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転生したので今度こそモテたい  作者: マグローK


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第40話 夏休みの宿題

 桜と一対一で家に居ることは、今の楓にとって初めての経験だった。

 なんだかいつもと違う状況に、落ち着かない気持ちながら、楓は時折桜の様子を気にしつつも宿題を進めた。

 だが、桜は宿題を出してはいるものの、進める様子はなく、スマホをいじっては転がり、お菓子を食べてはスマホをいじり、を繰り返していた。

「桜、宿題進めないの?」

 楓は痺れを切らし、桜に聞いた。

「んー宿題と言えばさ、楓たん聞いてよ。椿たんったらひどいんだよ。わからないって言ってるのに自分でやれって言って教えてくれないんだよ」

 一度迷ったように考えた桜だったが、すぐに抗議するように頬を膨らませて言った。

 桜にとっては怒り心頭らしい。

 しかし、楓には椿が桜に対して意地悪するようには思えず、少しアゴに手を当て、考えてから口を開いた。

「それは、桜のためを思って言ってるんじゃない?」

「違うよ。教えてって言ってるのに自分でやれだよ? やり方くらい教えてくれてもいいじゃん」

「確かにそうだね」

 状況を考えると珍しく桜が正しそうだった。

 それでも、いつもの椿なら教えてくれるだろうと考え、楓はさらに聞いてみることにした。

「ちなみにどこがわからないの?」

「全部」

「だからじゃないかな?」

「え?」

 自覚がなさそうに、桜は首をかしげた。

 楓とどっこいどっこいな桜の成績から考えれば、そもそも全てわからないようなことはないはずだと楓は感じた。

 いくらかつまづくところはあっても、進められる内容のはずだった。

 しかし、現にやる気は皆無で、宿題を目の前にして全く進めようとしていない。

 何が悪いのかわからず、楓は結局自分の宿題に戻った。

「ひどい! 教えてくれないの? 楓たんも椿たんとおんなじなんだね」

「いや、全部って言うから」

「悪いのはあたしって言うんだね」

「そんなつもりじゃ……」

 腕を目元に当て、涙声を出す桜に楓は眉尻を下げた。

 あわあわしながら、どうすればいいかわからなくなり、一人視線を泳がせた。

 とりあえず何か話さないとと楓は言葉を探した。

「ほら、少しずつでもいいからやろ? 終わらないと桜が困るんだよ?」

「手伝ってくれる?」

 桜の甘えた声に楓は頷いた。

「手伝うから、桜ならやればできると思うから」

 楓の言葉に、桜は耳をピクピク動かすと、満面の笑みとともに顔を上げた。

 泣いてなかったことにホッとしながら、桜は何故か宿題に向かわずお菓子を手に取って立ち上がった。

 そして、おもむろに棒菓子をくわえた。

「じゃあ、やる気出すために楓たんがこっちくわえて」

「なんで?」

「手伝ってくれるんでしょ? ほら、早く。やる気出すため」

 納得のいかない楓だったが、手伝うと言ったこともあり、向日葵がいないことをいいことに承諾した。

 放置していてもちょっかいは収まらなかっただろう。

 基本ぼっちだった楓とて、今の状況が何をさしているかくらいは知っていた。

 いわゆる棒状のチョコレート菓子の両端を、二人の人物がくわえて、少しずつ食べていくというものだ。

 ちょうど机に出していたお菓子の中にあったため、桜はチョコの方をくわえて待機していた。

「でも、そのお菓子ってチョコを食べて、最後にクッキーのところを食べるからいいんじゃないの? こっちのきのこみたいに」

「えーこのゲームってそういう趣旨じゃないから、それにきのこもたけのこもあたしは一口で食べるから」

「え? カサのところだけ取って食べないの?」

「食べないよ。ほら、かかってきなさい」

 そんなバトルじゃないんだからと思ったが、楓は桜のきのこの食べ方にショックを受け、肩を落とした。

