会議 3
「下手人が誰かはともかく、疑惑の念は消えないでしょうね」
エレクトラは憐れみをこめた眼差しでブラスタが消えていった扉を眺めた。
……むろん、演技ではあったが。
「ですが、我が弟の提案は一考に値します」
「エレクトラ殿下、日を改めては?」
諌めたのはエーベルだ。孫であっても公平性を保つ建前での発言である。
「いえ、よい機会でしょう」
「!?」
思惑と違うエレクトラの言葉に、エーベルは目を見開いた。
「凶事は続く。確かに続いてしまいましたわ、これ以上の凶事は続いて欲しくありません。ブラスタの残した提案、詮議してしまいましょう」
しんと静まりかえった会議の室内、エレクトラが立ち上がる。
「兄レイザーが不測の事態、クリスタが暗殺され、ブラスタに兄レイザー暗殺の嫌疑がかかりました。これ以上の凶事、続かぬうちに兄レイザーの継承権を白紙に戻すべきと私は思います」
「……致し方ございませんな」
エレクトラの思惑がどこにあるか、本来なら他の重鎮らに根回しをしてから詮議するつもりでいたエーベルだったが、ここは話に乗るべきと計算した。
エレクトラは話を続けた。
「兄レイザーの継承権を白紙に戻す。これは兄上の廃嫡と同義です。非常に辛い決断ですがハイダル王国の未来に関わる事、私情ははさめません」
そこで、とエレクトラは一堂を見渡した。
「先ずは現存する継承権者ですが、ブラスタ、ジャスパー、私、ルチル……フローラは成人しておりませんが加えるとして」
「あ、姉上、お待ち下さい」
話の腰を折ったのはジャスパーだった。
「ぼ、僕は……継承権を返上します、フローラも」
「……どういう事かしら?」
「僕たちは、その、妾腹ですから……民が承服しませんでしょうし、王位に就く器では……ありません」
小刻みに震えながらジャスパーは云った。
エレクトラの顔を見る事が出来無い。
「そう……仕方無いわね」
ジャスパーをどうするべきか内心思案していたエレクトラにとっては、ありがたい申し出であった。
「では、継承権者は私と……あら、私だけという事になってしまいますわ」
エレクトラはさも今気付いたと謂わんばかりに云う。
「お待ち下さい殿下、まだブラスタ殿下とルチル殿下がおりますぞ?」
静かに反駁したのはアーダン老である。
(まぁ、貴方ならそう云うでしょうね)
「確かに。ですがルチルは……この通りですわ。そしてブラスタは、未遂ではあっても兄上の暗殺の容疑がかかっています。疑惑とは謂え、その様な者に継承権を残す事は出来ませんでしょう?」
「疑惑であっても、継承権は認めない。その解釈でよろしいのですかな?」
「それが何か?当然でしょう」
アーダンはしばしエレクトラを見詰めた。
と、あらぬ方向に目を向ける。
「継承権の剥奪は当然だそうでございますぞルチル殿下」