事の発端 1
夏が過ぎ、涼しくなった頃、ブラスタはレイザーから秋の狩りに誘われた。
「猟場の鹿が今年は多く増えたからな、気晴らしにどうだ?エレクトラは狩りが嫌いだから来ないだろうが」
屈託の無い笑顔でブラスタを誘う。
「兄上がお望みですならお供しましょう」
「うむ、猟場に鹿が増え過ぎると近隣の農夫達に迷惑だからな。そうだルチル達も連れて行こう」
「……あの者は弓など弾けませんよ」
ジャスパーはまだしも、猟場に女子供を連れていってどうするというのか。邪魔なだけではないかとブラスタは眉をひそめる。
「ブラスタ?妹に『あの者』などと……他人行儀だぞ」
レイザーはブラスタの言葉をたしなめた後、話を続けた。
「あの子達はいつも部屋にとじ込もっているだろう?部屋から出ても回廊から外に出るわけでも無い。たまに兄妹で過ごすのも一興だ。なに、妹達は狩りなどせずに野原でのんびりさせてやればよい」
「……兄上がお望みですなら」
阿呆かとブラスタは思う。
野原に置いてきぼりにするなら『兄妹で過ごす』とは謂わないではないか、自分達は狩りの為に森の中をうろつくのだ。
「うむうむ、ではルチル達の処へ行って話を通してこよう」
レイザーはブラスタに別れを告げると彼女の部屋へ向かって行った。
まめな性格と云えば聞こえがいいが腰の軽い男だ。そこは侍従にでも言付けるものだろうに。
そうでなければ自分に命令すればいい。弟とはいえ自分は臣下の位置にあたるのだ。
(次期国王の所作では無いだろう、まるで)
田舎農夫の長男だ、田舎言葉で喋っていないだけで。
ブラスタは苦虫を噛み締める。
気晴らしにと云うがレイザーは年中気晴らし三昧ではないか。
確かに今年は猟場に鹿が増え過ぎていると聞いてはいた。
放って置けば近隣の畑に被害が出るというのも解る。
しかしブラスタの場合、ならば猟場を一時解放して近隣の農夫達に狩りをさせればよいではないか、と考えるのだ。
王族が狩りをする場合、護衛の兵どもをぞろぞろ引き連れてとなる。レイザー一人ならまだ護衛もレイザーに近しい者達だけで済むだろう。
ところがレイザーは王子王女を全員連れ出したいらしい。どれだけ護衛が必要になるか解っているのだろうか?
貴族達や賓客を交えて、という形ならまだましというものだ。晩餐会などと同じで交流の場となる。意味のある行楽になるだろうに。
「どうしましたブラスタ?」
エレクトラが後ろから声を掛けてきた。
どうせ内容は知っているはずだと思いながらブラスタは振り向いた。