事の発端 3
エレクトラがルチルの部屋に出向くと、何故かクリスタが一緒にいた。
レイザーの発案した狩りを園遊会として実施する旨を伝えにエレクトラは顔を出したのである。
本来ならば自分付きの侍女にでも言付けてしまう話であるが、ルチルの部屋にはよくアーダン老がいる。この時もアーダンが来ている事を確認した上でエレクトラは来室したのだ。
アーダン率いる魔導師集団はシャイン公爵家にとって仮想敵ではあるが、表立って対立はしていない。ルチルに面会するにあたり、やましい話では無い事をルチルにではなくアーダンに理解させるのが目的だった。
アーダンは確かにいたのだが、何故かクリスタもいる。
(何の用かしら?)
エレクトラの頭に浮かんだのはそんな疑問だ。
今までクリスタは他の兄弟姉妹とは必要以上に接近する事が無かった。それは他を押し退けてでも玉座を手に入れたい、という分不相応な野心の表れである事をエレクトラは知っている。だからこその疑問だった。
「あら、珍しいわねクリスタ。アーダン、ごきげんよう」
ひとまずクリスタの事は置いておき、アーダンに園遊会の話を聞かせる。
「ほう、それはそれは。レイザー様の狩りの話は聞き及んでおりましたが、そういう形におさまりましたか」
「えぇ、兄上は妹達に外の空気を吸わせたいとお考えでしたが、私達に弓を使えと云われても無理な話ですからね」
「左様でございますな……ルチル様、お聞きになりましたか?ようございましたな、王子様方が狩りの間お寂しい思いをなされずに済みますぞ?」
孫であってもルチルは王女だ。アーダンは臣下としての分をわきまえてルチルへ語りかける。
その姿がエレクトラには少々滑稽に感じられた。ルチルがどれだけ理解出来ているのか疑わしい。
「良かったですわルチルお姉様。一緒に園遊会を楽しみましょうね」
ルチルの隣に座るクリスタが、気安い感じでルチルに云った。
ルチルは虚ろな目をさまよわせ、つ、と口許から透明な糸を垂らしていた。
クリスタが自分のハンカチでルチルの口を拭う。
(クリスタが!?)
内心の驚きをエレクトラは隠してにこやかな微笑みを顔に貼り付かせた。
嫌な事があれば顔に出し、思った事が口に出る娘がクリスタである。そうエレクトラは認識していた。
ジャスパーとフローラには格下を見るまなざしを向け、エレクトラには対抗心を隠しきれない、それがクリスタだ。
そんなクリスタが、自分のハンカチで、ルチルの口を拭った。
(そう……そういう事)
クリスタは自分の野心を実現する為の行動に出たのだ、とエレクトラは気が付いた。
おそらくアーダンがいる時を狙ってルチルの部屋に現れたのだ。ルチルと仲の良いところをアーダンに見せ、心証を良くする為に。
「優しいのねクリスタ」
クリスタはアーダンを取り込むつもりだ。
アーダンからの園遊会に関する質問を答えた後、エレクトラは自室に戻った。
「余計な登場人物は……物語の途中で消えてしまうものなのよ、クリスタ」