事の発端 2
「これは姉上。なに、兄上から狩りの誘いをうけたところです」
「狩り?兄上はお好きですものね。森も紅く色付く頃ですもの、狩りにはよい時期でしょう」
「はぁ、それでルチル達も連れて行く事になりそうです」
それを聞いたエレクトラは小首をかしげた。
「王子王女だけで狩りですか?感心しませんわ……どうせなら貴族の方々もお誘いすればよろしいのに」
「えぇ、自分も今そのように思い到りまして……」
「では……そうですわね、秋の園遊会とでも銘打ってお誘いすれば?兄上には私から打診しましょう」
なにやら大事になりそうだ。
「しかし姉上、貴族達にとっては急に呼びつける形になりませんか?」
「確かに急な話になりましょうが、臣下達への慰労といえば兄上が次期国王としての自覚を持ったと皆が安心すると思いますわ」
エレクトラはくすくすと笑う。
「私もたまには兄上の遊びに付き合いましょう。そうすれば兄上も賛成するはずですわ」
エレクトラはそう云ってその場を去った。
(……どんな気紛れだ?)
ブラスタは何故か独り取り残された様な気分になっていた。
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「貴族達もかい?」
レイザーは口をすぼめた。気にいらない事を聞いた時の癖だった。
「兄弟の絆を深めようというちょっとした考えだったんだが」
「兄上のお気持ちは解りますわ」
ベッドから身を起こし夜着に袖を通しながら、エレクトラは寝転がったレイザーに微笑む。
「ですが王族だけで楽しむのはよろしくありませんわ。貴族どもにも楽しみを分け与えるのが王者というもの。貴族どもも兄上のお心に感謝するでしょう」
「そういうものかな……解かった。お前も参加するというなら貴族どもも喜ぶだろう。王国一の美女が見れるのだからな」
エレクトラは兄の言葉にくすくすと笑う。
貴族や臣下がエレクトラを『王国一の美女』ともて囃しているのは本人も知っている。
しかしそれを鵜呑みにしている訳では無い。
エレクトラの後ろにはシャイン公爵家とその取り巻きがついているのだ。王国の一大勢力を担う後ろ楯を持つエレクトラに、おべっかを使わない者はいない。
エレクトラはそれを自覚している。
「兄上のお志をうければ兄上が即位した時、貴族達はこぞって忠誠を誓う事でしょう……私など添え物ですわ」
「やれやれ、王が臣下の御機嫌伺いとはな。王冠というものは大した価値がある訳でも無さそうだ」
(暗愚もここに極まれり、ね)
「貴族達への招待状は私の手の者が行いますわ……では兄上、よい夢を」
エレクトラは兄の寝室を後にした。