クリスタ
「あぁ、誕生日が待ち遠しいわ」
クリスタは独り言を口にした。
思った事が口に出る。頭で考えをまとめるのが苦手な質のクリスタは、いつも自分の部屋でこうして独り言を云ってしまうのだ。
「私もやっと十五歳になるのね、正式に王位継承者として認められるんだわ」
もちろん、自分の上には五人の継承権を持つ兄弟姉妹がいる。
が、少なくとも六位ではなく五位になる。クリスタはそう信じている。
「ルチルにはもう継承権はいらないんだから当然よね……そうそう、エレクトラ姉様だって輿入れするんだから継承権は消えるわ」
そうなれば四位にまで跳ね上がるのだ。上にいるのは男子ばかり、姉妹では一番になる。
その男兄弟とて、馬鹿なレイザー、喧嘩っ早いブラスタ、弱虫ジャスパーだ。
充分に王位を望める位置ではないか?
「あの三人を追い抜かすには何が必要なのかしら?」
クリスタは考える。
「エレクトラ姉様の発言力が強いのはやっぱり公爵家の後ろ楯があるからよね。その点ではジャスパーやブラスタ兄様より私の方が有利だわ。でもレイザー兄様を抜かすには」
もっと後ろ楯を増やさなければ。
「公爵家を取り込む?いいえ、エレクトラ姉様がいるうちは無理よ」
早いところ輿入れしてしまえばいいのに。
部屋をうろうろと歩きながらクリスタは考える。
シャイン公爵家に対抗出来るだけの勢力となれば、おのずと決まってくる。
「アーダンの爺……アーダンの一派を取り込めれば。そうよ、ルチルにはもう望みなんて無いんだから私に鞍替えさせればいいんだわ」
いまだにルチルの世話を続けるアーダン。それはやはり孫だからだろう。
「ルチルに優しくすれば?……そうじゃないわね、私が王位についた暁には彼女を保護するなんてどうかしら?」
例えばルチルを公爵に据える。名ばかりで構わない。要は高位貴族にする事で以後の生活を保障するのだ。
他の兄弟姉妹はその様な事はするまい。王宮の一室をあてがって放置するはずだ。アーダンに自分が王位についた時ルチルへの保障を確約すれば……
「問題はどうやってアーダンとつなぎをとるか、よね」
アーダンとは面識はあっても全く付き合いが無い。
クリスタの年齢では会議会合などに首を突っ込む事は出来ず、舞踏会や宴席には逆にアーダンが顔を出さないのだ。面会する機会がまるで無いのである。
「やっぱり、ルチルと仲良くするべきね」
日に一度は必ず孫に会いに来るアーダンだ。歳の近い姉妹がルチルの面倒をみていると知れたら、感謝してクリスタに好印象を持つだろう。
そうなれば話をする機会は必ず訪れる。
「しょうがないわね、よだれ女の口を拭う事にしましょう」
小汚いから触りたく無いんだけど。クリスタは方針を決定したのだった。