 あれって一口で食べるものだったのかと思いつつ、桜が突き出した持ち手部分をくわえる。

 楓と桜の顔はお菓子の長さ分の距離しか離れていなかった。

 寄り目になりそうな距離に、楓は鳥肌が立った。

 これは、やるんじゃなくてバラエティとかで見るやつだと感じた。

 アゴを引いて折ればいいんじゃないかと考えたが、そんなことをしても次を繰り出されるだけだ。

 いつの間にか桜は黙々と食べ始めているのを見て、楓もちまちま食べ進め、観念して桜の顔に注意を向けた。

 かわいい顔だと思うと、急に目をそらしたくなり、楓はうつむいた。

「あー折ったーそういうゲームじゃないんだって。こう、あ、あと少しでキスしちゃうっていうドキドキを楽しむんでしょ」

「痛い痛い。折れたところで突かないで。それに、キスならいつもしてきてるじゃん」

「違うでしょ。ゲーム特有の雰囲気からくるドキドキがいいんでしょ」

「いつもキスされる時はドキドキだよ」

「じゃあもっとドキドキすればいいでしょ」

 よくわからない理屈をこねられ楓は苦笑いを浮かべた。

「一戦目は楓たんの負けね」

 勝敗があったのかと面食らった楓だった。

 しかし、桜は構わず、二本目をくわえた。

 今度の楓も渋々、食らいついた。

 二戦目。

 桜から目を離さず見つめる。

 またクッキーの方からかと思ったが、間で終わるのだからさっぱりとした後味はどちらも味わえない。

 チョコのねっとりとした感触が口に残る。

 ちびちび食べ進め、緊張からか、引き伸ばされたように感じる時間に、楓は早く終わってくれと祈った。

 その祈りが届いたのか、桜との距離が一気に縮まった。正確には桜が勢いよく食べ進めた。すると、二人の口が急接近した。

「んーんー」

 突然の出来事に目を白黒させ、楓はもがいた。

 勢いのまま桜に押し倒され、馬乗りにされていた。

「んーんー! もうない、もうないから。んー!」

 桜は一度離れたかと思うと、再度楓にキスを迫った。

 何度も口づけを繰り返してくる桜を、楓はどうにか引きはがし、起き上がった。

「そんな、鳥の親子じゃないんだから、そういうゲームじゃないでしょ」

「いやぁ盛り上がったねぇ」

「もういいよ」

 今回も楓は敗北の気分だった。

「ついでにきのこでもやる?」

「やらないよ。最初からクライマックスじゃん」

「どゆこと?」

「一つのおしゃぶりを取り合う双子の赤ちゃんみたいじゃん」

「えーと」

「もういいよ。一口で食べるんでしょ」

「そだね」

 よくわからない提案を振り払い、楓は机に戻ると宿題を前にした。

「やる気出たでしょ。やるよ」

「ところで、なんで楓たんはおめかししてるの?」

「え!?」

 変なところに目をつけられたと思い、楓は言葉に詰まった。

 話すかどうか二の足を踏んだが、飽き性の桜のことだと思い、簡単に言うことにした。

「妹が色々とやってくれたの」

「それで、外行きの服と、いつもと違う髪型なのね」

「うん」

「どうして?」

「いや、色々あって」

「色々って?」

 これはまた、誤魔化せないなと思い、キスして無理矢理口を割ろうとする桜を前に、楓は諦めた。

「姉妹逆転ごっこをしてて」

「え? 何それ面白そう。楓たんが妹やってくれるの? やるやる、というかうちくる? 体とか洗ってあげるよ」

「体目的じゃん」

「違うよ。世話焼き目的だよ」

「なら最初に出てくる言葉がおかしいでしょ」

「ねぇ、試しにやってみせてよ。これでやる気出るから、宿題やるから」

「絶対だよ」

 と念を押し、再びキスの魔の手を避けるため、渋々ながら楓は役割を呼び戻した。

 これも向日葵のためと自分に言い聞かせて。

「桜お姉ちゃん。楓に宿題教えて」

「いいよ!」

 そこからは早いもので、わからないと言っていた桜の本人が、楓に宿題を教え始めた。

 その教え方も的確かつ、うまいもので、向日葵に匹敵するレベルだと楓は感じた。

