊んでいるのだろうと思い、楓は脱力した。

 少しして飽きたのかその音も止み、誰かが気遣いからか仰向けにしてくれようと押された。

 楓はされるがまま転がされた。

 むにゃむにゃしながら転がされた。

 腰回りが自由になった気がしたが、帯がずれてしまったのだと思い楓は気にせず眠りこけっていた。

 誰かは布団をかけてはくれず、逆にへそから左腕から直接空気を感じ、再度転がされた。

 楓はハッとして目を開けると、さらにうつ伏せになるように転がされていることに気がついた。

 咄嗟には慣性に逆らえず楓は転がされ続けた。

 身につけていた布を引かれ、転がしていた犯人の方を見た。

 犯人は案の定ニヤニヤとした笑いを浮かべた桜だ。

「ちょっと思ってたのと違ったけど、約束通りね」

 桜は言った。

 桜が言った。

 桜が言っていた。

 桜が手に浴衣を持って言った。

 クーラーが効いた客室で、風呂上がりから少ししたこともあり、楓の体は冷え始めていた。

 少し寒気を感じ、腕を撫でたところで楓はやっと現実を直視した。

 桜が持っているのは、楓が着ていた浴衣だった。

「どんな約束? ねえ、どんな約束?」

「あれ? 楓たん言ってたじゃん。浴衣をはだけさせるのは皆の前じゃない時がいいって言ってたじゃん」

「そんなこと言った? 言ってないと思うけど、きっと言ってたとしてもそう言う意味じゃないはず」

 桜に下着を盗まれた後で、そんなやりとりをした気がしたが、楓は混乱から詳しく思い出せなかった。

 何より冷える。浴衣を取られたことを自覚すると、楓はなおさら寒気を感じた。

 布団にもぐり込もうかと思ったが、それでは一時しのぎにしかならない。

 しかし、楓は気づいた。

 浴衣は何も着ていたものだけではない。

「桜、ぬかったね」

「ぬか漬け?」

「違う。まあいいや。案外抜けてるんだね」

 桜は首をかしげていた。

 どうやらわかっていないらしい。

 今の状況。楓の浴衣を桜が持っていようとも楓にとっては全く問題ないことを。

 桜にヒントを与え気づかれるより早く、楓はクローゼットに近づくとその扉を開けた。

 空。

 閉める。開ける。

 空。

「ない」

「ぬかってるって、残りの浴衣のことを言ってたの? 残念。ないよ。その中には」

 楓は下唇をかんだ。

 簡単なことなら桜も気づく、当たり前のこと。

 他の浴衣をどこへやったのかはわからないが、どこかへ隠したようだ。

 まるで自分しか気づいていないと思い込んでいたことで楓は頬を染めた。

「頬を赤らめた下着姿の女の子が部屋をウロウロしてる。ゾクゾクするねぇ」

「ゾクゾクするよ!」

 とりあえず作戦を立てるために、楓は暖を取ろうとしたが、やはり下着姿で布団に入り込むのはやましいことをしているようで気が引けた。

 仕方なく向日葵に体を寄せ合った。

「楓ちゃん。急に甘えてきてどうしたの? 何かする?」

 向日葵がのんきに言った。

「そうじゃなくて、向日葵の力で浴衣出して」

 当座しのぎではなく、万事解決のために楓は頼んだ。

 桜は楓の着ていた浴衣を持ち、さらには他の浴衣を隠した圧倒的優位な状況から、笑顔で楓を見ていた。

 見回りで消灯時間を知らせに、先生が来るより早くどうにかしないと、下着姿でうろつく変態として認知されてしまう。

「えーさすがに目の前でない物作ったらおかしいと思われるよ」

 向日葵は言った。

 楓とてそんなことはわかっていた。

 だが、できないとなるとどうしたら、いいのか。

「何をこそこそとしてるのかな? 向日葵たんに渡したわけじゃないよ」

 桜が悪い笑みを浮かべていた。

 人肌で温まると言っても、布越しではほどほどだった。

 浴衣がないなら仕方がないと、明日着る予定だった服を着ようと考えを改め、カバンを並べた場所へ移動。

 パッと見たところ見えなくなっていたため、皆のカバンに埋もれたのかと思い、ひっくり返すもない。近くを見るもない。

 カバンまでもがなくなっていた。

「それくらいお見通しだよ。楓たんの服はここにはないよ」

 ドライヤーをかけている間にやったのか、他のスキマ時間でもバレないようにやっていたのか、なんとも卑怯な作戦。

 桜からすればいい娯楽なのだろうが、このままだと本格的に変わった子だと思われてしまう。

 こんなことになるならば、枕投げの相手をしておけばよかったと思いながら、楓は再び策を練る。

