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転生したので今度こそモテたい  作者: マグローK


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第24話 遊園地デート

「うわぁ」

「それはどういう感情?」

「楽しみと不安と恥ずかしさかな」

「あはは。なら、楽しみだけでいいよ」

 楓の目に映る向日葵には、確かに楽しみしかなさそうだった。

 なんでも言うことを聞く約束を果たす日。

 もし、楓が勝者だったならこうはいかなかっただろう。楓なら向日葵に何かをさせて楽しむという選択をしたはずだ。結果的に向日葵の提案に流されて一緒にやる羽目になろうとも、自分から一緒に何かをする計画は立てなかったはずだ。

 しかし、実際の勝者は向日葵。

 向日葵の提案により、楓は向日葵と同じ服装で遊園地に来ていた。

 なんとかなるというのは予想までで、移動中になってようやく今の状況がやることは簡単だが精神的に難しい方だと自覚したのだった。

 さすがに、遊園地まで来ると同じように二人組で同じ格好をしている人の姿が目に入り、特異な存在ではないと思えたがそれまで楓の心に平穏はなかった。

 双子なら気にしないだろうが、赤の他人が同じ格好をしているのは確かに異様で、双子コーデとはよく言ったものだと思っていた。

 そして、場所は遊園地。

 楓には遊園地にいい思い出はなかった。

 幼少期に着ぐるみの急接近と父親に背中を押されたことで無理矢理近づけられ、パニックに陥った記憶がトラウマとなっていた。

 それからというもの、楓は人間大の着ぐるみはもちろんのこと、置物やバルーン、剥製に果てはねぶたまで、似ていると感じたものには警戒心を抱くようになっていた。

 そのため、幼少期の楓は近場のスーパーに内接されたスポーツ用品店の前に置かれた熊の置物が天敵で、通るたびに泣いていた。

 最近になってようやくマシになってきたが、それでも完治はしていなかったため、家族で来てトラウマになってからの楓はこれまで遠足以外で遊園地に訪れたことはなかった。

 訪れた時もジェットコースターでさえ酔う体質のせいで、乗り物系のアトラクションはまともに楽しめた記憶がなかった。特にゆっくり動くメリーゴーランドでは乗った後、長時間椅子でぼーっとしていたものだ。