 どうしてできないと言って聞かないのかわからないスピードで宿題は片付いたのだった。

「ありがとう。とまあ、こんな感じ」

「いいね。これからもやろ?」

 楓としてはうまくいって嬉しいような、そうでないような複雑な気持ちだった。

 だが、どうやらかなり効果的らしいとわかった。

 今まで向日葵に使っていなかったことが不思議なほどに。

「それはちょっと……」

「まあ、気が向いたらでいいよ。あたしが引き出せばいいんだし」

「やらないからね?」

「とか言ってー結構気に入ってるんでしょ?」

「そんなことないから。あはは。やめてやめて」

 桜は楓を急にくすぐり出した。

 突然のことに、楓は笑いが止まらなくなり、体には力が入らなくなった。

「ほれほれ、脇が甘いぞ」

「ひっ、こういうのはっ、脇が甘いって言わないんじゃ、ふふ、は」

「楓たんってくすぐりに弱いよね」

「ひゃめ、ひゃめへ。死んじゃう」

「お姉ちゃんって言ったらいいよ」

「お、お姉ちゃん」

「ふぅ、今日はこの辺で許してやろう」

 やっと桜の手が止まると、楓は肩で呼吸して、息を整えた。

 笑い殺されるところだったため、目が開ききっていたが、顔には未だ笑いが残っていた。

「もうやる気出たでしょ。さっさとやっちゃお」

「でも、楓たんに教えたんだし、これ写してもいいよね」

 と言いながら桜はすでに答えを写し始めていた。

「う、うん」

 さすがに、教えてもらったものを写すことに抵抗はなかった。

 スラスラと解けてある部分を見て写すと桜は大きく伸びをした。

「やったー今日のノルマ終わり! じゃ、お昼もそろそろだし帰るね」

「今日はもうやらないの?」

「ノルマ終わったからね。残りの一日は美少女探しの旅へ出ようかと、楓たんもどう?」

「遠慮しとく」

「一緒に行きたくなったら言ってね。じゃ……」

「ちょっと待って、最後に一つだけ、桜が思うかわいいものって?」

「うーん。女の子! あとは猫かな。それじゃーね」

「バイバイ」

 桜が部屋から出て行ったことで楓は床に倒れ込んだ。

 嵐がさった気分だった。

 いつもなら玄関までは見送るのだが、そこまでの体力はすでに残っていなかった。

 少し休んだら体力も戻るだろうと思ったが、今は動けなかった。

 昼食の呼び出しがあったらリビングへ行こうと思い、それまでは何もしないでいようと決めた。

 しかし、物事は楓の思惑通りにはいかず、キィとドアが開けられたことで、楓は顔だけ上げた。

「どうしたの? 宿題やってたんじゃないの?」

 紅葉は床にうつ伏せになって倒れている楓に飛びついた。

「やってたよ。でも、疲れた」

「まあ、勉強したら疲れるか。お友達は帰ったんでしょ?」

「うん」

 紅葉は楓の言葉にホッと息を吐くと、不気味な笑みを浮かべた。

 楓はその様子にゾッとして、何かを探すように目を泳がせた。

 ふと思い出したようにのけぞり、紅葉が話し出す前に口を開いた。

「ご、午後は別の友達が来るんだ」

「そうなの? なんで一緒に勉強しなかったの?」

 追及するような口調に、楓は縮み上がりながら、目を伏せた。

「ほら、色々あるんだよ。色々」

「ふーん。お姉ちゃんってそういう人だったんだ」

 紅葉は少し軽蔑の色の混ざった目を楓に向けて立ち上がった。

「え?」

 そのまま背を向け、早足で廊下へと向かった。

「ま、待って、ちが……」

「みんなそう言うんだよ」

 バタンと勢いよくドアは閉められた。

 何やらあらぬ誤解を与えてしまったような気がしたが、楓は昼食の時には顔を合わせるだろうと思い、気を取り直した。

 重い体を必死に起こし、スマホを手に取ると、椿へのメッセージ画面を開いた。

 午後から宿題を一緒にやらない? と送り、楓は再び床に突っ伏した。

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