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転生したので今度こそモテたい  作者: マグローK


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第36話 不通

 朝目を覚ますと、楓の目の前に妹が居て、昨日の自分がしでかしたことを思い出すと叫びたい気持ちでいっぱいになった。

 だが、妹を起こすまいと、ただじっとしていた。

 今日こそは向日葵にも妹を紹介しようという楓の決意は固かった。

 ショッピングモールで、向日葵らしき姿を見たが、見知らぬ影とともにいたため、胸の内に湧く後ろ暗い感情を抱えて相対する自信がなく、妹だけを見て過ごしていた。

 しかし、今は違う。

 この子はきっと向日葵とも仲良くできる。いい子だから。

 それに、日を改めればきっと向き合える。妹の前だから。

 楓はそんな気持ちを胸に秘め、妹を見つめていた。

 しばらくして紅葉が目を覚ますと、ともにモーニングルーティーンを済ませ、一段落つくと楓は早速向日葵へ連絡した。

 いくらか迷ったが、シンプルに紹介したい人がいるということを伝えた。

 クーラーの効いた部屋で体を揺らし、外を眺めて待ってみたが、一向に返事が来ない。

 普段の向日葵ならば、間髪入れずに返信をしてくるが、今日に限って音沙汰がない。

 続けていくつかメッセージを送ってみても、やはり返事は来ない。

 これが夏休みかと思いながらさらに待ってみたが、結局なんの反応もなかったため、楓は諦めて宿題でもやろうと机に向かった。

 そこまではよかったが、そんな楓が集中できるはずもなく、意識はスマホへ持っていかれていた。

 進めては気がそれ、進めては気がそれ、結局まともに集中して取り組まなかった。

 そのため、ピンポンとチャイムが鳴ると、向日葵が来たものと決めつけ一目散に部屋を飛び出し、楓は玄関へ向かった。

 はやる気持ちを抑えながら階段を降り、最高速でドアを開けた。

「こんにちは」

「こ、こんにちは?」

 まだ早い時間からこんにちはと挨拶されたことよりも、家にやって来た人物に楓は目を白黒させた。

 やってきた人物は知り合いではあった。だが、親しくはなかった。

 ただ一度話しただけの、名前も知らない女性だった。

 日差しが当たると銀髪はきらめき、この世のものとは思えない様相だったが、楓はできる限り早く現実へ戻ろうとした。

 しかし、思考は宙ぶらりんの状態だった。

 目の前の女性をよく知らず、また、昨日向日葵と一緒に居たというだけだが、胸の内の穏やかならざるざわめきをひた隠すためにエネルギーが使われていた。

「今日はどういったご用件で?」

「少しお話ししましょうか」

「ええ」

 引きつらないよう気をつけながら、楓は笑みを浮かべ、女性について行った。


 場所を変え、お茶を飲みながらの会話。

 相手はキレイな女性。

 本来、楓にとって理想的なシチュエーションなはずだが、今はそうではなかった。

 ついつい睨むような視線を送りながら、女性が話し出すのを待っていた。

「向日葵ちゃんが悲しんでいるの」

「え!?」

 唐突な発言に楓は自分の耳を疑った。

 視線を宙にさまよわせながら、女性の発言を反すうしたが、理解できなかった。

 向日葵という言葉が出てくることは、昨日の様子から考えればおかしくなかったが、悲しいという言葉が出てくる意味がわからなかった。

「それってどういうことですか?」

 楓は前傾姿勢になりながら女性に聞いていた。

 まあまあと手を出しなだめる女性に、楓は渋々ながら身を引いた。

 楓がイスに背をもたれかけたところで女性は再び話し出した。

「私も詳しくはわからないわ。ただ、とても悲しそうなの。あなたの話をする時にそんな様子だから多分あなたが原因ではないかと思うの。失礼かもしれないけれど、先ほどからの対応から、女子力が足りないのが見て取れるわ。そのせいじゃないかしら」

