第20話 真剣勝負
「ゲームしようぜ」
なんの脈絡もなく、向日葵は言った。
「いいけど、どしたの?」
「最近ゲームにハマっちゃってね。また何か新しいのやりたいのさ」
「なるほど」
楓が音ゲーを紹介して以降、向日葵は他のジャンルもゲームにも手を出していた。
今のところどれもスマホゲーだったが、楓としては向日葵が楽しんでいるようで何よりだった。
そう、楓は向日葵が楽しんでいるのを見ていることが多くなっていた。どのゲームでもあまりにも差がつけられ、最低限やるだけになっていた。
ゲームでも遠慮しなくていいとは言われていたが、自分のレベルに合わせてもらうのも気が引け結局新しいのに移るということをしていた。
ゲームは運だけではないが、生まれ持った運の差をひしひしと感じていた。
それに加え、これまでの遊んできたデータであれば、ある程度の期間はなんとかなるだろうと思いつき、ログインしようとしてもどれも使えなかった。楓には理由がわからなかったが、進んでいたデータで遊ぶことができなかった。結局、初めからやることが面倒臭い気持ちを抑えながらいくつかのゲームをプレイしたのだった。
一応は別人なため、使えたとしても不正アクセスということになりかねないと思い、楓は使えないことは仕方ないだろうと受け入れていた。
しかし、今回の楓は今までの楓とは違った。
「ねぇ、何かない?」
向日葵も気づいたから話しかけてきていたようで、犬だったなら尻尾を振っていそうな勢いで楓に聞いてきていた。
「あるよ」
今の楓の家には見慣れない物が置いてあった。
それは楓の叔母の秋葉菊が訪れていた時のこと。
母と二人でいがみ合っていたため、自室に逃げようとした時のことだった。
叔母も話題を変えたいと思っていたらしく、珍しく楓に話しかけてきた。
「楓ちゃん。何か欲しい物とかない?」
「あ、またそうやって甘やかす」
「いいじゃない。どうせ蘭だって甘やかしてるんでしょ」
「私はしっかりしつけてます。ね、楓」
楓はどうでしょうと思いながら、この間少し高めのプリンをくれた母に苦笑いを浮かべた。
「なんでもいいのよ」
普段はお気持ちだけでと断っていたが、せっかくだしと思い、楓は向日葵が来た時にゲームができなかった話を交え、買ってくれるよう頼んだのだった。
高いからと反対されるかと思ったが、叔母もゲーム好きで仲間がほしかったらしく、あれよあれよと道具を一式揃えてもらったのだった。
「いい歳してゲームなんて」
「あんたの方がいい歳して若作りして」
「これは違うんです。生まれ持ったものなんです。私がお酒を買おうとするたび、年齢確認される気持ちわかる? しかも、年上だったのかと驚かれた時のいたたまれなさったらないわ」
「ええ、わからないわ」
「でしょうね。姉妹なのに全く正反対の見た目しているあなたにはわからないでしょうね」
母の言う通り、叔母と母は実の姉妹かどうか疑うほど体型が違っていた。
母は子供のように見え、叔母は正反対で大人の女性らしかった。
「私だって大変なんだからね」
そして、今度こそ大人の女性たち怖いと思い、楓はリビングを逃げ出したのだった。
叔母が帰るときには母が今日はありがとうと話していて、仲がいいのか悪いのか楓にはわからないかった。
だが、そんなことがあったおかげで、今では楓の部屋には据え置き型ゲーム機と遊ぶためのモニターが備え付けられた。
ファンシーという言葉が似合いそうだった部屋に、突如異物のように置かれた機械類は似つかわしくなかったが、一部屋しかないためこれでいいかとテキトーに設置したのだった。
「なるほど。これで遊べるのね」
「そういうこと」
楓は早速新しく手にしたゲームを始めた。
ゲームを進行しやすいようにと二台目と別バージョンまで買ってもらったため、向日葵も持っていなくても遊べるのだ。
「すごいね。二つもあるんだね」
「まあね」
「うちもこの機械は家族の分だけあるけど、よくわからなくて遊んでなかったんだよね。ゲームだったんだね」
「そうなんだ。持ってるんだ」
「うん。あんまりないってだけで全くないわけじゃないからね。帰ったら早速やってみるよ」
楓は納得したようなしなかったような気持ちで向日葵の話を聞いた。持っていたなら持ってきてほしかったが、ゲームだと知らなかったなら仕方ないと考えた。