 他の人がいい思い出風に遊園地について語るのを、信じられない奇妙な話のように聞いていた楓にとって、今の状況はフィクションか何かに近かった。

「ささ、突っ立ってても何も起きないよ。早速入ろう」

 そんな楓と同じトラウマなど持っていようはずもない向日葵は、楓の手を引いて楓を遊園地の中へと連れ込んだ。

 中に入るとそこはやはり遊園地だった。

 周りの人たちは楽しそうに笑顔を浮かべ、子供たちは無邪気に走り回っていた。

 とうとう入ってしまったという思いから、楓は右足と右手が同時に出る歩き方になっていた。

「もしかしてナンパが心配なの?」

「いや、そうじゃ……」

 楓は咄嗟に否定しようとしたが、向日葵はチッチッチと舌を鳴らして指を振った。

「大丈夫だよ。この間みたいに私が守ってあげるから」

「でも、向日葵も女の子だし無理しちゃダメだよ」

「心配してくれてるの?」

 楓は頷く。

「私は向日葵の彼女でもあるし、心配もするよ」

 当たり前だろう。

 技術は向日葵の方が上でも、少しではあるが楓の方が背が高い。前回は助けられ、無理をとがめることを忘れていたが、男と二対一になって心配しなかったわけがなかった。

「そっか。そうだね。ありがとう。まあ、私が守らなくても、何かあれば周りの人に助けてもらえばいいんじゃない?」

 向日葵の言葉を受け、気にしすぎだったのだと思うと、それから楓は二人でアトラクションを楽しんだ。

 時は流れるように進んだ。

 隣に向日葵がいるからか、それとも肉体が変わったからか、メリーゴーランドもジェットコースターも叫び声はあげながらも楽しむことができた。

 乗り物系のアトラクションは今までが嘘で警戒していたことを嘲笑うかのように何も起きず、笑顔が絶えなかった。

 ただし、それは乗り物系のアトラクションの話で他の三つを除いてのことだった。

 まず、一つ目は、

「あ、にわにわさんだよ」

「にわにわさん?」

「知らないの? この遊園地の有名なマスコットキャラクターだよ」

 楓は全く知らなかったが、どこだろうと探した。

 そして、向日葵の指さす先には鶏の見た目をした二頭身の着ぐるみが居た。

 子供が母の後ろに隠れるように、楓は反射的に向日葵の後ろにしゃがみこんだ。

「え、ねえ、楓ちゃん何してるの?」

「えーと、これは……」

「私の足がそんなに急に恋しくなったの? ならいくらでも愛でていいよ。あ、もしかして、パンチラが見たくなったとか?」

「いや、そうじゃなくて、そのにわにわさんが怖くて」

 楓は向日葵の足にしがみついていたが、向日葵の言葉を否定した。

 そんな楓の言葉に、向日葵は何度もまばたきをし、首をかしげた。

「いや、にわにわさんは肉食獣じゃないんだから人を取って食ったりしないよ?」

「それは知ってるけど!」

 楓もさすがに着ぐるみに何かされるわけではないことは知っていた。

 知っていても怖いことに変わりはなかった。乗り物は大丈夫でも着ぐるみは今もダメだった。なんなら悪化していた。

「ほら、こっち来たよ」

「こっち来たの!?」

 ヨタヨタと左右に揺れながらもにわにわさんは楓たちの方へとゆっくり移動してきた。

 そして、手に持っていた風船を向日葵にわけた。

「あ、風船ありがとう。ほら、楓ちゃんにもくれるみたいだよ」

「あ、ありがとう」

「ほら、楽しんでって言ってるみたいだよ。手を振って見送ってあげよう」

 にわにわさんは喋らないがそれでも何かしら伝えようと大きな動きで表現していた。

 向日葵には楽しんでと言っているように見えたらしい。

「は、はは」

 だが、楓はにわにわさんの動きの意味をくみ取る余裕もなく、死んでしまった表情筋で硬い笑顔を浮かべながら、一応手は挙げたが振ることはままならなかった。

 そのためにわにわさんはハイタッチをすると手を振ってどこかへ去って行った。

「よかったね。ハイタッチしてもらえて。もう離れたし大丈夫でしょ。次行こっか」

 向日葵は楓に視線を合わせると、向日葵はニコニコ笑顔を浮かべていた。

「腰が抜けて立てない」

「そんなに!?」

 楓は向日葵にゆっくりと立たせてもらうと、やっとのことで歩き出した。

 楓の隣では向日葵が何か思いついたようにニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべていた。

 次に、二つ目は、

「キャー」

「あはは、大丈夫だって。作り物でしょ」

「そうだけど、わかってるけど」

 お化け屋敷。

 コアラの子供のように向日葵の腕にしがみついて、辺りを警戒したがお化けが出てくるたびに叫び声をあげていた。

 にわにわさんの時もそうだが、楓は肉体が変わってもビビリなままだった。