 血の気が引いていく思いだった。

 向日葵が楓に女子力を高くしてほしいと思っていたことがショックなのではない。目の前の女性が楓を女子力が足りないと言ったことがショックだった。

 保たれていた平穏が破られるのではないかという疑念から、自らを守る術を探した。

 だが、最近は自動操縦ではなく、自らの意思で動くことも増えてきたことが、あだとなったのだと感じるだけだった。

「でも、それが原因とは言えないんじゃないですか?」

 必死に抗弁を試みたが、弱いものだと自覚があった。

「そうね。そうかもしれない。でも、悲しんでるのは事実よ。向日葵ちゃんから連絡が返ってこないのでしょう?」

 隠そうとするより早く、楓の顔には驚きが表れていた。

 つい先ほどの出来事にも関わらず、目の前の女性は見透かしていると感じると、やはり中身が男だとバレているのではないかという思いが強まった。

「あなたが誰かは知りませんが、どうしてそんなことを?」

 質問に答えることなく楓は負けていないことを示すために聞き返した。

 女性がハッとしたのを見てとると、楓は心の中でガッツポーズをすることを止められなかった。

「ふふふ。私の方も失礼だったかもしれないわね。私は夏目茜。向日葵ちゃんの一つ上の姉です。名乗ってなくてすみません」

 だが、今度は楓がハッとさせられる版だった。

 ただ、見知らぬ女性と向日葵が一緒に居たというだけで疑っていた自分に顔が熱くなるのを感じた。

 妹は向日葵のことだったのだ。よく考えればわかったことだけに、楓はうつむいた。

「僕は秋元楓です。あの、失礼しました」

 会釈と思われるように、すかさず顔を上げて名乗った。

「知っているわ。話は向日葵ちゃんから聞いているもの。ほとんど知らない先輩から色々とズケズケ言われたら気分が良くないわよね」

 気を遣わせてしまいいたたまれなくなったが、楓ははにかんで先を促した。

「私としても二人の仲を応援したいの。問題があるようなら力を貸したい。そんなつもりの話だったのだけど、どうかしら聞き入れてもらえる?」

 今までは素性の知れぬ女性からのよくわからない指摘だったが、今となっては彼女の姉からの指摘。

 話の中身の重さが変わり、楓としても文句はなかった。

 そのため、コクリと頷いた。

 しかし、女子力と言われても、具体的にどうすればいいかはわからなかった。

 これまで特別男らしくしてきたつもりもなかったからだ。生活の中で身につけるものだとすると可能かどうか怪しかった。

 なんと聞けばいいかと口を動かしながら考えていると、茜は優しく笑った。

「大丈夫よ。それほど難しいことではないわ。言い出したのは私だから力も貸すし、心配もいらないわ」

「ありがとうございます」

 素直に頭を下げると安心から笑顔がこぼれていた。

 自動操縦で誤魔化していれば、起こらなかった問題かも知れないが、楓は後悔していなかった。

 精神面の課題でもあるなら、遅かれ早かれ浮き彫りになっていたはずだからだ。

 それを早い段階で発見し、協力者まで得ることができたことは、楓にとっては僥倖だった。

 充分気をつけていたつもりでも、他人から見ればおぼつかなかったということだ。

 向日葵から人を頼るということを学んだこともあり、楓に引け目はなかった。

「それじゃあ早速。すいませーん」

 茜は手を上げ、店員さんを呼ぶと何やら注文をしたようだった。

 メニューを見せて会話をしているが、立てて見せているため手元が見えず、楓からは何を頼んだのかがわからなかった。

 聞こうとするも、くちびるに人差し指を押しつけられ、声を出すことが叶わなかった。

「来てからのお楽しみ」

 楽しそうに笑う様子に、悪戯の気配を感じた。


 届いたのはパフェ。

 そこそこ大きなパフェ。

 大きさだけで楓は圧倒されていた。

「あの女子力ってスイーツ付きってことですか? それなら僕も好きですけど」

「まずは序の口ってことよ」

 そうして、茜は子供のようにパフェを食べては、美味しいと唸りだした。

 これは、向日葵を口実に、ただ友達が欲しかっただけかと疑ったが、出されたものを食べないのも失礼だろう。

 前世では恥ずかしさから、あまりパフェを食べたことはなかったが、食べれば決まって美味しかったことは覚えていた。

 だが、目線の高さまであるパフェを前に、楓は怖気づいていた。

 食べたいという好奇心と、食べ切れるのかという不安感に挟まれたが、今の楓に食べないという選択肢はない。

 楓は細く長いスプーンを手に取ると、てっぺんのアイスをすくい、口に運んだ。

 甘、うま、冷たい。

 夏に食べるアイスはやはり美味しいということを考えながら、自然と頬がほころんでいた。

 しかし、ここで油断しないのが楓だった。

 何を食べるにしても一口目は美味しいもの。あとは惰性で、食べ切る頃には、もっと少なくてよかったと後悔していることも少なくない。

 お腹の調子と残量を見て、楓はギリギリいけるだろうという検討をつけて食べ始めた。

 途中、苦しむことがあっても食べ切れるだろうとふんでいた楓だったが、予想は外れた。

 結局、味や食感の変化を楽しみながら、一度もペースを落とさずに食べ切ったのだった。

 向かいでは同じペースで食べたのか、二つの空になったパフェの器を前に、満足そうに笑う茜の姿があった。

 向日葵の大食いは姉の影響かと思うやいなや、

「さ、行きましょう」

 と楓は茜に手を引かれた。

「あ、あの。そういえばお金持ってきてなかったんですけど」

「大丈夫よ。今日は私が払うから。遠慮しないで」

 どこかで聞いたことがあるようなセリフを聞いて、やはり姉妹なのだなと感じながら、楓は会計を待つことになった。

 何やら気になることを言われた気がして、茜の言葉を思い出そうとしたが、それより早く再び手を引かれた。

「あ、あの?」

「まだまだ今日は終わらないわよ」

 やはり、友達が欲しかっただけなのではと思いながら、楓は茜のペースで歩き出した。

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