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毒蛇の巣  作者: CGF
29/29

毒蛇の巣から出て



「そうか……そうなったか」



ベッドの上に身体を起こし、背をもたれて座ったレイザーは感慨深そうに云った。


その傍らにはルチルの姿がある。


その胸元によだれ掛けは無く、愚者を装い会話を制限する為の石もくわえていない。


「エレクトラ姉上の毒薬購入にはシャイン公爵エーベルも関わっておりましたわ。近く沙汰を出すつもりです」


「公爵家の反発があるよ、国を支えていたのは事実だ。良かれと思って」


「良かれと思ったからといって、王妃達を殺してよい事にはなりませんわ」



アーダン老の調査により、エレクトラ以外の王子王女それぞれの母達はエーベルによって暗殺された事が判明している。


まだ痛む身体に顔をしかめながらレイザーは身じろぎした。



「っっ……ふぅ、怪我すると解っていたけど、きついな」


「兄様が落馬の受け身が上手だと聞いてましたから」



戦となれば馬から落ちる可能性は充分ある。王族の乗馬訓練に受け身は欠かせない。



「まぁね、何度も落馬訓練をすれば上手くもなるさ……ジャスパーには悪い事をしたな」


「あの子は王家を出たがっていましたから。決心させるには汚れ仕事をさせるのが一番でしたので」



ジャスパーが何者かから受け取った一本の矢。


それはレイザーの馬を狙う為のものだった。


渡した『何者』かが誰か、記さずとももはや明白であろう。


そしてレイザーはその事を知っていた。受け身によって頭部を守り、死を免れたのである。





「ブラスタは釈放したのだろう?」


「いいえ、レイザー兄様を暗殺しようとした罪をかぶっていただきます」


「それは……」


「ブラスタは他国の軍を招きよせようとしていました。王子暗殺より売国の方が罪は重いのですよ?レイザー兄様の件は表向き『事故』で処理します」



ルチルの説明にレイザーは溜め息をついた。



「確かに『馬鹿王子』一人死んでも国は揺るがないが、他国の軍が来たら戦になるか」


「後はレイザー兄様の即位戴冠ですわね」


「おいおい、言っただろ?お前が王冠を被るべきさ」








気持ちの良い朝。農夫達が広い畑を丹精している。朝食の前、陽が昇ると共に起き出し畑に出るのだ。


その畑には農夫にまじり、地主の使用人達の姿も見られた。皆が作物の実りを確かめて笑顔になる。


今年は豊作になりそうだ。




「お兄様~、皆様~、朝ご飯ですわよ~♪」



まだ幼さの残る娘が地主の屋敷から出て、皆を呼ぶ。


その口調はこの辺りのものではない。



「ふぅ、やれやれ、結構大変だね」


「若様、なにも儂らと一緒になって畑仕事なんぞせんでも」


「いや、やらせておくれ。楽しいんだ、こうして少しづつ作物が育つのを見るのがね」



屋敷から走ってくる妹を見ながら若者は思った。



(あんなに元気な姿は……あの毒蛇の巣では見られなかったな)



「ジャスパーお兄様~、ご飯ですわよ~」









───────終

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― 新着の感想 ―
[良い点] 遅れ馳せながら完結お疲れ様でした! やはりルチルはそうでしたか! 見事な謀略! そしてジャスパーたち! 幸せになって欲しい! 魑魅魍魎の世界に咲いた二輪の花! 爽やかな終わり方がいいですね…
[良い点] 熾烈な政治闘争の様子を非常に上手に表現できていたと思います。 毒蛇の巣というタイトルも実によく合っていたと思います。 [気になる点] 長男が少し意見したなら、結末は変わっていたんじゃない…
[良い点] いやあ、良かった。 こういう話、大好きなんですよね。 骨肉の争いの詰め合わせをたっぷり堪能しました! 企画参加ありがとうございました!
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