会議 2
会議は予算の使用状況と公共事業の進捗報告から始まり、王家直轄地からの陳情、領主貴族の領地経営に対する援助要請と、通常詮議される議題が続いた。
そのほとんどはエーベルやアーダンなどの重鎮が意見を交わし、処理されていく。
過去にはルチルが意見交換に参加したものだが、会議に出席しなくなって以降、父王テランや王太子レイザーが発言した事は無い。
この会議でもエレクトラ以下王子王女の発言は無かった。
重鎮らにしてみれば、王家の者に会議の成り行きを記憶してもらえれば良いのであるから、無用な発言は進行の邪魔でもある。
「それでは議題も尽きましたので」
進行役が会議の終了を臭わせると、ブラスタが立ち上がった。
「通常の議題が終わったというなら、こちらからの提案を吟味して頂きたい」
「ブラスタ殿下、どの様な内容でございましょうか?」
「知れたこと、兄レイザーの処遇についてだ」
重鎮達がざわめくなか、ブラスタは語った。
兄レイザーは園遊会において落馬、いまだ生死の境をさ迷っている事。
その理由は頭部への魔法治療が禁じられており、快復は難しいであろう事。
仮に快復したとしても継承権者としての責務、将来の即位は望めないであろう事。
「斯様な状況を鑑みるに……兄レイザーの王位継承権を一旦差し止め、再詮議すべきと思う」
「お待ちあれ、ブラスタ殿下」
口を開いたのはエーベルである。
「レイザー殿下ご本人の意向もはからず詮議するわけには参りませんぞ」
「兄上が意識を取り戻さず、妹クリスタまで凶事に倒れたのだぞ!」
もちろんエーベルは心から反対しているわけでは無い。形式上の事だ。その程度はブラスタも解っている。
ブラスタは次の言葉を口にする直前、ルチルの方をちらと見た。
「……凶事は続くもの、と余人は申すが思えば妹ルチルの事件より凶事は続いている。いや、我等王子王女の母達の事もあわせれば凶事続きだ。次は誰だ?」
「さ、それは」
「父王ももはや妻帯する気はあるまい、ならば凶事を祓う意味でも兄レイザーの『廃嫡』を詮議すべきである」
言い切るとブラスタは鼻息を強く吐き出した。
言うべきことは言った。もとより重鎮達もレイザーの今後について考えていたはずである。この話に乗らない理由は無い。
誰がそれを最初に切り出すか、互いに牽制していたのだから渡りに舟であるはずだ。
これで自分の思う様に話を進められる、ブラスタはそう確信した。
「……兄上を廃嫡する前に、私からも申したい事がありますわ」
冷ややかに、言葉をつむいだのは隣席のエレクトラだった。
「姉上?なにか」
「兄レイザーの落馬事故、いいえ暗殺未遂について」
「な!?」
「暗殺!?」
「どういう事ですか!?」
室内がざわめきに包まれた。
「いったい、何を」
「とぼけてはいけないわ、ブラスタ」
エレクトラは卓上に何かを放ってみせた。
カラカラ、と音を立て転がったのは……
「うっ……」
「覚えがある様ね、ブラスタ」
……それはレイザーの馬に刺さっていた矢。
ブラスタが折り、捨てたはずの矢である。それも矢羽側と鏃側の両方。
「鏃の方は兄上の馬の死骸に残っておりました。折れ口を確かめれば一本の矢と判りますわ……そしてこの矢羽は」
「ち、違う」
「ブラスタ、貴方の矢ですわね?」
「違う、俺では……」
「申し開きは後の機会になさい……誰かある!」
エレクトラの呼び出しに兵士がなだれ込んだ。
違う、違うと口にするブラスタを取り押さえ、引き摺っていく。
「待て!俺では……俺は違う、違うのだ!」
その声は徐々に遠退いていった。