 結局、ほとんど向日葵に先に歩いてもらい、光が見えると真っ先に外へ出た。

「ふう、終わった。怖かった。心臓止まるかと思った」

「ばあっ」

「あああああ!」

 突然、後ろに現れたにわにわさんに驚き、楓は飛び上がると、全力で近くのベンチの後ろまで逃げ隠れた。

 楓は背もたれの部分から少し首を出すと、追ってきていないか警戒していた。

 お化け屋敷のできり口付近でで楓を驚かせてきたのは、本物のにわにわさんではなくお面のにわにわさんだった。お面を横にズラすと見慣れた桃髪が楓の視界に入った。

 そのまま桃髪は楓の方へと駆けだした。

「本当にダメなんだね。怖いのもにわにわさんも。まあ、目が笑ってないもんね」

「わかっててやったでしょ!」

 楓を驚かせたのは向日葵だった。どこで手に入れたのか、にわにわさんのお面を側頭部につけていた。

「でも、ひどいじゃん。彼女を置いて逃げるなんて」

「いや、驚いて、つい……」

「冗談じゃん。そんなに怖かった?」

「怖かったよ!」

「あはは。だから作り物だって。いざ本物が出てきても守ってあげるから」

 向日葵はシュッシュと空中にパンチを繰り出し始めた。

「いや、守るどころか驚かせてきたじゃん!」

「それは、あの、ほら。遊び心?」

 痛いところをつかれたように向日葵は頭をかくと、楓から視線をそらした。

 驚かされた怒りと、相手が向日葵だった安心から楓はどうしていいかわからなくなり、抗議の意味で向日葵の胸をポカポカ叩いておいた。

 それから、楓が落ち着くまで少し時間を要した。

 そして、三つ目が、

「やっぱりダメだったぁ。ねぇ離れないでねぇ」

「楓ちゃんって弱点多いよね」

「そんなことないよぉ。ただ怖がりで高いところがダメなだけだよぉ」

 観覧車だった。

 お化け屋敷の時と同じように向日葵に抱きつくと、せっかくの景色も楽しむどころではなく、目をつむってやり過ごそうとしていた。

 男の時でも似たような状態だったため、これを男でやってたらとんだ滑稽さだったのだろうかと楓は想像した。

 だが、怖いものは怖い。言葉を切って話すこともできないほど余裕がなくなり、甘えた声しか出せなくなっていた。

 時々、

「あ、見てみて」

 と向日葵に言われ、向日葵の指さす先をチラッとだけ見ては、

「そうだねぇ。すごいねぇ」

 と力なく答えてまた目をつむるのだった。

 楓は幼少期から高いところがダメだった。

 これに関しては最初に高い場所に訪れた時から怖かったため、潜在的に怖かったのだろうと考えていた。

 実際、高い場所へ行くと足がすくみ、震え上がり、まともに歩けなくなった。

 観覧車の中は安全が確認されているから安心とわかっていても、震えが止まらず、向日葵から離れられなくなっていた。

 楓の中でべったりくっつく暑さよりも怖さが勝っていた。

「ねえ、今度はほら、あの展望台とかに行ってみない? 実はまだ行ったところないんだよね」

「ヤダァ! なんでそんなところ行くのぉ?」

「えーほら、また楓ちゃんが珍しく抱きついてくれるかなって」

「楽しんでるでしょぉ!」

 涙目になりながら、平気な様子の向日葵の顔を見上げる楓。

 怒ったつもりだったが、向日葵には伝わらなかったようで、笑顔を崩すことはなかった。

「楽しんでるよ。だって楓ちゃんと一緒で楽しいもん。楓ちゃんは楽しくない?」

「楽しいよぉ。楽しいけど怖いよぉ」

「でしょ? それに、普段は凛としてるけど、こうして意外なかわいい一面もみられるんだもん、また出かけたくなっちゃうよ」

「ううぅ。そうねぇ。またどこか行こうねぇ」

「約束だよ」

「うん」

 これは、いやいや連れて行かれる前に自分で克服して、

「へへーんもう高いところ大丈夫だもんね」

 と見せつけてやるべきだろうかと楓は画策した。

 水は出たり入ったりできるが、遊園地やお化け屋敷、観覧車は基本終わるまでは出られない。

 足だけや手だけ入れるといった、少しずつ慣らすこともできない。レベルを下げてまずは少し高いところからどうにかやっていこうと考えた。

 隣に向日葵が居てもどうにもならないこともあるのだというのが今日の楓の発見だった。

 結局ナンパに遭遇することなく二人は遊園地を満喫することができた。

 帰りの電車では疲労から楓はうつらうつらしていた。このまま向日葵に任せて寝てしまおうかと思ったが、その時肩に重みがのっかってきた。

「遠慮はいらないんじゃなかったの?」

 楓は小声でつぶやくと、

「しょうがないなぁ」

 と笑いながら眠い目をこすって目を覚ました。

 横でスヤスヤと眠る向日葵を見ながら、確かに寝顔ってかわいいなと思った楓だった。

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