 残るはもうこのまま寝るか、服を借りに行くか。

 しかし、服を借りに外へ出るのは論外だ。それこそ下着を見せたい変態になってしまう。

 楓のもの以外のカバンはあることから、翌日以降着る予定のものを借りると言う選択肢もあるが、これは説得次第だろう。

 そもそもサイズが合わない可能性がある。

 それを思うと体格差が一番少ない桜に頼むか。

 やむをえまい。このままでは無抵抗で先生に下着姿をさらすことになる。

「桜、その、服貸してくれない?」

「ほほう。その手に出るのね。楓たんがあたしの服を着る。いいよ。乗った」

 計画通り。

 もしかしたらここまでが桜の企みかもしれなかったが、もう知ったことではなかった。

 ガッツポーズをしていると、バサッと布が飛んできた。

 それはほんのりと暖かかった。

「ありがとう」

「ふふふ。礼には及ばないよ」

「そうだよ。元々は桜のせいだからね。まあいいや」

 これ以上怒る気力も湧かず、楓は投げられた服に袖を通した。

 渡されたのは何故か浴衣。

 それも、川遊びの時に貸してもらったものではなく、今泊まっている場所の貸し出している物と同じデザイン。

 しかし、着終わって桜を見ると、桜は浴衣を着ている。

 なんだ返してくれたのかと、楓はホッと胸を撫で下ろした。

「やっと眠れる」

「ふふふふふ」

 やけに嬉しそうにしている桜が気になったが、楓は今度こそ布団をかぶって同じ過ちを犯さないようにガードした。

 ぼんやりと天井を見て、こっそり近づいて来る可能性のある桜に注意を払っていた。

 電気が消えるまでは警戒を怠るな。

 楓は自らにそう言い聞かせていた。

 だが、頭上にやってきたのは予想とは違い向日葵だった。

「向日葵も寝るの?」

「楓ちゃん。桜ちゃんの着るなら私のを着てよ」

「え? いいよ。返してくれたんだし、面倒だし」

「じゃあ、一緒に寝て」

「どういうこと?」

 楓の問いには答えず、向日葵は布団にもぐり込んできた。

「じゃああたしもー」

 桜までもが入ってくる。

「何で?」

 楓が聞いた。

「いいじゃん。椿たんもこっち来なよ」

 桜は椿も誘った。

「私はいいわ。まだ眠くないし」

「そう言ってないで、ね」

 ため息をつきつつも、椿はまんざらでもなさそうにも布団の中に入ってきた。

「はい」

「あったかーい」

「これでいいでしょ? あんまりくっついてると布団の中が熱くなるわよ」

「ダメダメ。これがいいんじゃん」

「ちょっと、離して、こういう時に回ってくるのよ」

 椿の言う通り、ちょうど、こんこんとノックの音が響いた。

「……ほら、離して、出るから」

「はーい。どうぞー」

 勝手に桜が返事した。

「ちょっと」

 とがめる椿の言葉もむなしく、ドアが開けられ先生が入ってきた。

「全員居るわね。って何してるの?」

 先生がいぶかしげに見てきていた。

 それはそうだろう、四人が密集して布団に入っていたら怪しいと思うだろう。

 だが、女子に挟まれた状態を他人に見られ、楓の思考はショート寸前だった。

「暖をとってます」

 桜が答えた。

「そんなに冷えてないと思うけど、仲が悪いよりいい方がいいわね。おやすみなさい」

「はーい。おやすみなさーい」

 と言って先生は出て行った。

「仲良しだって」

 桜は嬉しそうに言った。

「こんなことしてたらそう思われるでしょ」

 椿は呆れていた。

「いいじゃん。先生もいいって言ってたよ」

「それは喧嘩して寝そうもないより都合がいいからでしょ」

「現実的だなあ。ねえ楓たんはどう思う」

「あ、あー、うん。そうだね」

「あたしに包まれて寝てね。あたしの着てた浴衣に」

「え?」

 楓の中で全てが繋がった思いだった。

 向日葵の言葉も、すんなり桜が浴衣を渡したことも、桜が浴衣を着ていたことも。

「服はベランダの方に移動させただけだから安心してね」

 スキを見て抜け出した椿が電気を消したことで、今さら着替えることもできなくなった。

 そもそも、甘えるように抱きつく向日葵をこれ以上むげに扱えなかった。

 結局、楓は目をつむったものの、そわそわして寝たり起きたりを繰り返し、ずっと意識があるような状態だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