しかし、今日こそは何か向日葵に優位性を示したかった楓。過去のことは水に流し、これからに目を向ける。
これまで何をやらせてもすぐにこなしてしまう向日葵に抜け目はなかった。
今まで見てきただけでも、スマホのゲームや勉強、水泳は楓のかなうところではなかった。
だが、今回の楓には自信があった。なにせ向日葵は初めてであり、楓は経験者。もちろん音ゲーや他のゲームでも初めてにしては十分すぎるほどうまかった向日葵だが、あくまで初めて、作戦が必要なゲームでは苦戦し、表情を曇らせていたことを楓は見逃さなかった。
何度見たかわからないストーリーをクリアし、レンタルでいいところを育成して、やっとのことで二パーティ分用意したのだ。
最初は育成の手間を省くためクラウド上に保存したデータを使おうとするも、こちらもアカウントはなくなっていた。
アカウントがなくなるほど時間が経過した世界なのかと考えたが、カレンダーの日付は目覚めた日が溺れた日の数日後で、もし生きていて目を覚ましていたらそれくらいに目覚めていたのかかなどと考えたが、楓にはわからなかった。
何にしてもないものは仕方ないということで楓はここでもゼロから準備をしたのだった。
「じゃあ、最初はやりながら説明するね」
「うん」
今回やるのは育成型対戦ゲーム。
モンスターを育成して対戦するゲームだ。
ルールは簡単、相手のモンスターを先に全滅させた方の勝ち。
これまた楓は特別上手かったわけではないが、珍しく素人相手に負けることはないという自信があった。
そのため、攻撃や能力向上等の戦い方を丁寧に説明してみせた。
向日葵がわかったと言ったところで実戦に入った。
「面白そうだね」
「それならよかったよ」
表情はあくまで穏やかだが、今日こそ鼻を明かしてやる。という意気で楓は挑んだ。
「おや?」
攻撃が当たらない。
命中不安技が当たらないことはままあることだ。
「おや?」
今度は相手の攻撃が急所に当たったうえ、追加効果が発動した。
まあ、確率が絡むゲームだから不運が重なることもある。
楓は動揺を鎮め、落ち着いて一ターン、一ターンを進めていく。
結果、必中技と命中安定技しか当てられなかった挙句、全ての攻撃を急所に当てられ、追加効果でエースを無力化され楓は負けた。
「初めてとかそういうのじゃなく、てこれはどういうことだろう」
「私の勝ちー運はいい方なんだー」
「また、勝てなかった。知ってたけど、これってないよ」
「楓ちゃんはかわいいからいいのだよ」
「くぅ」
かわいいと言われても、今日こそは勝ちたかった楓は床に拳を打ちつけた。
顔を上げ、手を合わせて向日葵を拝む。
「もう一回、もう一回やろう」
人差し指を立てながら、楓は頼み込んだ。
「面白かったしいいよ。その代わり負けた方がなんでも一つ言うこと聞くってことでどう?」
「いいよ」
向日葵の快諾に、今度こそ運だけで負けたような試合運びにはならないことを予想した楓だったが、結果は惨敗。
一度目と同じように運も絡んだが、ルールを知り、実践を交えたことで今度は完全に向日葵がゲームを支配していた。
楓は自らの敗因を真面目ゆえ、向日葵のパーティに勝ち筋を残したことだと判断していた。
この日楓は向日葵に一勝もできなかった。そもそも、自分有利のゲームを持ち出して、勝ちを取ろうとした自らの不純な行動をこれからはいさめようと考えていた。
途中から勝つことを諦め、楓は協力して進めるゲームを提案し、雰囲気を変えて気分転換をした。
対戦ゲームと違い、冗談も交えながら協力できるゲームは気楽なうえ、勝負でもないため険悪な雰囲気になることはなかった。
最初から勝負するゲームではなく、協力するゲームを選んで入ればよかったと思った楓だった。
「何をしてもらおうかなーなんでも一つかーふふふふふふ」
「あ」
もう一戦やることしか頭になかった楓は向日葵が出していた条件を聞き逃していた。
勝負に負けた楓は、不気味な笑みを浮かべる向日葵の言うことをなんでも一つ聞くという事実に背筋が凍った。
「あの、今から取り消すことって」
「できません」
「ですよね」
楽しそうに笑う向日葵とは対照的に楓は震えることしかできなかった。




